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3月3日 気まぐれNY通信 「スペースシャトル(1)」


スペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故から2年。
NASA(アメリカ航空宇宙局)は、5月にもシャトルの打ち上げを再開する予定です。
しかし、いまだ事故原因への対策が固まっていない状況での打ち上げに
「“見切り発射”では?」という声もあります。
その飛行再開の1号機には、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんも乗り込みます。
コロンビア号の直後に予定されていた野口さんのフライトは、
あの事故によって、長らく打ち上げが延期されていました。
ついに念願の宇宙へ・・・。
野口さんらが最終調整を続けるジョンソン宇宙センターを取材しました。

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■ヒューストン
ジョンソン宇宙センターは、テキサス州のヒューストンにある。
ニューヨークからヒューストンまでは飛行機で4時間。
(東京〜北京より長い・・・)
「コートは余計だった」と手に抱えながら空港の外へ出ると、ムッとする空気。
空港のターミナルはかすかに空調(冷房)が効いていたことに気付く。
そして、ポロシャツ、短パンでウロウロしている人たち。
氷点下のニューヨークに対して、ヒューストンは気温24度。
つくづくこの国は広い。

■“小さな宇宙空間”
ジョンソン宇宙センターではシャトルの実物を見ることはできない。
打ち上げはフロリダ州のケネディ宇宙センターからで、
ここの目玉は、打ち上げ後のシャトルを見守る管制センターと、巨大なプールだ。
プールは長さ60メートル。深さ12メートル。
水中には国際宇宙ステーションなどの模型が置かれて、
“小さな宇宙空間”が広がっている。
飛行士たちは、宇宙服を着てプールに潜り、
シャトルの外にいることを想定した訓練を繰り返す。
宇宙服を着るだけでも数人がかりで着せてもらい、
プールにはクレーンで吊り下げて入るという、なんとも不自由な様子だが、
それが逆に、宇宙空間がいかに過酷であるかを物語る。
野口さんは、こうした船外活動が3回予定されているが、
最大の注目は、傷ついた機体の修理法をテストするミッションだ。

■コロンビア号空中分解事故
2年前のコロンビア号の事故では、打ち上げ時に翼の前の部分が傷つき、
宇宙から帰還する際に、そこから高温のガスが入り込んだことが原因とされている。
事故調査委員会は、こうした事態に備えて、飛行再開の条件として
15項目を提示しているが、現時点(2月末)で、
NASAは7項目しかクリアできていない。
なかでも傷ついた翼を宇宙空間で修理する技術はいまだ完成されていない。
事故調査委員会のメンバーの中には、このまま打ち上げを再開させることは
「3機目のシャトルを失うことになりかねない」と懸念を示す声もある。
飛行再開の条件に対して、NASAがどれだけクリアできたかを評価する
独立調査委員会は、3月下旬に最終評価を出す予定だ。

■もう1機のシャトルをスタンバイ・・・
NASAは、「打ち上げまでに必ず間に合わせる」と強気だが、
その一方で、宇宙でシャトルに傷があることがわかり、
地球に戻れないと判断された場合に備えて、
もう1機のシャトル・アトランティス号をスタンバイさせる。
地球に戻れなくなった野口さんらディスカバリー号の飛行士たちは
国際宇宙ステーションに待機し、アトランティス号が迎えに来るのを待つと
いうわけだ。

■「テスト飛行」
プールでの訓練後、安全性について聞かれた野口さんは、
「我々のフライトではこれで十分だと思う。
 今後、さらに安全性を高めていけばいい」
また、「我々は飛行再開の『テスト飛行』ですので」と答えた。
NASAは、ディスカバリー号と、
次に予定されているアトランティス号のフライトを、
飛行再開の「テスト飛行」と位置付けている。
飛行士たちが命をかける打ち上げを
「テスト飛行」と呼ぶのには違和感を覚えるが、
野口さんには「選ばれて宇宙へ行く」という使命感も垣間見える。

■「ハッチを開けて、漆黒の宇宙へ・・・」
先日、NASAは5月15日を打ち上げ目標とすると発表した。
打ち上げ目標日が設定されて、「現場の士気が高まってきた」という野口さんに
「宇宙へ行くにあたって、何が一番楽しみか」を聞いてみた。
「(シャトルの)ハッチを開けて、漆黒の宇宙へ出ていくのが本当に楽しみ」
野口さんは、少年のような顔で答えた。

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【取材後記】
タイトルを「スペースシャトル(1)」としたのは、
なんとしても打ち上げから着陸までを見届けたいと思ったからです。
私のアメリカ滞在もそろそろゴール(6月)が見えてきます。
安全性に疑問を抱えたままの打ち上げ再開には賛成できませんが、
打ち上げがずれ込めば、取材できなくなってしまうかもしれません
「急いで・・・。でも、安全に・・・」
なんとも自分勝手な願いです。

   
 
    
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