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Vol.5 (2004/04/09)  映画「ディボース・ショウ」
ディボース・ショウ
  『マスク・オブ・ゾロ』で初めてその姿を見たとき、ヴィヴィアン・リーを思わせる人だと思った。
キャサリン・ゼタ・ジョーンズ。
以降メジャーになるにつれ、ハリウッド的濾過装置でアク(『ゾロ』のときに感じたエキゾチックな魅力)を取り除かれ薄められてしまったような感じがして勝手に残念に思っていたが、それが余計なお世話もいいとこだったことといったら。やっぱりまた、この人にしかない瞳の魔力にやられてしまった。妖しく光る濡れた瞳。その先には標的を捉えているのか、はたまたそこに在る物
には目もくれていないのか。そんな風に、こちらを惑わせる湿度の高い視線。
大変魅力的でした。

正直、今張り付いているのは、この人のあれこれとしたあちこちばかり。「それじゃ映画は面白くなかったの?」ということになりそうでひやひやし始めたところ。
幸いにも!そういうことではなく。
スターの華やかさ、その光の眩さが作品の描くテーマにとてもマッチしていたから、ゼタ・ジョーンズの魅力にやられてしまったというのは、言ってみれば監督の目論み通り、作品の大成功ということになるのでしょう。

映画の舞台は豪邸立ち並ぶ富の街。そこに二人のスターが放つ華やかさが乗っかって、チープなヒカリモノ的きらびやかさとは一線を画したラグジュアリーが揺蕩う仕上がりになっています。
『ロサンゼルス特有の態度やライフスタイルで語られているので、舞台を変えたら全く違うものになっていたでしょう』と語る監督ジョエル・コーエン。
確かに映画に描かれるのは、とてもアメリカ的、それも都会のハイクラスの人たちにとってのアメリカ。たとえば同じお金持ちを描くにしても、モナコやミラノのように、貴族の系譜を受け継ぐような歴史の重みを感じさせる舞台では、全く違った趣になるでしょう。
歴史的な系譜の対局。「今=一代、まさに自分の代で金持ちになること、金持ちでいること、それが勝者。」というアメリカ的な価値観を時に皮肉りながら、「婚前契約(男と女が結婚をする前に財産分与を決める契約)」というモチーフを使って、「本当に人が幸せに生きることってそういうことなのかね?」という問いを胸にこだまさせる格好になっている、それも気恥ずかしい生真面目な投げかけではなく、ひねりのきいたユーモアを交えながらあくまでスマートに。という描き方そのものも、私が思うアメリカらしさにビンゴ。
 婚前契約とは資産のある側の人間を守るための契約で、離婚によって相手の財産を自分のものにしようと目論む側にとっては、これが邪魔になるわけです。後者がゼタ・ジョーンズ演じるマリリンで、セレブリティたちの離婚訴訟を専門に成功を収めた弁護士を演じるのがジョージ・クルーニー。彼が「白い歯」を維持するのを生き甲斐のようにしていたり、離婚で莫大な財産を手に入れた「奥様」達がコラーゲン注射や美容整形に精を出し、「ステイタス」とされるものにしがみつく様が滑稽に描かれます。笑わずにはいられない一方で、そこには表裏一体の悲哀がにじむ。このあたりが見事。
こんなにスマートに展開しておきながら、やっぱりお金より真の愛だ!なんてテーマに行き着こうとしたら承知しないから、なんて思いながら見ていると、「やっぱり愛だけじゃどうにもならんのじゃー!」と己の財産に目を血走らせたり、これまた人間の悲哀がユーモアたっぷりに描かれる展開がまだまだまだまだ用意されていることも添えておきましょう。
 
 愛とお金。ずーっと天秤にかけ語られながら、「答えなんてどうすりゃいいのさ!」と、ともすれば泥臭くなるテーマを、二人のスターの光源を使って巧みな眩さで描いたコーエン監督のお陰で、気持ちよく、いいあんばいに軽やかにうっとりすることができました。
使用上の注意*観賞後、落差ある現実へのスイッチに落胆がともなう覚悟でお臨みください。

萩野志保子 近況報告
 最近、もう一匹猫がほしいと思い始めた私です。身体的に猫アレルギーという事情があることからずっと犬好きと決め込んで生きてきた私ですが、ソマリ(猫の種類)にハートを射抜かれ一緒に暮らし始めてからというもの、猫最高。猫が大好きで大好きでどうしようもありません。ぶつぶつの湿疹が出ようとも目が真っ赤になろうとも、丸め抱きつきたい衝動を抑えることができません。叶うことなら顔にかぶったまま会社に行きたい。本当に好きというのはアレルギーをも凌駕するということなのかと思う今日この頃ゴロゴロゴロロ。今いるソマリの親仔に加え更に同居したいのは、ターキッシュアンゴラという猫です。
 
    猫 俯瞰―data&donna―
■作品データ『 ディボース・ショウ』
2004年4月10日(土)より、日劇1ほか全国一斉ロードショー!
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
脚本:ロバート・ラムゼイ、マシュー・ストーン、イーサン・コーエン、
ジョエル・コーエン

出演:ジョージ・クルーニー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、
ジェフリー・ラッシュ、ビリー・ボブ・ソーントン

配給:UIP/2003年/アメリカ/102分
『ディボース・ショウ』

http://www.uipjapan.com/divorce-show/

   
 
    
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