前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > 映画コラムトップ > バックナンバー
 
 

Vol.6 (2004/05/18)  映画「ホストタウンーエイブル2−」
ソマリの「ドンナ」仔猫時。8ヵ月後の姿が、コラム末尾にてお待ちしております。

『ホストタウン −エイブル2−』
 

 ドキュメンタリー映画である。
 アイルランドの首都ダブリン、その郊外に暮らす14人もの大家族。映画の中心となるのは、18歳の三女、エイミー・パーセル。知的障がいを伴うダウン症だ。パーセル家が暮らすこの町に、2003年6月、知的障がいのあるアスリートの祭典「スペシャルオリンピックス」夏期世界大会がやってくる。

 前作『エイブル』から2年。ダウン症の日本人少年二人がアメリカにホームステイする姿を愛おしく魅力的に映し出したドキュメンタリー作品『エイブル』は、単館での公開後口コミで話題を呼び、結果全国約200カ所で10万人以上もの人々が鑑賞するに至り、ひいては毎日映画コンクール記録文化映画賞を受賞した。その監督、小栗謙一作品『エイブル』2作目となるのが、今回の『ホストタウン』である。

 こうして紹介すると、「障がいを乗り越えよう」などの声高な啓蒙をイメージして、退き気味に感じる人もいるかもしれない。
 この映画の魅力は、まさに「そうでないところ」にある。
『エイブル』という映画が、大上段から「障がいを乗り越えたまえ」と宣うような立ち位置とは根本的に異なるからこそ多くの人々の思いを捉えたように、今回の『ホストタウン』も、家族の一人、地域に暮らす一人としてのダウン症のエイミーの日常を丁寧に映し出し、挫折も苦しみも、挑戦も喜びも、あくまで隣に佇むように映し出している映画なのだ。

 エイミーの活き活きとした愛らしさに驚く。
 級友との学校生活を楽しみ、時には家族に悪態をつき、兄弟とはしゃぎ意見する彼女の姿は、実に凛々しくチャーミングだ。そんなエイミーが、アイロンのかかったブラウスにきりっとネクタイを結んだ制服を着て、母ジョージーに髪をきれいに整えてもらったいでたちを前にすると、正直、「ダウン症」に対するイメージを飛び越えさせられてしまう。
 だからこそ、スクリーンの前ではっとさせられると同時に、固定観念という存在を再認識するに至るのも事実だ。
 砦が構築されてしまう原因を考える。そこには、「知らない」という無知、あるいは無理解があるだろう。また、障がいのある人の物語に対して、「自分が当事者でないのに何を言ってもきれい事になるではないか」、増してや、はからずも「同情」という目線に立った傲慢な感想を抱いてしまうやもしれない、という己に対しての不安。
 まさにそうしたものを、エイミーとその家族達、地域の人々の生活は、飛び越えてしまっている。
 大家族という特性も大きく関与しているのだろうか、彼等、エイミーの家族達は「常に普段」だ。
常に普段であると書いたのは、そこにエイミーに対する特別扱いがないからだ。もちろん、困ることに対しての手助けはする。でもそれは、エイミーがダウン症であるからではなく、愛する家族の一人であるから、というスタンスにぶれがない。家族だからこその辛辣な言葉を投げかけることもある。よく言う「腫れ物に触るような」接し方とは無縁だ。彼等の暮らすコミュニティにしてもそう。家族が彼女を外界から遠ざけざるを得ない風土がない。そんな関係性の中で、エイミーはこうした質問を父に投げかける。
 「私はいつからダウン症になったの?」
 「言っただろ、生まれたときからずっとだよ。」

 日常の生活の中で彼等が共に暮らす地域性を目にし、はっとさせられると同時に、日本での我々の日常を思い浮かべざるを得ない。
 この町に、「スペシャルオリンピックス」がやってくるのだ。
 2003アイルランド夏季世界大会(第11回)。エイミー達の暮らす町は、知的障がいのあるアスリートの祭典「スぺシャルオリンピックス」に出場する「日本選手団」を迎えるホストタウン。(「ホストタウン」というと、日本では、2002年のワールドカップで、カメルーンのホストタウンとなった中津江村が思い浮かぶ。)町全体が、知的障がいのある日本選手団を迎えるために手厚く準備する様は、「人をもてなす」「迎える」ということの本質を今一度考えさせられずにいられないほど、優しさと愛情に満ちている。
 また、観客で埋め尽くされたダブリンのスタジアムに、世界166の国と地域から集まった7000人ものアスリートと共に、ネルソン・マンデラ、モハメド・アリ、U2、ジョン・ボンジョビ、シュワルツェネッガーなど各界のサポーターが集う様は、スポーツイベントのドキュメンタリーとしても、身震いがするほど感動的な映像だ。

 それぞれのサイズで、きっと心に一つ大きな宿題が残る。
 「隣にいること」の意味とは。私も今、自分サイズで考え中。

■作品データ/『 ホストタウン エイブル2』
監督・製作:小栗謙一
製作総指揮:細川佳代子
製作:able2製作委員会
ナレーター:マラキ・マコート
配給:ableの会/
    2004年/日本/101分

■『ホストタウン エイブル2』公式サイト
http://www.film-able.com/

この映画情報はテレビ朝日のメールマガジンa-friens で皆様のお手元にも配信されます。
会員登録はこちらへどうぞ。http://www.tv-asahi.co.jp/a-friends/contents/magazine/cnm.html

めっきり「獅子」。本当は雄なのか?と疑う今日この頃ゴロロ・・・
   
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > 映画コラムトップ > バックナンバー