孤高のピン芸人・寺田寛明が語る、R-1、アイドル、新しい大喜利|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#21(後編)
今年3月に開催された『R−1グランプリ2023』決勝で、見事3位になった寺田寛明。最近はテレビ出演の機会も増え、活躍の場を広げている。
そんな寺田にテレビ仕事への葛藤やR-1への思い、そして自身がライフワークとするアイドルと大喜利について聞いた。
【インタビュー前編】
『R−1グランプリ』でも活躍した寺田寛明が、一歩踏み出すきっかけになった初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#21(前編)
若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。
テレビではギャラに見合った仕事ができない
寺田寛明
──前編では高校時代にアマチュアとして立った初舞台について聞きましたが、プロになってからの初舞台は覚えていますか?
寺田 ちゃんとギャラもらったのはいつだろう。交通費に1000円が出るのはギャラとは違いますもんね。事務所ライブもチケットノルマだし。
──では、自分はもうプロになってしまったんだな、と自覚した日はどうですか。
寺田 それは初めてテレビでネタやったときですね。ABEMAの番組で事務所の先輩・狩野英孝さんがマセキの若手を紹介する企画があったんですが、全然ウケない。でも、ちゃんとギャラがもらえるんですよ。僕はこのギャラに値する仕事ができてないなって反省しましたね。テレビ収録はいまだに「プロなのにこんなことじゃいけないな」と落ち込んで帰ることが多いです。まったく手応えがない日に、タクシーに乗らせてもらえると本当に申し訳ない。ちゃんとお金がもらえたり、手厚い待遇を受けたときほど反省しますね。
──初めてのテレビ現場でうまくいく人はなかなかいないですよね。
寺田 あれが初めてお笑い好きじゃない人にネタを見せる仕事だったんですよ。それまでは能動的にライブを観に来るお客さんしか相手にしてなかった。テレビでやるっていうのはこういうことかと痛感しましたね。カメラに向かってネタをやるのも難しいんですよ。ライブはぼんやり客席を見渡してればいいけど、テレビはカメラの一点に集中しないといけないんで。
──目標の『R-1グランプリ』優勝を果たしたら、バラエティ番組を一周することになりますよね。
寺田 いや、本当に優勝したらつらいだろうなって思ってますよ。今、田津原(理音)がいろんな番組に平場が苦手ってキャラで行ってますけど、「俺、これよりできないぞ」と思ってます。
──ネタライブや大喜利ライブとはやはり違いますか。
寺田 全然違いますね。最近テレビに出させてもらう機会が増えましたけど、ライブとテレビではおもしろがるポイントが全然違います。こないだも『(千原ジュニアの)座王』(関西テレビ)に出させてもらいましたけど、いろいろ考えちゃいましたね。たとえば、あそこって普段のライブだったら言わないような基本的なボケが、けっこうど真ん中でウケるんですよ。
──ベタなほうがウケる?
寺田 というより、僕が大喜利をやりすぎちゃってる弊害かもしれないです。このお題だったら、この回答だなっていうのをいろいろ思いつくじゃないですか。その中でもみんなが出しそうなものは捨てるわけですけど、テレビだとそのラインの回答とか返しが普通に出るし、スタジオではウケるんですよ。かといって、テレビの中でもベタっていうラインもあるので、調節が難しいです。
──そこは場数を踏んで慣れていくしかない。
寺田 自分の芸風だと、めっちゃセンスのあるコメントするしか道がなくて、テンションで乗り切るのも難しい。本当はポンコツだって気づいてもらえたらイジってもらえるんですけどね。
──そういう意味では、2022年のR−1後のお見送り芸人しんいちさんと、ZAZYさんのセット売りって本当よかったですよね。
寺田 本当そうですよ。コンビだったらお互いの関係性でキャラクターを伝えられるけど、ピンはひとりでやるしかないんでムズいです。R-1で優勝する前になんとかしたいですね。
モニターのレンタル代は14万円
──寺田さんはR−1決勝までの道のりも長かったですよね。
寺田 はい。2021年にようやく行けました。その前は2回戦止まりがほとんどでしたね。
──そこから3年連続で決勝に行けるようになったきっかけは、なんだったんでしょうか。
寺田 2021年から10年以下の芸人しか出場できなくなって、いきなり出場者がごっそり減りました。そこで数年前にできてたいいネタがあったので、準決勝でいきなり出したら、ちゃんとウケてようやく決勝に行けたんです。
──その年は決勝が大阪開催でしたね。
寺田 それがキツかったですね。コロナの影響で、東京のスタジオでやるとギリギリまで観客を入れられるか決められなかったらしくて、大阪になって。普段東京でしかネタやってないので、アウェイでしたね。
──最初の決勝は残念ながら最下位でしたね。
寺田 あのネタはいつやっても必ずウケるやつで、本当にあの決勝の舞台だけスベったので悔しかったですね。そして翌年は審査員も変わったんですよ。
──R-1がどんどん変わっていく時期でしたね。
寺田 それまでは桂文枝さんや関根勤さんっていう大御所の方々だったのが、急に若返ったんです。しかもザコシ(ハリウッドザコシショウ)さん、野田(クリスタル)さんあたりが入ってきた。あの人たちって置きにいったネタなんか絶対評価してくれないじゃないですか。
──ザコシさんも野田さんもネタがぶっ飛んでますもんね。
寺田 それでもともとやる予定だった、あるあるネタをやめて、悪口を言うようなトガった感じのネタ(『始まりの歴史』)に変えました。置きにいかず、強い言葉で攻めるネタにしたんです。それでも結果は8組中6位でした。それで3回目の決勝だった今年は、モニター使うことにしたんです。
──前編では、芸人になってしばらく、フリップネタなのにイーゼルすら使わなかったと言ってました。そこからモニターを使うようになるとは、すごい変化です。
寺田 でもモニター借りるのってめっちゃお金かかるんですよ。そんなに多用できるものじゃなくって。
──レンタルするんですね。
寺田 決勝はさすがに番組が貸してくれるんですけど、予選は自腹です。あれ借りると8万するんですよ。
──そんなに!? それなら購入したほうがよさそうですが。
寺田 たしかにそれだけお金あれば買えるんですけど、でも何が問題って買ったところで自宅から持ち運べないんですよ。たとえばマセキの後輩で、ピン芸人のこうたろうっているんですけど、彼が自宅のテレビを会場に自力で運んだことがあって。いざ運んだら、落としたスマホみたいに画面がバキバキに割れてたんです。
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──それは怖い……。ネタができないってことですもんね。
寺田 だから芸人はみんなモニターをレンタルするし、お金かかるから賞レースでしか使わないんです。しかもさっき8万って言いましたけど、休日は14万に値上げされるんですよ。準決勝が土日だったんで、最悪でした。
──そういえば優勝した田津原さんもモニターを使ってたじゃないですか。ワリカンでモニターを使うことはできなかったんですか?
寺田 実際、田津原に「モニター割り勘しない?」って頼んだんですよ。でも「トラブルが怖いんで、やめときます」って断られました。だから同じ会社に14万円ずつ払ってますね(笑)。
──トラブルが怖いというのは?
寺田 モニターってあらかじめセッティングしといて、袖に置いとくんですけど、一緒に使うってなるとバタバタするじゃないですか。それで本番にモニターが映らないっていうのが一番怖いわけです。野田さんが準決勝でまったくモニターが映らないことがあったので、全ピン芸人がモニターには神経質になってますね。
──そこまで苦労してもモニターを使うのはなぜですか。
寺田 やっぱり前回とは違うことをして「進化してるな」と思ってもらわなきゃいけないんですよね。それに結果的に過去最高の3位を取れたんでよかったです。ただ、こないだの『ツギクル芸人グランプリ』(フジテレビ)の予選では、舞台袖が狭すぎるからモニター待機できないって言われて、急きょトップバッターにされたんですよ。それでめちゃめちゃスベったので、モニターは本当、諸刃の剣です。
マセキ芸人が賞レースで優勝してないのはおかしい
──2023年のR-1のネタができたときは手応えありましたか。
寺田 大会が終わったあとは毎回「これよりもいいネタはもうできないだろう」って思うんです。最下位の年ですらそうだった。今年のネタに関してはモニターを使うことで、今までのネタを超えようと考えました。でも、ただモニターを使ってもしょうがない。画面で見せる意味があることをしようというのは、ネタ作りのときから思ってましたね。
──言葉のレビューサイトにしたのは、そういう意図があったんですね。
寺田 はい。もともと慣用句やことわざに悪口を言うネタはあったんです。でも理屈っぽくてあんまりウケなかった。それをレビューサイトというパッケージで見せたら、ウケるようになったんです。自分の中でパズルがハマった瞬間でしたね。
──あのフォーマットは優れものですよね。中身の大喜利を変えてもいいし、レビューサイトじゃなくて、YouTubeのコメント欄だったり、Twitterのタイムラインとかに変えても楽しめそうだなと思いました。
寺田 それがけっこう難しいんですよね。実際、R-1以降は言葉レビューサイトのネタは中身を全部変えてやったこともありますけど、前ほどはウケないです。
──中身が変わってもパターンが読めると飽きられてしまう……。
寺田 そうなんですよね。YouTubeとかTwitterとかに変えるのも考えましたけど、ちょっと怖いです。ずっとインターネットっぽいネタをやってきたのもあるし、今度はいったん別のところで考えてみたいなっていうモードに入ってますね。今はもういつもどおり「来年は今年のネタ超えられないだろうな」っていう状態です。
──次回のR-1がラストイヤーになりますが、寺田さんは「R-1には夢がない」(『M-1グランプリ』のネタ中にウエストランドが放ったひと言)と言われたことに対して、「R-1優勝自体が夢だ」と語っていますね。なぜこの大会にそれほどまでの想いがあるんですか。
寺田 R-1というか、賞レースに執着してるんです。僕は常々マセキに賞レース王者がいないってことがずっと不満で。お笑いファンとしての自分が、この事務所に王者がいないことに納得できてない。R-1なんか、バカリズムさんが優勝してないのがおかしいんですよ。だから、本当のところを言うと、なにがなんでも自分が優勝したいっていうわけではないのかもしれない。マセキの人がM-1とか『キングオブコント』で優勝してくれるなら、それでもいいやってどっかで思ってます。
既存の大喜利文化を超えたい
──これから芸人・寺田寛明としてはどんなふうに活躍していきたいですか。
寺田 この1年はラストイヤーなんでR-1優勝が目標です。アイドルが好きで仕事でも関わる機会があるんですけど、R-1で3位になってから、運営さんから声をかけてもらうことが増えたんですよ。わかりやすい肩書があると、仕事をくれる人も頼みやすくなるんで、自分のためにもR-1は優勝したいです。
──年間130回以上、アイドルライブに足を運ぶと聞きました。
寺田 せっかく自分も人前に出る仕事なんで、自分の活動をアイドル業界にも還元したいです。僕のライブに来てくれる女性のお客さんが少しずつ増えてたんですけど、僕がアイドル現場に出ると、彼女たちがアイドル現場にも足を運んでくれる。アイドル現場ってどうしても女性の方が少ないんで、僕がもたらす女性のお客さんの存在を、運営側も喜んでくれる。今後もアイドルさんにもいい影響を与えられる働き方ができたらいいなと思います。
──アイドル関係でやりたい仕事はありますか。
寺田 最終目標はフェスですね。野外フェスがやりたい。全出演者アイドルでできたら最高です。あと、もし自分がめっちゃ売れることができたら、アイドル番組をやりたいです。僕がホストになって、いろんなアイドルの方々に出演していただけたらうれしいです。
──アイドルグループの番組でMCをやる、いわゆる“公式お兄ちゃん”的な仕事はどうですか。
寺田 それはどうだろう……。頼んでもらったらやるかもしれないですけど、難しいですよね。だって、ほかのアイドルを推しにくくなるじゃないですか。
──たしかに(笑)。
寺田 あと、芸人仕事でいうと、大喜利という文化をもっと広めていく活動がしたいです。
──寺田さんはライブ『大喜利千景』を主催したり、数々の大喜利ライブに出演されたり、大喜利ライブシーンで活躍されてますね。
寺田 今、大喜利界隈が本当に盛り上がってるんですよ。『大喜る人たち』っていうYouTubeチャンネルがあるんですけど、そこがだいぶ伸びてて。
──たしかに登録者数13万人超で、最近の動画はほぼ1万回以上再生されてますね。
寺田 そうなんです。今では芸人だけじゃなくて一般の方々も大喜利をするようになりました。たとえば、秋葉原に大喜利カフェ「ボケルバ」っていう一般の人が集まって大喜利ができる場所があって。僕もたまにふらっと行くんですけど、土日のイベントはほぼ確実に埋まってる。「今年から大学生です」みたいな子が大喜利やりに来てて、すごいですよ。
──MCバトルみたいな盛り上がり方ですね。
寺田 まさにそうですね。サイファーみたいな感じで車座になって大喜利してますから(笑)。僕もだいぶ長く大喜利をやってきてるので、自分のYouTubeチャンネルもそろそろ本腰入れてやらないとなと思ってます。
──テレビで大喜利番組といえば『IPPONグランプリ』(フジテレビ)が有名ですが、出演したいですか。
寺田 もちろん呼んでもらえたらありがたいですよ。でもそっちよりは、上の世代の方々が作った既存の大喜利文化とは違うものを作ることに貢献したいです。
──なるほど。
寺田 ホワイトボード大喜利って松本(人志)さんが発明したものだから、松本さん自身が言ってるわけじゃないですけど、ちょっと専売特許みたいになってる。だから、大喜利番組が『IPPONグランプリ』くらいしかないんだと思います。
──そうだったんですね。
寺田 その『IPPON』のお題も、ライブで大喜利やってる僕らからするとめっちゃやりづらいんですよね。そういう部分の進化っていう意味でも『大喜る人たち』は新しい道を開拓できてると思います。テレビの大喜利ってきれいな回答を求める風潮が強い。それもいいんだけど、そうじゃないものがもっと増えたらいいなと思いますね。
文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平、田島太陽
寺田寛明(てらだ・ひろあき)
1990年10月6日、埼玉県出身。塾講師として働きながらピン芸人として活動する。『R-1グランプリ』(フジテレビ)では2021年から3年連続で決勝に進出し、2023年は自身最高の3位に。次回の『R-1』がラストイヤーとなる。大喜利に強く、大喜利ライブ「大喜利千景」を主催する。また、アイドルファンとしても知られ、さまざまなアイドルイベントにも出演している。Twitter:@teradann、@tottemogenkiman
【後編アザーカット】