肩の力の抜けたイメージとは異なる、ヨネダ2000の意外な初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#22(前編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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2021年、結成1年目にして『M-1グランプリ』のセミファイナリストとなったヨネダ2000。愛の巨体と、誠のミニマル、その独特の風貌で目を引き、反復と逸脱を行き来するフレーズとリズム、奇天烈な設定によって、多くの人を虜にした。

彗星のごとく我々の前に現れたふたりだが、実は「ヨネダ2000」が生まれるまでには、紆余曲折があった。カリスマ的な人気を誇るヨネダ2000の、初舞台を振り返る。

若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

ギリギリのタイミングで生まれた『どすこい』

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左から:誠、愛

──2022年のM-1決勝で披露した餅つきのネタは衝撃的でした。設定はもちろん、あの軽快かつ狂いのないリズムに魅せられました。リズムを取り入れたネタはいつから作り始めたんですか。

 最初にやったのは2021年の1月ですね。

──鮮明に覚えてらっしゃるんですね。

 はい。『どすこい』のネタなんですけど……はい、あそこでなんかできました……。

 なんかしゃべれてないよ(笑)。

──すみません。チェキにサインを書いてもらいながら話してもらってたので、同時にやるのは難しいですよね。失礼しました。書き終わってから再開しましょう。

 ふたつのことが同時にできなくて。ごめんなさい、ほんと何もできないんです。……書けました! ごめんなさい。どこまで話しましたか?

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──そんなに謝らなくても大丈夫ですよ。2021年1月に『どすこい』が生まれた経緯です。

 あぁ、すみません。新ネタライブがあったんですけど、本当にネタが書けなくて。基本、今でも新ネタを上げるのが当日になりがちなんですが、そのときもあと5時間で本番というタイミングでひらめいたんです。もともとあった「張り手をよける」っていうアイデアだけでどうにかできないかなと。それで愛さんには「どすこい、どすこい」だけ言ってもらえたら、私がボケますと伝えました。

 最初はツッコミもやるはずだったんですけど、「どすこい」しながらツッコめないので諦めて。 

 実際にやってみたら私たちも楽しいし、ウケもちょっとよかったので、この感じいいかもと思いました。

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──追い詰められて生まれたネタだったんですね。それまではどんなネタが多かったんですか?

 もともとコント中心でした。漫才は、ボケの内容は今と変わらないんですけど、愛さんがわりとツッコんでました。

──『どすこい』がきっかけで、愛さんがツッコむのではなく、誠さんの遊びに巻き込まれていくようになった。

 そうですね。愛さんが「ツッコまない」かたちになって、だいぶやりやすくなりました。

寡黙な愛と、饒舌な誠

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──いきなりネタの話からしてしまいましたが、ここからは「初舞台」に至る道を聞きたいです。まず、愛さんはドッグトレーナーの学校に通っていたそうですが、そこからどうして芸人になったんでしょうか。

 芸人になろうと思ったのは就職活動中でした。動物好きなので、動物関連の仕事に就こうと思って専門学校に行ってたんです。もともと芸人に憧れはあったんですけど、家が裕福でもなかったので、リスク背負ってやるのもな……と。でも、どうせ一回きりの人生なら、やっぱり挑戦してみようと思いました。親に伝えましたが、別に反対はされなかったですね。あとあと聞くと、最初は動揺したみたいですけど、そういう感情を私には見せずに「自分のやりたいことをやってみれば」と言ってくれました。

──親からすれば、愛さんが芸人になるのは青天の霹靂だったでしょうね。

 そうだと思います。実際、兄にはすごい相談してたらしくて。うちは母子家庭で、兄がお父さんみたいな感じなんです。そのお兄ちゃんが「やらせてみれば」と言ってくれたらしいですね。

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──実家では陽気なキャラクターでしたか?

 いや、家族といるときはめっちゃ静かでした。友達の前ではものまねしたりしてましたけど、家では母と兄弟に心配されるくらいしゃべらなかった。

──しゃべらなかったのは反抗期だったから?

 いや、何も理由はなかったです。ただしゃべる必要がなかった。しゃべる内容がなかったら、しゃべれないじゃないですか。

──ふさぎ込んでるわけではない。

 そうです。でも、上の兄弟ふたりは、その日学校であったことを親に話してた。でも私からすれば、学校行っても別に授業受けるだけで、話すこともないなって。

 愛さんは今もそうですね、自分からは話さない。こっちが「最近どう?」って聞くと、「意外とあるな!」って感じで話してくれるんですけど。

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──逆に誠さんは、愛さんにめちゃめちゃ話しかけるそうですね。

 マジでずっとしゃべってますよ、なんでこんなにしゃべりたいのって思う。

 「初めてプロテインを買いました」とか報告したくなるじゃないですか。

 ふたりきりでいるときに話してくるんだったらまだしも、劇場の楽屋でわざわざ私の隣に来て言うんですよ。

 「意外と飲みづらいお味でした」とか言いたいですね。愛さんはいつも「うん」「そうなんだ」としか返さないですけど。

 何も言いようがないじゃないですか。私は何も尋ねてないのに勝手にしゃべってるから。

誠 情報はなんでも共有したほうがいいじゃないですかぁ!

 私がプロテイン買いたくなったときは、自分から相談するから。そのとき情報を共有してくれればいいです。

「うるさい、黙っとけ。俺はプロだ!」

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──誠さんがお笑い芸人になりたいと思ったのはいつごろからですか。

 中2ですね。友達と「将来何になりたいか」って話すようになって考えたときに、芸人になりたいなって。もともと小さいころから家族がテレビ好きで、『ごっつ(ダウンタウンのごっつええ感じ)』(フジテレビ)とか観てて、自然と憧れたというか。

──1999年生まれの誠さんの学生時代は、学生お笑い文化も定着していたと思いますが、そっちにチャレンジすることはなかった?

 学生のお笑いを全然知らなくて、テニスばっかりやってました。そもそも「芸人になりたい」っていうのも誰にも言わないで、その思いは自分の中にしまってました。親に伝えたのは、高2の終わりごろ、進路相談の時期ですね。 

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──ご両親はなんと?

 最初は「もう一回考え直しなさい」と言われました。でも、もう一回話したら「理容師免許を取るならいいよ」って。お父さんが理容室をやっているので、手に職をつければ安心だろうと。

──今も誠さんはお父さんに髪を切ってもらってるそうですね。

 はい、ほかのお店には行ったことないです。ほかのところに行くと、絶対に自分の希望を言えないだろうから、父に切ってもらってます。ただ、父はずっと「伸ばせ伸ばせ」って言うんですよ。「また娘の頭を刈り上げるのか……」って。しかもせっかく切ってもらってるのに、自分がすぐに「左右対象になってないんじゃないか」とか文句を言い始めちゃうんですよ。

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 誠とお父さんはいつもケンカしてるイメージ。

 ふざけ半分ですけどね。自分が「ちょっと短い」「切りすぎないで」とか言っちゃって。お父さんも「うるさい、黙っとけ。俺はプロだ!」と怒られます(笑)。 

「初舞台は意外と冷静だった」()

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──おふたりは2017年に東京NSCに23期生として入学します。本当につい最近の出来事だなと思ってしまうのですが、お互いの最初のころの印象って覚えていますか。

 愛さんのことを「いるなぁ」とはずっと思ってたんですけど、最初はそんなにしゃべらなかったんですよね。

 同期が400人いて、100人ずつ4クラスに分かれるんですけど、女性は30人くらいしかいなかったんで、まとめられてて。

 女性は誰がいるのか、すぐ覚えられます。

 でも誠は本当に「いるなぁ」ってくらいの印象でした。

 自分は、愛さんとは組まないだろうなぁと思ってました。なんとなーく、やりたいことが違うんだろうなぁって。

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──おふたりが芸人として初舞台を組んだコンビについて聞かせてください。

 私は家が近い人と組みました。最初はとりあえず、でしたね。「家近いから組もうよ」って私から誘いました。同い年の子で、「いちごとごはん」っていうコンビでした。NSCは月1でライブがあったんですけど、そこが初舞台。漫才をやって、そんなに緊張もしなかったんですけど……どんなネタだったかな。ビッグマウスみたいな……いや、メガマウスか。大きいネズミが出てきた!みたいな。私はボケでした。ツッコミ気質ではないので、ボケかなと。

──誠さんは?

 「そのバンド知ってる~」って話が弾んだ子と組んで、初舞台でした。普段、自分は緊張しぃなんですけど、初舞台は意外と冷静で「ここがウケるんだ」みたいなことを思いながらやってました。

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──初舞台から自分を客観視できてたんですね。

 誠は今のほうが客観視できてないんじゃない?

 たしかにそうですね。それはネタを作るときの気持ちが全然違うからだと思います。当時は「ここがウケるんだ」っていうのを参考にしながら作ってて。今のほうが自分のおもしろいという感覚を信じて作れてる。自信のあるネタだからこそ、人に見せるのは緊張するのかもしれません。結局、やってるネタ自体はそんなに今と昔で変わらないんですけど、やってるときの気持ちが違うというか……。当時の相方はもう芸人辞めちゃったんですけど、今も仲いいです。

 私の元同居人でもあるんですよ。

 もう本当にかわいい子なんですよ。愛おしい。毎日LINEしてます(笑)。

新ネタが間に合わなかったふたりの初舞台

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──愛さんと誠さんがコンビになるのはいつですか?

 2018年の3月ですかね。NSCの卒業公演が終わってから。

 私が組みたいと思って声かけました。電話だったよね?

 そうです。「おもしろいと思ってるから組んでほしい」って言われて、「おもしろいって言ってくれた、うれしい!」って組みました。

──じゃあふたつ返事で。

 いや、すぐではなかったです。愛さんに誘ってもらったときに組んでた相方ともNSCの成績は悪くなくて、だからこそ悩みました。でも考えてみると、成績が悪くないだけかもと思って。いろいろ振り返ってみると、一緒にやっててくださった相方と、ちょっと趣味が違ってるのもありましたし、お互いに自分がめっちゃやりたいと思うネタをするためには、このコンビじゃないのかなと気づいたので、愛さんと組むことにしました。

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──愛さんは、誠さんのどこにおもしろさを感じたんですか。

 ネタだけです。しゃべってどうこうってことはなかったですね。

誠 そもそもしゃべってなかったですからね。ネタだけで評価してもらえたのもうれしかったです。

──その後おふたりはトリオになり、一度解散し、またコンビとして再結成しますね。その経緯を伺えますか。

 最初のコンビ名は「ギンヤンマ」でしたね。NSCの卒業公演の前後って、いろんな企画ライブがあるんですけど、自分が理容師の専門学校が忙しい時期で、全然出られなかったんです。

 唯一、誠と一緒に出られたライブが、1期上の22期さんとvs23期(※)みたいなやつでしたね。

NSC東京23期卒業公演 RUSH #34 VS 22』のこと。2018320日、神保町花月(現・神保町よしもと漫才劇場)で開催

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 漫才だったよね。お父さんと愛さんを戦わせるネタだったかな?

 違うよ、ゾンビのネタ。

 あ、そうだ! ゾンビウイルスみたいな。

 そのウイルスについて説明するときの誠の手がすっごい震えてて笑っちゃった。

 緊張がすごかったです。ネタも全然覚えてないですね。スベったかどうかっていうよりも、自分が好きなネタじゃないんですよ。だから内容も覚えてない。実際、負けましたし。

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──誠さんは、ひょうひょうとやるタイプだと思っていました。

 誠はNSCのときからよく緊張してたよね。

誠 そうです。授業でもすっごい緊張して出番待ってたら、うしろの子に「寒いの?」って心配されたことがあります。緊張しすぎて全身震えてたみたいで。

 (笑)。誠は緊張が体に出るタイプですね。

──記念すべき初舞台に、なぜ自分の好きなネタをかけられなかったんですか。

 新ネタが間に合わなかっただけです……。

 今とおんなじ(笑)。

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 間に合わないから、失敗作を出すしかなかった。そのネタは一度きりですね。1回やってなんかダメだと思ったら、もう二度とやらない。それは今も変わらないです。

 それから1年くらいはふたりでギンヤンマをやるんですが、2019年の3月末に男性がひとり加わって、トリオになるんです。私が「入れたほうがいいんじゃない?」と言って。

 個人的には、かなりびっくりした出来事でした。私はギンヤンマに手応えを感じていたので……。今はまだ結果が出てないけど、絶対大丈夫という自信があったんです。でも愛さんはそうじゃなかったんですよね。

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平、田島太陽

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ヨネダ2000(ヨネダにせん)
20204月に結成した、誠(まこと、1999325日、東京都出身)と、愛(あい、1996919日、神奈川県出身)のコンビ。もとは2018年にギンヤンマとしてコンビになるが、2019年にトリオ・マンモス南口店になり、9月に解散。半年後に再び誠と愛が組んだ。再結成の翌年2021年には『女芸人No.1決定戦 THE W』決勝進出、『M-1グランプリ』準決勝進出と目覚ましい活躍を遂げ、2022年も『第43ABCお笑いグランプリ』やM-1でファイナリストになり、THE Wでは準優勝に輝いた。

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『First Stage 芸人たちの“初舞台”』(扶桑社)

【前編アザーカット】

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【インタビュー後編】

謎の自信が共有できたときから、ヨネダ2000の快進撃は始まった|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#22(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>