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Vol.7 (2004/06/14)  映画「下妻物語」
 
『下妻物語』
好きになった。
なんせ今の私、「もう一度観たい『下妻物語』!」くらいの勢いなんだからまいってしまう。

公開初日の朝一番の回に「日比谷シャンテ」窓口に仁王立ちしていたのは、状況と気分の「たまたま」が重なった結果。
朝一番の『下妻物語』。気になっていたからといって、早起きして映画へGO!という性質でも体質でもない。だからこうした時間駆け込むに相成ったのは、どこまでいっても土曜早朝の「やじうまプラス」に出演しているからに尽きるのであって。「〜から」「〜から」とうるさい文章!でもなんだかそんな風に武骨に説明していきたい気分になるのは、観終った今気持ちよく感じる、この映画の背骨が通った感じのせいかな。
とにかく、朝番組終わりで会社をおん出た。本気で「朝だったら空いてる」と決め付けて、ぎりぎり到着でも余裕で座れると踏み。
馬鹿です。
公開初日の初回といえば舞台挨拶。空いてるどころか120%の満席以上。再三午前中の舞台挨拶には司会の仕事で行っていたくせに、こうまでぴんと来ない自分に苦笑もいいところ。「話題作&舞台挨拶」という状態の中やすやす入れるわけも無いではありませんか。←誰に言ってるのだろう。
ここまで来たのに帰れるか。と結局第2回上映まで待つ。
次のチケットすぐ買っとけばいいのに、これが余裕みせて時間を使いすぎてしまった。
第2回上映の30分前に窓口へ行った時には既にチケットがラスト一枚!?それも指定席1800円のみ。泣く泣く自腹指定席で『下妻物語』+舞台挨拶を堪能という状況下に。

ここからやっと中味の話、本題の始まりです。つきあいきれない、とここらで愛想をつかしてしまわれた皆様「さようなら」、そして、前段のくだらなさ加減に愛想をつかしてすっ飛ばし読みでこのあたりにワープしてきてくださった方々「こんにちは」。
 

『下妻物語』
です。
 
 いい味でした。1800円出す価値充分ありました。「こんな友達が欲しい」とぬけぬけと言ってしまいたくなるほど、主人公の女2人を好きになってしまったのでした。まずい、こうして話していることに照れる。そんなに信じてないくらいの関係の人と対峙するときには必ず携えてるはずの自分の「ツッパリ」を、『下妻物語』にぺろりと脱がされてしまったような気分。

主役の竜ヶ崎桃子(深田恭子)と白百合イチゴ(土屋アンナ)、二人の具合がとてもいい。
フリフリのロリータファッションに身を包みながら、冷めた眼で、少し斜に構えて世間を見る桃子の「ドライな毒気」。ヤンキーするのにも必死な覚悟が見え隠れするイチゴの「裏腹な虚勢」。それぞれが、やけにいい。

 イチゴ(ヤンキーファッション) 「ヒトを見かけで判断するのは良くないよな。」
  桃子(ロリータファッション)  「そんなことないよ、ヒトは見かけでしょ?」  

会話から覗く、社会へ向ける目線の距離感や角度がいちいちいい。

『下妻物語』。わが道を行く少女二人と、「『正しい社会』からはみ出た大人たち」の物語。正しいのか正しくないのかという物差しではかればはみだしてることになるのだろうけれど、これが愛嬌たっぷりに描かれている。
だって。一点の曇りもない、心が澄み切っている、純度100%な人は素晴らしいのだろうけれど。でも、やたらに心がきれいなヒトとして描かれてる主人公とか、がんばることが美しい!前向きすぎるヒロインだとか、風紀委員的なメッセージとか、たとえ正しくても正直魅力を感じない。
現実の世界でも同じ。そそられない、引きつけられない。少なくとも、憧れない。

『下妻物語』はいい。例えばダメ人間なりにそれぞれを生きてくスタンス、例えば周りとの接点の持ち方、例えば自分以外の人間との距離の取り方。どれもがいい具合に描かれる。
ベタツキ感ゼロ。いい。

突然だけれど、何事にもいいかげんな私とはいえ、人との関係に対してはこういう信念を持っていたりする。
「そいつが困ったときに助けてあげられるかどうか。」
普段どうでもいいことでつるんでいようといなかろうと、それが関係を左右することじゃないというか。
上っ面だけつるんでどうでもいい褒めそやし合いをしていながら、その人が本当に困った時になんの役にも立たないんじゃ、友達でも友人でもない。どころか、普段つるんどいて終いには陰でくすくす笑ってるなんて最悪なケースも眼にするわけで。そんな関係なら、いらない。
 「そいつが困ってても助けてやれないなら、偽善励まし言葉は邪魔。」
そう思うようになって、自分以外の人の挙動に対して見る目も変わったように思う。
リップサービスがうまい人が「いい人」とは限らない。
でも、そうした信念を時に己に言いきかせているということは。何があっても平気とはいかないかもしれないから「ツッパリ」を用意しておかなきゃいけない、という不安の裏返しでもあったりするわけで。

桃子とイチゴが、そんな気質の二人だったもんだから。
桃子が大好きなロリータのお洋服に身を包んでフランスのロココに思いを馳せるのも、イチゴが特攻服着て原チャリ暴走するのも、それぞれ自分なりの「ツッパリ」という武装のかたち。強くて完璧な人間なら逃避も虚勢も要らない。そのあたりの、「人間って難しい!」という気分がとてもチャーミングに描かれている。十代ならではのほろ苦加減も絶妙だ。

「女の友情」、と言葉にするとどうも胡散臭いものだし、「女の子二人」というと、甘さ重視の物語を連想しがちだし、私はちょっと、俺はちょっと・・・ともしや退き気味の皆々様。大丈夫!全然違います。是非観にいってみて、お勧めです。
少なくとも私は、気骨ある女二人が無骨に関係を成立させていく様に、とても好感を持ちました。好きだあ。

『下妻物語』生みの親、原作者の嶽本野ばら氏と、映画にした中島哲也監督。男性の手によって、こんなに骨の通った「美学」のある女の関係が描かれたことに、感動すら覚えています。
すっかり桃子とイチゴのことばかりにしてしまったけれど、彼女たちのいる風景、ヒト、登場する何もかもが巧みに描かれていて、これにも畏れ入る。
茨城県下妻市や東京の代官山と実際の町でロケーション撮影しながら、「日本という国にこんな街があったとさ・・・」と、異国の誰かに物語られてる感覚を引き起こす質感の映像に仕上げられている。桃子が通う代官山の店、ロリータファッションのメゾン『BABY,the stars shine bright』においても然り。独特の感触、テンポ、リズムでスクリーンの世界に運ばれていくから、「実在×ファンタジー?」という不思議な喜ばしさを沸きおこさせてくれる。それはもう、中島監督による計算済みの素敵なセンスにあふれているのです。

 最後に一つだけ。
イチゴを演じた土屋アンナさん。実は個人的に前から好きな人なんだけども(イタリアかぶれな私にとって、『イタリア語講座』に彼女が出演していたのも、更に「好き」に拍車をかけている)。本格演技経験は無く、実質『下妻物語』が女優デビュー作品となったわけです。人気モデルさんなので女性からすれば相当な認知度のはずだけれど、敢えてこうしてお伝えしているのは、男性陣にとってはそうでもないみたいだから。
男性諸氏。スクリーンで初めて土屋アンナさんに出会うというあなただとしたら、相当覚悟してかかったほうがいいですよ。この人、ものすごい引力持ってるんですから。ぐわんぐわん心置きなく魅力に吸い込まれてください。
私もますます惚れました。

以上、『下妻物語』最高物語でした。

■作品データ/『下妻物語』
監督・脚本:中島哲也
原作:嶽本 野ばら
音楽:菅野よう子
出演:深田恭子、土屋アンナ、宮迫博之、篠原涼子、 阿部サダヲ、
    岡田義徳、小池栄子、本田博太郎、樹木希林、他
配給:東宝/2004年/日本/102分
※現在、公開中

■『下妻物語』公式サイト

http://www.shimotsuma-movie.jp/

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《近況報告》
猫。
とうとう、仔が母親の倍以上の体格になりました(=。=)
メスなのにまるで雄獅子。唐獅子?いやいや、せめて雄獅子。
母猫と違ってメス猫特有の色気もへったくれもない。
よりによって「donna(ドンナ)=イタリア語で女」
なんて名付けてしまったもんだから、
今となっては笑うしかない。
人間の児を産むときの教訓にするか。
なんてぼやいてるふりしておいて、
本当は可愛くてしようがないのよっ!!「ね〜、ドン太☆」
ありゃ?
   
 
    
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