前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > 映画コラムトップ > バックナンバー
 
 

Vol.14 (2006/04/14)  映画「タブロイド」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『タブロイド』を鑑賞
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


上映間もなく、恐ろしくリアルな私刑シーンがひたすら続く。
息をつく間もなく引き攣る。
映画の中の造り事ではなく、
本当のリンチ現場に居合わせてしまった恐ろしさがひたすらに続く。

この人たちは本当に役者なのだろうか?
画面に大映しになっている、ガソリンを撒かれ火をつけられ、
炎にのた打ち回っている男は?
その男を蹴り飛ばし転がす男は?
己の不満の捌け口にするかのごとく暴力を煽り立てる群集は?
画面の端にときどき姿が覗く、赤子を抱きかかえ泣き叫ぶ女は?
これが、映画のための演技として撮影されている情景なのか?
と問いたくなるほど、『タブロイド』に見る映像は自然だ。

だからこそ怖い。
俳優たちの演技、映像の質感、寄りでも引きでもない、
敢えて半端なフレームのサイズ、
すべての演出で「自然」を作り出していることにすっかり感心してしまう。

映画の現場は、南米エクアドル。
ガラパゴス諸島のように美しい大自然を持つ
「楽園」というプロフィールを持つ一方で、
未遂を含めれば1.4時間に1人が命を狙われ、
殺人犯の検挙率は13.5%という、過酷な社会問題を携えた国だという。

貧困。
暴力。

ここでの生活は、「やりたいことがわからない」とか
「夢が見つからない」などということが
まるで人生最大の悩みになってしまうような、ここ日本とはまるで違う。
悩む前に、まず生きていかなくてはならない。

この地で、子供ばかりを狙った連続殺人事件が起きている。
この事件を追って、マイアミのスペイン語放送の番組から取材にやって来たのが、
ラテン系アメリカ人の人気TVリポーター:マノロ
美貌の女性プロデューサー:マリサ
そしてメキシコシティ出身のカメラマン:イバン。

実際に、マイアミの局から放送される
スペイン語放送が南米を網羅しているそうで、
よってマイアミの局リポーターのマノロは、
ここ南米エクアドルでも有名人なわけである。
貧困にあえぐエクアドルの情景に、彼らの出で立ちは浮いている。
そう、つまりアメリカナイズされている「テレビマン」。
彼らはこの地の刑務所で、
連続殺人犯モンスターを知ると語るビニシオ・べセタと接触する。
自分のインタビューでスクープを取りたいと望む、リポーターのマノロ。
情報を教えることで冤罪を晴らしたいと願う、信心深いカトリックのビニシオ。

やがて物語は、情報を売ろうとするビニシオ自身こそが
「モンスター」であることを匂わせていく。

さてここからだ。

自分のインタビューでビニシオに自白させたいという野心に支配される、リポーターのマノロ。
犯罪を暴く証拠をつかんでいながら、
スクープインタビューをものにしたいあまりに、
警察に突き出すべきところを躊躇する。
そのせいで、これ以上犠牲になる子供を増やすとしたら?

自分がモンスターということをばらしてしまう気など毛頭ないが、
心の闇を人に吐露したい一瞬を覗かせるビニシオ。
自分の小出しにする情報に躍らされるマノロを使いながら、
自分の心の闇の深さに怯えもすれば恍惚としてもいる。
モンスターが、一方では愛する家族への優しい父親であり
敬虔なカトリックだとしたら?

まさか、
「この人が殺人者なのか!?」なんて犯人捜しや、
「マノロはスクープをものにできるのか!」なんて陳腐な煽りが、
勝手に観客の目標に設定されてしまうような浅はかな映画ではない。

ここから、
リアルに描かれる人間の複雑な多面がより描かれ始める。
相手に駆け引きをしながら、自分にもおそらく駆け引きを始める。
観客こそ、マノロに不安を抱きながら、共感してしまったとたんに罪悪感を覚え、
観客こそ、「モンスター」であるかもしれないビニシオに疑問や恐れを抱きながら、
まったく別の面を見せられもすれば、
あわや理解する努力をしようとしていることに慌てるのだ。
作品データ
『タブロイド』
監督/脚本:セバスチャン・コルデロ
制作:アルフォンソ・キュアロン
出演:ジョン・レグイザモ、レオノール・ワトリング、ダミアン・アルカザールほか
配給:東北新社/2004/メキシコ・エクアドル


ダータ(data:ソマリ♀)2006

“近況”
花粉症が先に来て、昨日風邪にまで来られてしまいました。
全然呼んでないのに!
用心してたのに!
花粉症+風邪の「鼻」は史上最悪です。
×2×2にば〜いにば〜いです(泣)
今週は西脇先輩の代わりで「やじうまプラス」の毎日。
気合だーーーーっっっ!!!
うぉっうぉっうぉっーーーーーー!うぇっ!(冗談です)
(2006.2.10掲載)

   
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > 映画コラムトップ > バックナンバー