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6月15日 2009年6月13日


「昔のプロレスは面白かった」
時々こうした発言を耳にすることがあります。
今のプロレスをしっかりと観た上でこう発言している方と、
今のプロレスを観ていない、ある種の「先入観」でこう発言している方と、
両方いるのが現状です。
ただ、多くの場合、後者が多いというのもまた事実です。

入社以来、プロレス班の一員として、
「今のプロレス」と向き合ってきた私は、
「昔のプロレス」をリアルタイムでは知りません。

DVD等を通して、昔の映像を見ることは容易に出来ます。
歴史を知識として蓄えるため、繰り返し過去の映像は見ました。
今も時々、その作業を続けています。
しかし当然ですが「その瞬間のプロレス」を、
生で体感することは出来ません。

「昔」がどれだけ面白かったのか、どのように面白かったのか、
「今」と、何が、どう違うのか。
残念ながら私には、
その現実と向き合い、正当な判断を行うことは出来ません。

ただ、一つ。
やっぱり胸を張り、声を大にして言いたいのは、
「今のプロレスも、むちゃくちゃ面白い」ということです。

「今のプロレス」に惹かれ、魅せられ、感動し。
涙し、驚き、喜んで。悔しがって、悲しんで。
憎んだり、ひがんだり、妬んだり。
怒った後に、笑ってみたり。

様々な感情が混在するリング上には、
プロレスラーの「人生の縮図」が存在しているように思えるのです。
そしてそれを、自分自身の「人生の縮図」にも重ねたりするのです。

こうして私は「今のプロレス」にのめりこんでいきました。



ある日、あるプロレスラーが、公式サイトに投稿していた自身の日記に、
こう記していたことがありました。

「毎日小さな壁にぶつかったり、
大きな悩みを抱えて頑張っている人たちに、
プロレスを観て少しでも前向きな気持ちになってもらいたいと願って、
できる限りいろいろな場所にお邪魔して試合をしています。」

このプロレスラーは、
プロレスの歴史を歩み続け「昔」を戦ってきました。
このプロレスラーは、
プロレスの未来を見つめ「今」を戦い続けました。
しかし、このプロレスラーは、
志半ばで「未来」を戦うことが出来なくなりました。

三沢光晴という、プロレスラーです。

2009年6月13日。
46年という人生の最期を、リング上で迎えた三沢さん。
あの日から、ちょうど1年。

「プロレスを盛り上げたい」と尽力し続けた三沢さんの言葉を、
レスラーなら誰しもが胸に刻んでいるのではないでしょうか。
それは、中継で携わる我々にとっても同じことです。

地上波でプロレスを伝えている唯一のメディアとして、
責任を背負わなければなりません。
微力だとしても、
プロレスの興奮と感動を伝える一助にならなければなりません。

夏の足音が少しずつ大きくなり、雨の匂いに包まれるこの季節。
最期までプロレスと向き合った三沢さんの死を想い、
真摯にプロレスの「今」を伝えていこうと思っています。

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