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4月2日 気まぐれNY通信 「アメリカ版ホリエモン」


インターネット企業が、大手メディアを飲み込む。
アメリカでは、すでにこうした例があり、「世紀の大合併」ともてはやされました。
ところが、この合併は思いもよらぬ結果に終わりました。

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■「AOLタイムワーナー」
2000年1月。
当時インターネットNo.1のAOL(アメリカオンライン)と
メディア大手タイムワーナーが合併を発表した。
「AOLタイムワーナー」の誕生だ。

■AOLの快進撃
これを仕掛けたのがAOLのスティーブ・ケース氏。
1985年にAOLを設立したケース氏は、手軽なインターネットを売り物に、
瞬く間に世界一のインターネットプロバイダーに成長させ、
一気にタイムワーナーとの合併に成功した。

■“飲み込まれた”タイムワーナー
タイムワーナーといえば、おなじみアメリカメディアの老舗。
CNNテレビや映画「ワーナーブラザーズ」、雑誌「タイム」など、
膨大なコンテンツを抱える。
合併前(1999年時点)で比較してみると、
タイムワーナーの年商が、268億ドルに対して、AOLは、48億ドル。
タイムワーナーの従業員数が、70,000人に対して、AOLは、12,100人と
ともにAOLの約6倍の規模を誇っていた。
しかし、合併時の株式の比率は、タイムワーナーが45に対して、AOLが55。
ITバブルに後押しされ、破竹の勢いだったAOLに、
事実上、買収されてしまった格好だ。

■「世紀の大合併」
合併発表の会見でケース氏はこう語っている。
「我々は、メディア融合の世界を実現させる、最初の総合メディアになります」
目指すは、「インターネットと既存メディアの融合」。
当時この言葉は「新世紀のメディア」を予感させ、「世紀の大合併」と讃えられた。
こうしてAOLタイムワーナーは、ケース氏指揮のもと、華々しく船出した。

■予想外の転落・・・
ところが、大方の予想に反して、結果は悲惨なものになってしまった。
2002年度の決算で、アメリカ史上最大規模の12兆円の赤字を記録。
株価も急落。9分の1にまで落ち込んだ。
ケース会長は、わずか3年で辞任に追い込まれた。

■「企業買収失敗の代名詞」
大失敗に終わったAOLとタイムワーナーの合併は、
アメリカでは「企業買収失敗の代名詞」となっていて、
書店には失敗の原因を探る本が並ぶ。

■担当記者が語る「失敗の原因」
「まさに『企業内戦争(internal civil war)でした。
右がこうしろというと、左は絶対にいやだという。
本来の仕事を忘れて、エゴの塊になってしまったのです」

と語るのは、合併の前から取材を続け、
この失敗劇を「STEALING TIME(タイム奪取)」として出版した、
ワシントンポスト記者、アレック・クレイン氏。

「AOLは、テレビ、音楽、映画などタイムワーナーのすべてのコンテンツに
インターネット事業をからめていこうと思ったのです」
と合併時を振り返り、この狙い自体は決して悪くなかったという。

当時はマーケットからも評価されたこのアイデアは、
ITバブルの崩壊や、AOLの顧客をブロードバンドに
移行させられなかったことなどもあり、失敗に終わった。
クレイン氏は、こうした失敗の最大の原因は、企業内の対立だったという。

「AOLがタイムワーナーに命令するようなことがあると、
タイムワーナー側は一斉に拒否した。
これが「終わりの始まり」だったのです。
会議の時間すら決められないほど、すれ違っていました」

若くて押しの強い、新進気鋭のAOL。
紳士的で保守的な、老舗のタイムワーナー。
両者は決定的に対立し、会社が回らなくなったという。

■再び「タイムワーナー」に・・・
クレイン氏は続ける。
「最終的に老舗の大企業を買収したはずの、若手のAOLが、
タイムワーナーのベテラン陣に主導権を奪い返されてしまったのです。
AOLはいま、社内ではディビジョン(部門)でもなく、
ディビジョンのなかの1つのユニット(部署)にすぎない」

合併後、「AOLタイムワーナー」としてスタートしたが、
いまでは「タイムワーナー」となり、社名から「AOL」は消えてしまっている。
一時はタイムワーナーを支配したAOLは、
いまではタイムワーナーの一部になってしまっている。
タイムワーナー本社前(ニューヨーク)

■堀江氏はこの“前例”をどう見る?
このAOLタイムワーナーの失敗について、
ライブドアの堀江社長は、外国人記者クラブでの会見(3/3)でこう語っている。

「AOLタイムワーナーの問題とよくダブらせる人がいますけれども、
僕はちょっと違うかなと思ったのは、今の時代はブロードバンドインターネットで、
家庭に格安の高速回線が導入されている」
「当時のアメリカのインターネット状況というのは、ブロードバンドでなかったし、
非常にナローバンドで遅いインターネットだった。
(現在は)パソコンも非常に高性能化して、
動画コンテンツを見るのも簡単になった。
そういう時代のことですから、まったく状況は変わっていると思う」

■日本のケースは!?
最後にクレイン氏は、ライブドアとフジテレビのケースについては
こう見ている。

「問題は、金やシナジー(相乗効果)ではなく、人間だったということです。
日本でもまず、かかわっている人間同士が仲良くやっていけるのかどうか、
そして、2つの違う企業のカルチャーをうまくミックスできるのかどうかに
注意すべきです。
この教訓から学ばなければ、歴史を繰り返してしまうでしょう」

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【取材後記】
このニュース企画は、「報道ステーション」と「スーパーJチャンネル」で
放送しましたが、放送後、クレイン氏の本
(「STEALING TIME(タイム奪取)」)について、
視聴者の方から、かなりの問い合わせがあったようです。

一方のクレイン氏も、ライブドアとフジテレビの行方が
気になって仕方がないようでした。

堀江氏が「状況が違う」というように、
クレイン氏もいくつかの違いを挙げていますが、
「AOLタイムワーナーと違って、
ライブドアにとって最大のアドバンテージは、
AOLタイムワーナーの失敗例があることだ」
と話していました。

   
 
    
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