「遊ぶように働きながら、真剣に“ヒマを持つ”」ステレオテニスのサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

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クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」

今回お話をうかがったのは、80年代テイストを取り入れたグラフィックデザインで注目を集め、企画やプロデュース業など、幅広い分野で活躍しているステレオテニスさん。精力的に活動を続ける一方で、「サボり」に対しても深い関心を向けているというが、ステレオテニス流のサボり論とは?

ステレオテニス
アートディレクター/プロデューサー。80年代グラフィックのトーン&マナーを取り入れた作風で、音楽やファッションなどカルチャーシーンを中心に広告表現や空間プロデュース、イベントの企画などを手がける。電気グルーヴやももいろクローバーZなどのアーティストのグッズ制作や、ハローキティなどのキャラクターとのコラボレーションを多数展開。宮崎県都城市で2拠点生活を2018年から開始、プロデュース業やクリエイティブディレクションにも積極的に取り組む。すべてデッドストックの80年代衣料を扱うアップサイクルブティック「マムズドレッサー」を主宰。

誰も見向きもしなかった80年代が、カッコよく見えてきた

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──グラフィックデザインという分野でお仕事をされるようになった経緯について教えてください。

ステレオテニス 学生のころからデザインや絵を描くことが好きで、当時聴いていた音楽ジャンルの影響で、音楽をグラフィックで表す仕事があることを知って、京都の美大でデザインを学ぶようになったんです。卒業後もクラブでVJをしたり、フライヤーをデザインしたりしていましたね。当時は単純に表現することが楽しかったんですけど、もっとおもしろいことをしてみたいと思って、京都を出ることにしたんです。上京をきっかけに少し意識が変わって、ポートフォリオを作って持ち込みしてみたり、知り合いのデザイナーさんに作品を見てもらったりするようになりました。

あと、新宿二丁目のカルチャーと出会って、イベントでVJをさせてもらったりしていたことも大きかったです。自分の表現が広がり、音楽関係者といった方々との出会いもあり、デザインの仕事をもらえるようになって。だから、けっこうアンダーグラウンド出身の叩き上げなんですよ(笑)。

──そうした活動の中で、どのように作風を確立されていったのでしょうか。

ステレオテニス まわりがやっていないことをやろうとしていて、VJの世界は男っぽくて裏方的なイメージが主流だったので、ちょっとギャルっぽいテイストを打ち出したりしていたんです。そうした奇をてらったアプローチとして、「80年代」を扱うようになって。

当時は今のように80年代のテイストが「アリ」だとされていなくて、古くてダサい、よくない意味で「ヤバい」ものだったんですよ。それをあえておもしろがっていたのが、だんだん「これ、もしかしてカッコいいのでは……?」と思うようになって。それからは、古本屋にある雑誌や、寂れた文房具屋さんに残っている商品、レンタルビデオ店の型落ちビデオなんかを掘り出して、すみっこに追いやられている存在から、自分なりにカッコよさを見出していました。

──そうしたモチーフを、自分なりにアレンジするようになったと。

ステレオテニス そうですね。80年代をそのまま表現する懐古趣味ではなく、80年代というエッセンスを自分なりに調合して、その時代に落とし込んでアレンジするというか。お仕事の場合、クライアントの反応によってそのバランスやモチーフを自分の勘で変え、提案したりすることもあります。

発想や視点は、矛先を変えても活かせる

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──中でも反響が大きかったもの、個人的に手応えのあったものとして、どんなお仕事があるのでしょうか。

ステレオテニス 2010年代前半の、SNSでの広がりは印象に残っています。好きなアイドルについて「グッズを作りたい!」と発信したら、それが拡散されて事務所の方から連絡が来るようなことがありました。そういった仕事をきっかけに依頼もどんどん増えていって、同時に80年代的なムードが理解されるようにもなったことで、小学生のころ愛読していたマンガ『あさりちゃん』のコラボグッズを作らせてもらったり、サンリオさんとコラボレーションさせてもらったりするようになりました。

『東京ガールズコレクション』のキービジュアルは、親でも知ってるお仕事だったので、多方面から反響も大きかったです。それからだんだん平面のデザインではなく、立体物も手がけるようになりました。中でも、東京ディズニーリゾートの施設「イクスピアリ」内のプリクラエリア「moreru mignon」のディレクションは、立体としての規模も大きくて、やりがいがありましたね。

あと、電気グルーヴさんのグッズ制作は個人的に大きかったです。私が中学生のころから聴いていたミュージシャンでしたし、今でも第一線で長く活動されている方に、自分の表現を受け入れてもらえたことで、ある種の達成感を覚えたというか。

tgc『東京ガールズコレクション』(2018)キービジュアル

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denki_2電気グルーヴ公式グッズ

──そんな80年代も、今やブームと言われるほどの扱いになっています。

ステレオテニス 個人的な印象では3回目ぐらいの80年代ブームなんですけど、ここまで市民権を得るとは思いませんでしたね。ブームが続くと、もう当たり前の存在として定着してきちゃっているような気がします。だから、手慣れた感じでしつこく80年代的なデザインをやればいいのにって思いますけど、素直におもしろいと思えなくて。

それで、次は手段というか、表現の先を変えようと思うようになりました。自分の中にある80年代のポップさとか、発想の楽しさは活かしつつ、その対象を一過性で流れていくものではなく、誰もやっていない分野にシフトするのが楽しくなってきたんですよね。

地元であって、地元でない、不思議な「よそ者感覚」

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──そんな表現の変化として、地方でのクリエイションなどは当てはまりますか?

ステレオテニス そうですね。地方を行き来していると、「人が減ってるな」とか、「こういうものが不足していて、こういうものは余ってるんだな」とか、世の中の縮図として問題を知ることがいろいろある。そういった課題や気づきを、自分が80年代を再解釈してデザイン表現したときに培った視点で見てみると、解決につなげられるかもしれない。そうやって表現が変換できることにワクワクしました。

それで、私の地元にある呉服店の昭和のデッドストック服をリブランディングして販売する「MOM’s DRESSER」というブティックやったり、同じようにメガネ屋さんと組んだり、飲食店と組んだりしていると、自分にしかない視点が活かせるとわかって。「人の役に立ちたい」とか、「地域貢献」とかって、あまり好きな表現ではないんですけど、結果としてそれが人のためにもつながることに魅力を感じるようになりました。あくまで自分がおもしろがっているだけなんですけど。

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MOM’s DRESSER

──地元である都城市では、どのように活動を広げていったのでしょうか。

ステレオテニス 都城には、おしゃれなお店はあっても、知的好奇心に応えてくれるような文化の発信基地といえるような場所が少ないなと思ったんです。そんなときに、「都城市立図書館」という大きな図書館ができて、最初は実家に帰ったついでに仕事をする場所として利用していました。そのうちに、イベントスペースがあることが気になって、職員さんに何かやる予定があるのか聞いたんですよ。そうしたら、場所はあるけど企画がないので、考えているところだと。

それで、企画を持っていってみることにしたんです。実家に帰ることが増えてから、地元におもしろい活動をしている人がいたら、会いに行ってインタビューする、というフィールドワークをしていたので、これをトークショーにできないかと。それが『おしえて先輩!』というレギュラーの企画として採用されたのがきっかけですね。

──地元での活動も続けるなかで、意識していることはありますか?

ステレオテニス もう何年も離れているし、ずっと住んでいるわけじゃないので、地元だけど、地元じゃない、適度によそ者感覚でいることを大事にしています。それで、地元に対して「懐かしい」とか、「変わらないなぁ」とか言ってるのって、視野が狭い捉え方かもしれないと思って。そうすると、逆に地元が新鮮に見えてきました。同時に問題も見えてきたり。地元感とよそ者感、ふたつの視点を両立させて、おもしろいものを見つけていきたいですね。

サボりとは、贅沢のひとつである?

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──ステレオテニスさんは「サボる」ということに対して、どう考えていますか?

ステレオテニス 最近、サボっていかに好パフォーマンスを出すか考えるようになったんですよ。もともとアイデアがどんどん湧くので行動的なタイプだったんですけど、サボっているときのほうが行動的なときにはないクリエイティブにつながることに気づいて。ぼーっとしたり、好きなことをしていると、インスピレーションが湧いたり、悩みに対して別角度のひらめきが降りてきたりする。サボりは、自分本来のペースに戻す時間だと思うんです。

──仕事などはどうしても人のペースに合わせることになりますが、サボってる間は自分のペースになれる。

ステレオテニス そうなんです。サボってるときは自分が軸になるんですよ。だから、ヒマとかサボりとかって、ある種の贅沢というか。「ヒマしてる」「ヒマだ」とか言うと、すごく退屈な印象で、みんなヒマを恐れがちなんですけど、「ヒマがある」「ヒマを持っている」と言うと、ちょっと高貴な気分になれませんか(笑)。

リトリート(日常生活から離れた場所で心身をリラックスさせること)なんかも流行っていて、何もないところに出かけて、何もしないことがレジャーになっている。ヒマを買う人がいて、それがビジネスになってるんですよ。ヘンな話ですけど。そうやってヒマを買うような忙しい人たちも、自分の軸ではなく、誰かの軸を基本に生きているという感覚が拭えないんだと思います。

お金から人生や哲学を考えるのも、遊びのひとつ

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──サボりともいえる好きな時間は、何をしているときなのでしょうか。

ステレオテニス 散歩したり、寝たり、コンテンツを観たり、温泉に行ったり、瞑想したり、いろいろありますけど、お金の勉強も趣味なんです。勉強というか、お金の世界を知るのが楽しい。仕事があるのに、お金の仕組みがわかる動画を観たりしちゃいます。遊びというか、仕事と直結しないことを一生懸命やってる感じですね。

その関心も、最初は「お金とは?」「経済とは?」といったところにあったんですけど、お金のことを考えていると、だんだん自分の価値観や生き方といったテーマに広がっていくのもおもしろくて。そんなに意識の高い話ではなくて、お金に縛られないでラクに生きる、発想の転換みたいなことなんですけど。

──その結果、好きなことや趣味が仕事になって、夢中になっている人もいますよね。

ステレオテニス でも、仕事と遊びの時間は分けたほうがいいような気がするんですよね。私も遊んでお金をもらっているような感覚が仕事にあって、ずっと走り続けていても苦ではないんですけど、気がついたら背中から小さい槍(やり)で追い立てられてるように感じる走り方をしていることに、気づいてない場合もあると思うんです。それで結果的に、体にムリが出たりするのは違うのかなって。だから、ヒマを怖がってワーカホリックになったり、仕事が遊びだと言ったりするより、やっぱり遊びは遊び、真剣にヒマを持つっていう。そういうことがわかってきましたね。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

書籍『よく働き、よくサボる。 一流のサボリストの仕事術』発売!

この連載「サボリスト~あの人のサボり方~」が書籍化されることになりました。
これまでに登場した12名のインタビューに加筆したほか、書籍オリジナルの森田哲矢さん(さらば青春の光)インタビューも収録。クリエイターの言葉から、上手な働き方とサボり方が見えてくる一冊です。

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『よく働き、よくサボる。 一流のサボリストの仕事術』(扶桑社)は2023年3月2日発売

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