「前例に捉われず、自分たちが楽しめるかを考える」サリngROCKのサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

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クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」

ちょっと不気味で不思議な作風で、関西の演劇シーンで活躍している劇団「突劇金魚」のサリngROCKさん。最近では映画『BAD LANDS』での怪演も話題になった彼女に、劇団独自のスタイルやルーツ、サボりマインドについて聞いた。

サリngROCK さりんぐろっく
劇作家/演出家。2002年、劇団「突劇金魚」を旗揚げし、大阪を拠点に活動。2008年に第15回OMS戯曲賞大賞、2009年に第9回AAF戯曲賞大賞、2013年に若手演出家コンクール2012優秀賞を受賞。2023年には映画『BAD LANDS』にて俳優として映画デビューし、第78回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞した。

就活がイヤで劇団旗揚げ…?

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──演劇と出合ったのは、高校時代に所属されていたという演劇部ですか?

サリngROCK(以下、サリ) そうなんですけど、高校のときはあまり演劇を知らなくて。大学に入学するころに、演劇好きの先輩に連れて行ってもらった「惑星ピスタチオ」を観て衝撃を受けて、小劇場の作品を観るようになったんです。

惑星ピスタチオの舞台って、オブジェみたいな抽象的な舞台美術で、その中で宇宙を表現したりしてたんですよ。体ひとつで人物や物語を想像させられるのがすごいなって。演劇で想像力を掻き立てられるという体験が初めてだったので、すごくびっくりしたのを覚えてます。

──そこから大学で劇団を立ち上げるようになったきっかけは?

サリ 当時の演劇サークルでは、先輩たちが卒業のタイミングで劇団を作っていたので、前例があったんですね。もうちょっと演劇をやりたかったのと、なにより就職活動がめちゃめちゃイヤやったんで(笑)、だったら先輩たちみたいに同級生と劇団をやってみようと。私は演出がやりたかったんですけど、脚本を書く人が誰もいなかったので、自分で脚本も書いたのが最初の公演でしたね。

──立ち上げ当初から、劇団としてのコンセプトやイメージなどは決まっていたのでしょうか。

サリ 子供のころからかわいいキャラクターより幽霊が好きだったり、ティム・バートン監督の映画が好きだったり、ちょっと不気味だったり、痛々しかったりするものに惹かれるんですよ。だから、そういうドロドロとしたものを入れた、ひと筋縄ではいかない舞台にしようとは思っていました。

──実際に公演をやってみて、手応えはありましたか?

サリ とにかくやりきれたというのが大きくて。やりきることを続ける、初期はそれだけやったと思いますね。若手のための演劇祭にもとにかく出場していたんですけど、そしたら、劇場のスタッフさんが選ぶ賞をもらえて、劇場が使える権利をもらったんです。それが人から認められたほぼ初めての経験だったので、「この方向でいいんや、間違ってなかった」みたいに思えた気がします。

──そこから公演を打ち続けるなかで、ターニングポイントなどはあったのでしょうか。

サリ 28歳のときに、OMS戯曲賞という関西の劇作家が欲しがる戯曲賞で大賞をいただいたんですよ。そこから観に来る人もガラッと変わって、「どんなもんやねん」って批評的に観られるようになり、「脚本は独特でおもしろいけど、演出と俳優がめちゃめちゃダメや」といったことを言われるようになりました。特に演劇の勉強をしてきたわけではなかったので、やっぱり未熟やったんだと思います。

それで、「何がダメなの?」と思うようになったころ、今も一緒に突劇金魚をやってる山田蟲男くんが劇団に関わるようになったんです。山田くんのほうがわりとロジカルに技術的なことも考えているタイプで、だんだん「だったら、こうしたほうがいいんじゃない?」って提案してくれるようになって。彼の言うことに応えようと、薦められた本を読んだり、作品を観たりしながら技術を身につけていったことで、徐々にできることも増えてきた。そう思えるようになってきたのは、ここ最近の話なんですけど。

活動の軸は「楽しく生きていくこと」

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──劇団を続けることは簡単なことではないと思いますが、ひたすら試行錯誤を続けるうちにここまで来た、という感覚なんですかね?

サリ それに近いと思います。技術を身につけて客観的にわかりやすくなった作品は評判もいいんですけど、私独特のヘンテコな要素が薄まると、それはそれで「前のほうがよかった」と言われたりもする。でも、そこは絶対両立できるはずなので、今もヘンテコだけど伝わりやすいラインを探してます。そういう目の前の課題をただやり続けてきたというか。

あと、今は劇団も山田くんとふたりでやってる状態なので、ふたりが納得すればいい。だから続けられてるところもあります。それを「劇団」って言っていいのかよくわからないんですけど。

──1公演で俳優2チームのWキャストにするといった独自のスタイルも、その結果のひとつなのでしょうか。

サリ 山田くんがけっこう前例に捉われないアイデアを出してくるんです。大人数のキャストを2チームにするのもそうで、私が「そんなんやってる人おらんけど大丈夫なん?」って聞いても、「論理的に考えたら、このほうがうまくいくんや」みたいな。

結果的に、俳優さんがケガや病気になっても中止にしなくて済みますし、関係者が増えれば公演の宣伝をしてくれる人も増えるので、そういう意味でも助かっています。それに2チームあるだけで、俳優さんたちがそれぞれ勝手にがんばってくれるんですよ(笑)。

──切磋琢磨する状況が生まれるんですね。関西の小劇場というシーンなどはあまり意識されていないんですか?

サリ 同世代とは友達感覚はありますけど、横のつながりを意識するようなことはあまりないかもしれません。「アイツら、なんかヘンなことやってんな」って思われてるんじゃないですかね。前例や風習に捉われないという意味では、裏方の仕事など、当たり前に人に頼んでいた仕事についても一から検討して、自分たちでできることはやろうとするから、まわりから変わった目で見られている気がします。

──劇団としてのあり方にも捉われていない印象ですが、活動のイメージも変わってきているのでしょうか。

サリ ふたりとも40歳を過ぎたので、劇団の核になるものについて改めて話し合うようになったんです。それで、劇団を続けるとか売れるとかじゃなくて、我々ふたりが楽しく生きていくことを軸にしようと話していて。

次はどこどこの劇場でやろうとか、東京にも行かないといけないんじゃないかとか、そういうことは無視しようと。できるだけしんどいことは無理してやらんとこうというか。「自分たちの人生のためになっているか」が基準としてはっきりしてきたので、結果として、私が全然演劇をやらなくなる可能性だってある。そうやって縛られずに考えられるようになったのはいいことやなと思いますね。

映画初出演で感じた、演劇との違い

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──最近では映画『BAD LANDS』への出演の話題になりましたね。ただ、最初は監督からのオファーを断られていたそうですが……。

サリ でも、映画の現場はめちゃくちゃ楽しかったです。演劇では、お客さんにちゃんと声を届けるとか、顔が見えるように立つとか、役者+お客さんで演じるんですよ。そこが楽しみのひとつでもあるんですけど、映画では目の前の俳優さんと演技すればいいだけなのがめっちゃ楽しくて。もちろん、映画でもカメラの位置やいろんなことを意識しなければいけないんでしょうけど、初めての映画出演だったんで、そこは今回は無視させていただいて。

──裏社会に生きる林田というキャラクターを演じる上で意識したことなどはありますか?

サリ かたちから入ることってめっちゃ大事だと思うんです。かたちを心がけてたら、中身も寄っていくというか。それで、なるべく瞬きをしないようにしたり、口を半開きにしたり、ちょこまか動かないようにしていました。あとは基本的に演出どおりにやれば成立するものなので、ヘンなことをやろうとしたり、「ちゃんと演じたろう」みたいな欲は出さないようにしました。そういうのって、バレるんですよね。

──こうした経験をきっかけに、演劇でも自ら演じる機会が増えるような可能性もあるのでしょうか。

サリ あるかもしれないですね。演出をやりながらだと難しいところもあるし、外部の作品に役者として出ることにもあまり興味がないので、どういうかたちかはわかりませんけど。ただ、山田くんとは「二人芝居やりたいね」といった話もしているので、役者としてのウェイトが大きい公演を、ふたりで演出しながらやってみたいとは思ってます。

時間が許すなら、イヤになるまでサボり続ける

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──サリngROCKさんは、「サボりたいな」と思ったりすることはありますか?

サリ 私の仕事の場合、みんなで仕事してる最中にひとりだけサボって抜け駆けするようなことはないんですけど、やらなきゃいけないことがあるのになかなかできない、みたいなことならめっちゃあります。でも、結局締め切りに間に合うんだったら、それも必要な時間というか。

「スマホを見なきゃもっと仕事が進んだのに」って思うよりも、「私はそこでスマホを見る人間だし、この作品はそんな人間が作ったものなんだ」って思っちゃうというか。そういう達観みたいなものはあるかもしれない。

──やっぱりサボるときはスマホを見てしまうことが多いんですかね。

サリ そうですね。SNSとか、YouTubeとか。そういうときはもう飽きるまで見続けます。逆にそっちがイヤになるまでやっちゃったほうがいいんじゃないかなって。結局、スマホを見続けられてるってことは、その時間が許されてるってことなんで。ほんまにやんなきゃいけなかったら、やるじゃないですか。

──そのほうがすっきり切り替えられそうですね。もうちょっとポジティブなサボりというか、アイデアにつながるリフレッシュとしてやっていることはありますか?

サリ お風呂に入ってリラックスしたら新しいアイデアが湧く、みたいなことがあまりないので、映画を観たり、偉人たちの戯曲を読んだりしますね。インスピレーションを受けようと思って観たり読んだりするわけじゃないんですけど、人のアイデアに触れることで何か考えたり、受け取ったりすることが多い気がします。

──より趣味に近いかたちで楽しんでいるものもあるのでしょうか。

サリ これも創作ではありますけど、絵を描くことですかね。時間ができたら絵を描きたい。でき上がったものがパッと一瞬で目に入るのが好きなんですよ。脚本は「完」って書くのが気持ちよくても、一瞬で全部は見られないので。ただ、もうちょっと本格的にやろうとしたら、絵を描く手が止まってしまいそうな気もするんですけど。

──では、より仕事に関係なくリラックスしたり、楽しんだりできる時間は?

サリ スーパーに行って野菜を選んでるときです。別に料理好きなわけじゃないんですけど、「今日は自炊する余裕があるんだ」とか「普通の日を過ごせている」って思えるのがうれしくて。だから掃除でもよくて、余裕を感じられることがうれしいというか。

あと、最近はユニクロのお店に行ったり、サイトを見たりするのがめっちゃ好きで(笑)。新商品が次々出るので、チェックするのが楽しい。好きなブランドと似合う服って違うんだということがようやくわかってきたので、ユニクロでいろいろな服を試してて……ってどうでもいいか(笑)。

──いやいや(笑)、そういうささやかな楽しみも聞きたいんです。

サリ コラボものとかは大きい店舗にしかないので、わざわざ発売日に自転車で遠い店まで行ってるんですよ。発売日がいっぱいあるっていいですよねぇ。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

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