謎の自信が共有できたときから、ヨネダ2000の快進撃は始まった|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#22(後編)
コンビ結成から2年目にして、『ABCお笑いグランプリ』や『M-1グランプリ』でファイナリストとなり、『女芸人No.1決定戦 THE W』では準優勝に輝いたヨネダ2000。
しかし、彼女たちはヨネダ2000になる前、「ギンヤンマ」というコンビ名で活動していた。男性芸人が加入してトリオとなり、その後解散も経験した、愛と誠。なぜふたりは再び手を組み、そして快進撃を遂げることとなったのか。
「First Stage」後編では、ヨネダ2000結成の経緯や、コロナ禍での再スタート、M-1決勝の初舞台について聞く。
【インタビュー前編】
肩の力の抜けたイメージとは異なる、ヨネダ2000の意外な初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#22(前編)
目次
すれ違う、愛と誠の思い
左から:愛、誠
──前編では、ヨネダ2000の前身となる、ギンヤンマ結成とその初舞台まで伺いました。しかしギンヤンマには男性芸人が加入し、トリオ「マンモス南口店」になります。その経緯を教えてください。
誠 ギンヤンマとして活動した1年間、まったく結果が出てなかったんです。でも自分はこのままやっていけば大丈夫だろうなって謎の自信があって。「もうすぐだぞ」と思ってたんですけど、愛さんにそれが伝わってなかった。
愛 私がこの先どうなるのか不安だったタイミングで、男性芸人の方から「入りたいんだけど」と声をかけてくれて。それで私も誠に「入れてもいいんじゃない?」と提案しました。
誠 自分と愛さんに同時に連絡が来て、すぐに返事してあげなきゃと思って愛さんに電話して「入れない方向でいいよね?」って確認したら、「いや、入れたい」って言い出して。「あら!」って、びっくりしました。そこから何回も話し合って、結局トリオになりました。
──なぜその男性芸人は、ギンヤンマに入りたがったんでしょうか。
誠 たぶん、今でいう「ぱーてぃーちゃん」さんみたいなことがしたかったんですよ。
愛 私たちのネタを見て「ツッコミが必要だ」と思ったらしいですね。
──愛さんもツッコミが苦手だとおっしゃっていますもんね。でも、誠さんは自信があったぶん、愛さんに新メンバーを入れようと言われたときは、ショックだったんじゃないでしょうか。
誠 驚きましたけど、愛さんの気持ちもわかりました。自分はネタを作る側なんで、謎の自信があったんです。ネタはいいけど、実力が追いついてないだけ、みたいな。でも相方からすれば、結果が出ないと不安だよなって。
愛 不安の理由は、結果だけじゃなかったんだけどね。
誠 うん。私の自信も伝わってなかったと思う。
愛 本当にネタをコテンパンに、けなされたこともありましたから。
誠 あった。でも自分はそれを「はいはいはい」って受け流せてたんですよね。でも愛さんの気持ちもわかったし、新しく入った男性も売れるための方向性を教えてくれたので、じゃあ試しに3人でやりましょうと。
誠と新メンバーの間に立ちはだかる愛という山
愛 結局それも半年で解散するんですけどね(笑)。
誠 ツッコミを入れたはずなのに、全員ボケてたので。
愛 あははは(笑)。でも、めちゃめちゃ楽しかったよね。
誠 うん、今も自分、たまにネタ動画を観返します。愛さんを完全に冨永愛として見せるネタもあったんですよ。
──今もよく顔まねされてますよね。
誠 あのネタは男性のほうが「似てる」と言ってくれて生まれたんですよ。そうやってネタが生まれたりもしたし、楽しくはあったんですけど、トリオになったことで、ネタの作り手が、自分とその男性でふたりになっちゃったのがよくなかった。お互い“気遣いしぃ”なので……。
愛 まぁどっちも優しいんだよね。
誠 それで間をとった中途半端なネタをやっちゃって。もしどっちかに振り切って純度100%のネタだったら、スベったとしても改善点がわかるからいいんです。でもふたりで作るとそこが曖昧になってよくわからなくて。でも、一番の解散理由は立ち位置でしたね。
──漫才の立ち位置?
誠 はい。細い男性だったんですけど、今思うと、絶対その人が真ん中になったほうがいいんですよ。
──それこそ、ぱーてぃーちゃんは男性のすがちゃん最高No.1が真ん中ですもんね。
誠 そうなんです。なのに、我々は愛さんを真ん中にした。そしたら自分と男性がお互いをよく見えないんですよ。
愛 私がジャマになって、ふたりが見えない(笑)。
誠 お互いに何やってるか見えないから、うまくネタができなくて、それで解散しましたね……。芸歴6年目の今でこそ立ち位置変えればいいだけってわかりますけど、当時は2年目だったので視野が狭かったです(笑)。
愛はいつも誠を待っている
──マンモス南口店を解散させて、ふたりは一度関係を解消しますね。
誠 自分と愛さんはもう組まないと思ってました。
愛 私もそう思ってましたね。ふたりに戻るっていう選択肢がなかった。
誠 愛さんとは友達だったので連絡は取り合ってましたけど、お互い別の相方を探してたんです……。
愛 でも、結局また私が誠を誘った。
誠 その返事もめっちゃ待たせました。もうひとり組もうかなって思ってた方がいらっしゃったので、愛さんには「ちょっと待ってくれ」と。半年は待たせましたね。
──いつも愛さんは待たされてる。
愛 最初に組んだときも、新ネタも毎回ね(笑)。でも、再結成のときはそんな待った記憶はないんだけど。
──再結成してまもなく、コロナ禍に入りますよね。
愛 2020年の4月にコンビ登録して、やっと舞台に立てると思ったら劇場が全部閉まりました。
誠 再結成後の初舞台は、『キングオブコント』の1回戦です。
──その年のキングオブコントは、7月開催でした。
誠 長いこと一緒にネタやってなかったので、普通にスベりましたけど。
愛 おもしろかったのになぁ、あのネタ。
誠 ね! めっちゃおもしろいです。今はもうやってないですけど、好きなネタだったからちゃんと覚えてる。
愛 あんなにおもしろかったのに。
誠 めちゃめちゃスベったからね。次はM-1の予選でしたが、そっちもスベって落ちました。
──再スタートを切ったのに、コロナで歯がゆい時期ですね。
誠 でも、なんか日々は楽しかったです。インスタライブをがんばったり。
愛 2週間くらいで終わっちゃったけどね。
誠 結局、ふたりともSNSが苦手なので、楽しくなかったんですよね。一緒にハーモニカ教室にも通いました。ハーモニカなら持ち運べるし、ふたりでできたら特技になるかなって。
「それ以外」だったヨネダ2000は、よしもとを辞めようとした
──そんな苦しい期間を経て、2021年1月の『どすこい』のネタが偶然生まれたと前編で伺いました。このネタはやはり手応えがありましたか。
誠 そうですね。それまでは誰も知らないコンビだったけど、知ってもらえるようになって。でも、4月に劇場メンバーとそれ以外を分けるライブがあって、「それ以外」になってしまって……イヤでした!
愛 あはははは(笑)。イヤだったねぇ。
──この年末にM-1セミファイナリストになるのに、その直前まで結果に恵まれなかったんですね。
愛 全然ダメでした。よしもとの劇場に出られないので、自分たちでエントリー費払って、よそのフリーライブに出させてもらって。「それ以外」に落ちたときは、次上がれなかったら、本当に終わりだと思ってましたから。
誠 次ダメだったらよしもと辞めようって話が出てたくらい。「絶対にうちらは悪くない!」って信じてて(笑)。
愛 そうそうそう(笑)。そんなはずはないのに。
誠 「よしもとはなんでわかってくれないんだよ!」って。1年目からの謎の自信が爆発してました。
愛 今度はそこに私まで乗ったからね(笑)。
誠 でも「リーダー」って呼んでる先輩が「俺ん家、飲み来るか?」って言って、3人がかりで励ましてくれたんです。
愛 「こんなにいい人たちがいるから、もうちょっとがんばろっか」と思えた。
誠 そしたら6月のライブに勝てて、劇場に戻れたんですよ。
──ちなみにそのリーダーとは?
誠 もちろん、プリズンクイズチャンネルの竜大さんです!
愛 あとのふたりは、マリーマリーの海老原さん(えびちゃん)と、やままんのきむさん(木村一樹)ですね。
誠 そのリーダーが今、劇場レギュラーから落ちちゃってるんですけどね……(苦笑)。
M-1は夏に出場して、冬に観るものだった
──謎の自信が爆発していたふたりがM-1の準決勝に進出したときは、「当然だ」という気持ちが強かったですか?
愛 いや、さすがにびっくりはしましたよ(笑)。
誠 それまでの賞レースは1回戦負けばかりだったので。なので、1回勝つごとに「やったー!」って喜んで、新鮮でした。
愛 準々決勝くらいで「M-1って本当にやってんだ」と思いましたね。それまでは夏に終えて、冬に観るものだったから。一緒の大会だとは思えなかった。
誠 準々からはうちらにも密着カメラも来て。
愛 「恥じぃ〜」。
誠 「近けぇ~」って(笑)。
──それこそテレビにも出演してない時期ですよね?
愛 その年のTHE W決勝(※)が初テレビだったので、そうですね。
※2021年のTHE Wは12月13日開催。M-1決勝は12月19日に行われた
誠 M-1の準決勝も通ったと思いました。本当に決勝狙ってたし、ウケたので、このまんま行くだろうなって。トップバッターでネタして、当日のファイナリスト発表まで時間があったので、決勝決まった人の感じで待ち時間過ごしてましたし。
愛 ははは(笑)。
誠 近くのおそば屋さんでご飯食べてたら、隣のおじさんがセキしてて、「ちょっともう我々決勝行くのに、やめてよ〜」って。
愛 そしたら呼ばれなくて……。
誠 「終わったー!」ってなったよね。
──翌年は見事M-1ファイナリストになります。緊張しやすい性格だという誠さんは、やはり決勝もアガりましたか?
誠 いや、ただただ楽しかったです。ウエストランドの井口(浩之)さんが、全員にずっと話しかけてたんで、リラックスできましたね。今でも神保町の劇場に立つときでさえ緊張するのに。
──ヨネダ2000は8番手でした。
愛 もっと早かったら終わってたね。
誠 そうですね。ウエストランドさんが早すぎても、話しかけてくれる人がいなくなって緊張したと思うので。井口さんは5番手のさや香さんが終わった時点で「この大会のピークは終わった。俺らのことなんて誰も観ないから、好きにやっちゃっていいよ!」って。
愛 「俺らの中から優勝者出ねえよ」って言ってた。なのに気づいたらあの人たちが優勝してた(笑)。
誠 ウエストランドさんがいなかったら、自分たちもダメだったと思うので、ウエストランドさんが優勝した瞬間は飛び上がるくらい喜んでしまいました。
どんなにウケても、自分たちが楽しくなかったらうれしくない
──M-1決勝の初舞台は、いかがでしたか。
誠 井口さんのおかげもあって楽しかったですし、なにより審査員の松本(人志)さんに「最初から終わりまでずっと何をしているのかわからなかったのに、笑ってしまった」と言われたのが、うれしかったですね。頭を使わなくても感覚的に笑ってくれるのが一番幸せなので。
愛 そもそも私たちは頭がよくないので、ちゃんと構成した漫才はできないんですけどね。
愛 お客さんが考え始めたら、私たちのネタは終わりなんですよ(笑)。
──『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出演された際、若林(正恭)さんにも「若くしてセンスだけで活躍しているのがうらやましい」と言われていました。ただ、自分たちのセンス一本で、感覚的にネタを作っていくって怖くないですか。センスで勝負するのはかなりチャレンジングなことだと思います。
誠 そもそもずっとチャレンジングでいきたいので、挑戦してるなって思われるのはうれしいです。とにかく誰も観たことない新しいことがしたいんですよね。だから、このままでいいのかな。
それにスベったとしても、ネタをしている自分たちが楽しかったら、それでいいなって思っちゃうから。逆に、どんなにウケてても自分たちが楽しくなかったら何もうれしくない……そうですよね?
愛 うん。
誠 愛さんはスベってるときも自分たちが楽しいと思えれば大丈夫?
愛 うん、別に気にならない。改善しなきゃなとは思うけど。
誠 よかった。たしかに最近は袖にハケてから「スベったー!」ってふたりで笑ってます。
愛 だいたい、うちらは袖で爆笑してる。
誠 「あんなにおもしろいのになんでスベったの!?」って笑ってます。いつだったか忘れましたけど、「スベってるけど楽しいな〜」って思ったときに、愛さんも笑ってたんですよ。そのときに、ホッとしました。ギンヤンマのときに思いがすれ違ってたけど、今はもう大丈夫なんだなって。前に、無観客の配信ライブでマイナス13点取ったネタもあるんですよ。
愛 反省しようと動画を観直したら、ふたりで爆笑しちゃったね。
誠 「これは直さなくていい!」って結論になった(笑)。あれも自分の中でヨネダ2000が固まった瞬間だったと思ってます。M-1も好きなネタやって獲るのが一番いいはずなんで。このまま行きます。
──M-1のために傾向と対策を考えることは……。
愛 ない。というか、できないでしょ。本当に頭がよくないですから。
誠 そうだね~。
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平、田島太陽
ヨネダ2000(ヨネダにせん)
2020年4月に結成した、誠(まこと、1999年3月25日、東京都出身)と、愛(あい、1996年9月19日、神奈川県出身)のコンビ。もとは2018年にギンヤンマとしてコンビになるが、2019年にトリオ・マンモス南口店になり、9月に解散。半年後に再び誠と愛が組んだ。再結成の翌年2021年には『女芸人No.1決定戦 THE W』決勝進出、『M-1グランプリ』準決勝進出と目覚ましい活躍を遂げ、2022年も『第43回ABCお笑いグランプリ』やM-1でファイナリストになり、THE Wでは準優勝に輝いた。
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