世界を変える!!超新星の音楽会

投稿日:2025年06月21日 10:30

 今週は新世代のふたりの音楽家、古里愛さんと松井秀太郎さんをお招きしました。
 ピアノの古里愛さんは現在13歳。アメリカの名門、バークリー音楽大学に史上最年少の12歳で入学し、奨学生として在籍しています。12歳で大学に入学するということ自体がとてつもないことですが、それもあのバークリー音楽大学なのですから、驚きです。古里さんの目標のひとつは、20歳までにグラミー賞を受賞すること。すでに将来に向けての具体的なビジョンを描いているところが、すばらしいと思いました。お話からも聡明さがひしひしと伝わってきて、まだ13歳だということを忘れてしまいます。
 古里さんが1曲目に演奏したのは「This Moment」より。これを11歳で書いたといいますから、非凡というほかありません。2曲目は新曲の「the Shared」。日本の音階をベースラインに用いて日本人である自分自身を表現しているのだとか。変化に富んだリズムがおもしろいですよね。自由に羽ばたくような高揚感がありました。20歳までの目標として、グラミー賞受賞に加えて「ジャズスタンダードを作曲する」「クラシックを演奏する人にも愛される曲を作る」といった項目が掲げられていましたが、もしかするともっと早くにそうなるかも、という期待を抱かせます。
 トランペットの松井秀太郎さんは、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」と、サン=サーンスの原曲を松井さんが編曲した「DANSE MACABRE」を演奏してくれました。サン=サーンスの原曲は交響詩「死の舞踏」。骸骨がカチャカチャと音をたてながら踊るというグロテスクなユーモアを含んだ曲です。これが松井さんの手にかかると、自由で楽しくて、洒落っ気のある音楽に変身します。カッコいいですよね。
 おしまいは古里さんと松井さんの初共演で、オスカー・ピーターソンの「自由への賛歌」。ポジティブなエネルギーにあふれたフレッシュでのびやかな音楽を堪能しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

新しい音楽の突破口!不協和音の音楽会

投稿日:2025年06月21日 10:18

 今回は「不協和音」が、いかに新しい音楽の世界を切り拓いてきたかをテーマにお届けしました。鈴木優人さんの解説で、「不協和音」とは避けるべきものではなく、むしろ音楽に不可欠な要素であることがよく伝わってきたのではないでしょうか。
 最初にモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番「不協和音」の例が示されましたが、現代の聴衆の感覚では、この曲がなぜ「不協和音」と呼ばれるのか、不思議に感じられると思います。曲名からどんなに恐ろしい音がするのかと思いきや、そこまでの違和感はありません。でも、当時は物議をかもしたのです。
 ベートーヴェンの「第九」の終楽章冒頭でも不協和音が鳴り響きます。一種のカオスの表現だと思いますが、耳にする機会の多い「第九」だけに、聴き慣れてしまうと衝撃が薄れてしまうかもしれませんね。
 その点、ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」の第1幕前奏曲は、現代人にとっても「なんだかおかしいぞ」といった不安定さが感じられるのではないでしょうか。どこに向かっているのかわからない、宙ぶらりんな感じがあって、なんとも落ち着きません。このオペラでは古い伝説にもとづいた禁断の愛が描かれます。忠臣である騎士トリスタンは、叔父マルケ王の妃としてイゾルデを迎えに行くのですが、誤って媚薬を飲んだために、トリスタンとイゾルデの間に愛の炎が燃え上がります。これは決して許されない愛。その幕開けに、あの不穏なトリスタン和音が用いられるのです。
 ストラヴィンスキーの「春の祭典」やペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」といった20世紀の音楽になると、「不協和音」が猛威を振るいます。音と音がぶつかりあって、調和しません。ペンデレツキの曲は「これって本当に音楽なの?」といった疑問を抱かせるかもしれません。でも、この曲は今や古典になりつつあります。いずれ時が経つと、この曲もモーツァルトの「不協和音」のような存在になるのでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

ウェディングで流したい新しいクラシックの音楽会

投稿日:2025年06月07日 10:30

 今週は結婚式に流したいクラシック音楽の新しいスタンダードを選んでみました。これまで結婚式のクラシックといえば、メンデルスゾーンの劇音楽「夏の夜の夢」の一曲である「結婚行進曲」、そしてワーグナーのオペラ「ローエングリン」に登場する「結婚式」が二大定番。ファンファーレで始まるメンデルスゾーンの「結婚行進曲」はいかにも華やか。一方、ワーグナーの「結婚行進曲」には厳粛な雰囲気があります。どちらも最高の名曲ですが、クラシックを使うならほかの選択もありうるのでは。ということで、選ばれたのが今回の5曲でした。
 チェロの佐藤晴真さんが新郎新婦入場の曲として選んだのは、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番の前奏曲。これは納得ですね。組曲の冒頭に置かれる始まりの音楽ですから、入場にふさわしい曲だと思います。
 ピアノの田所光之マルセルさんがウェディングケーキ入刀の場面に選んだのは、シューマンの「献呈」。シューマンが妻となるクララに捧げた曲集の一曲です。シューマン夫妻の結婚は、クララの父の猛反対があったため、裁判沙汰の末に実現しました。なぜ反対されたかといえば、クララが天才ピアニストとして名声を築いていたのに対し、シューマンはこの時点でほとんど無名の音楽家だったから。格差婚だったんですね。
 Cocomiさんが新郎新婦の再入場の音楽に選んだのは、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番の第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」。すがすがしく爽やかな演奏でした。
 両親への手紙の場面の音楽には、佐藤晴真さんがウォルトンの「弦楽のための2つの小品」の第2曲「やさしき唇にふれて、別れなん」を選んでくれました。深く、しみじみとした味わいがありました。
 最後に演奏されたのは、新郎新婦退場の場面として、フォーレの「レクイエム」より「サンクトゥス」。「レクイエム」とは意外な選択でしたが、なるほど、この神聖な曲調はぴったりかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

世界一難しい楽器ホルンとオーボエを知る休日

投稿日:2025年05月31日 10:30

 しばしば難しい楽器の筆頭に挙げられるのがホルンとオーボエ。一流オーケストラには卓越したホルン奏者とオーボエ奏者が欠かせません。今回はオーボエ奏者の最上峰行さんと山本楓さん、ホルン奏者の福川伸陽さんと五十畑勉さんをお招きして、それぞれの楽器の難しさについて語っていただきました。
 オーボエ奏者というと、よく言われるのが「いつもリードを削っている」。リードは手作りだったんですね。消耗品なので、常に作り続けなければなりません。最上さんがリードを製作しているところを見せてくれましたが、予想以上に工程が多く、まさに職人の技です。トータルの製作日数は2週間から1か月だとか。ずいぶん日数がかかります。しかも10本作っても、使えるのは1本だけ! 本番を迎える前に、こんなに長い道のりがあったとは。湿気が大敵なので、山本さんは「天気がいい日は家にこもってリード作り」と言います。目に見えない苦労がたくさんある楽器だということがよくわかりました。
 ホルンの福川さんは、指をまったく動かさずに、唇だけで音程を操ってみせてくれました。そんなことができるんですね。しかし、福川さんのような名手でも「高い音を当てるのは神頼み」。たしかに一流オーケストラであっても、常に完璧とは行かないのがこの楽器です。一方で低音域は五十畑さんが実演してくれたように、息が足りなくなる苦労があります。
 それだけ難しい両楽器ですが、いずれも最高の音色を聴かせてくれる楽器でもあります。アルビノーニの「2つのオーボエのための協奏曲」では、オーボエのいくぶん愁いを帯びた甘く暖かい音色を、ベートーヴェンの「2本のホルンと弦楽四重奏のための六重奏曲」では、柔らかくふっくらとしたホルンの音色を堪能できました。バッハのブランデンブルク協奏曲第1番では、ホルンとオーボエがともに独奏楽器を務めます。ぜいたくな音の饗宴でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

未来への扉!ニュースターの音楽会 2025

投稿日:2025年05月24日 12:36

 今週はクラシック音楽界の未来をリードするニュースターをいち早く紹介するシリーズ企画の第3弾。ピアニストの鈴木愛美さんとソプラノの野々村彩乃さんにご出演いただきました。
 鈴木愛美さんは2023年に日本音楽コンクールピアノ部門で第1位、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリで第1位を獲得。さらに2024年、第12回浜松国際ピアノ・コンクールで日本人として初めての第1位に輝きました。世界各地から多数の若き才能が参加する同コンクールで、日本人が第1位を受賞したのは初めてのこと。また、いずれのコンクールでも第1位と同時に聴衆賞も獲得しているのですから、快挙というほかありません。
 今回は鈴木優人さん指揮東京交響楽団との共演で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の第3楽章を演奏してくれました。ベートーヴェンの楽曲は、そのスタイルから初期、中期、後期に分けられますが、1803年に初演されたこの協奏曲は中期の入り口に書かれた傑作です。中期の代表作である交響曲第5番「運命」と同じように、苦悩から歓喜へと至る様子が音楽で表現されています。フィナーレに相当する第3楽章では喜びが爆発。ピアノとオーケストラの対話を通じて、高揚感あふれる力強いクライマックスが築き上げられました。作品の核心に迫る本格派のベートーヴェンだったと思います。
 野々村彩乃さんは高校野球の開会式での国歌独唱で注目を集め、その後、全日本学生音楽コンクール声楽部門で高校の部第1位、大学の部第1位を獲得。以後、ジャンルを超えた活躍を続けています。山田耕筰作曲の「からたちの花」では、柔らかくクリーミーな声が印象的でした。人気ゲーム「サガ スカーレットグレイス 緋色の野望」のオープニング主題歌「砕かれし星」では、ドラマティックな歌唱を披露してくれました。まるでオペラの一場面のようでしたね。ゴージャスでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

3曲でクラシックがわかる音楽会~チェロ編

投稿日:2025年05月17日 10:30

 今週はクラシック音楽の基礎知識を楽しく知る好評企画の第6弾。伊集院光さんを聞き手にお招きして、宮田大さんにチェロの魅力を解説していただきました。
 最初の曲はラフマニノフの「ヴォカリーズ」。ヴォカリーズとは歌詞を使わずに母音で歌う唱法のこと。つまり、原曲は歌曲なのですが、歌よりも器楽で耳にする機会のほうが多いかもしれません。ありとあらゆる楽器のために編曲されているといってもよいほどの人気曲です。人間の声にもっとも近い楽器と言われるだけあって、チェロによる演奏は曲想とぴたりとマッチしています。「チェロが人間の心情を表し、ピアノは風景を立体的に描く」という宮田さんの解説がありましたが、感情の動きがチェロからよく伝わってきます。
 2曲目はフィッツェンハーゲンの「アヴェ・マリア」。これはほとんどの方にとって初めて耳にする曲だったと思います。フィッツェンハーゲンは作曲家という以上にチェロ奏者として言及されることが多く、チャイコフスキーの名曲、「ロココの主題による変奏曲」を献呈された名奏者です。このとき、フィッツェンハーゲンがチャイコフスキーに無断で作品に手を入れて、ふたりの間が気まずくなったというエピソードが知られています。「アヴェ・マリア」はチェロの音域の広さを生かしたチェロ四重奏曲。4人のチェリストたちの音色がひとつに溶け合って、潤いのある響きが生み出されていました。
 3曲目はファジル・サイのチェロ・ソナタ「4つの都市」より第2曲「ホパ」。ファジル・サイはトルコ出身のピアニスト兼作曲家です。ピアニストとしての来日も多く、作曲家としても旺盛な活動をくりひろげています。トルコの文化に由来する作品を数多く作曲しており、「4つの都市」の「ホパ」もそのひとつ。チェロのさまざまな奏法を駆使して、民族楽器の音色を模すなど、従来の楽曲にはない新しい表現を切り拓いています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

小学校の教科書に載っている名曲なのに口ずさめない!クラシックの音楽会

投稿日:2025年05月10日 10:30

 今週は小学校の音楽の教科書に載っている名曲をどれくらい口ずさめるものなのか、街頭調査で検証してみました。名前を知っているような曲でも、歌ってみようとすると意外と出てこなかったりするものです。
 口ずさめないランキングの第5位はベートーヴェンの「よろこびの歌」。いわゆる「第九」の「歓喜の歌」です。ベートーヴェンは生涯に9つの交響曲を書きましたが、その最後に書かれた作品がこちら。日本では年末の風物詩として親しまれていますね。
 第4位はエルガーの行進曲「威風堂々」。中間部のゆったりとしたメロディは「希望と栄光の国」の別名でも知られています。格調高いメロディなので、卒業式の音楽によく使われます。
 第3位はハチャトゥリアンの「剣の舞」。こちらはネッケの「クシコスポスト」と勘違いしている人が続出。どちらも運動会でよく使われる曲です。ハチャトゥリアンはバレエ「ガイーヌ」の一場面のためにこの曲を書きました。急場しのぎで一晩で書いた曲なのですが、「剣の舞」は爆発的な人気を呼び、作曲者の代表作になりました。あまりに「剣の舞」が有名になって、ほかの作品がかすんでしまったことから、後にハチャトゥリアンはこの曲を書いたことを後悔したと言います。
 第2位はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より行進曲。この曲はまちがえやすいですよね。なにしろ同じ「くるみ割り人形」に「こんぺいとうの踊り」「葦笛の踊り」「トレパーク」「花のワルツ」など、有名曲がぎっしり詰まっているので、混同しても無理はありません。むしろ50人中9人が正しく口ずさめたことが驚きでは。
 第1位はサン=サーンスの「白鳥」。組曲「動物の謝肉祭」の一曲ですが、白鳥つながりで、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を思い出してしまう人が少なくありません。正解は50人中4人。お見事です!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

スター・ウォーズで楽しむ!パイプオルガンの音楽会

投稿日:2025年05月03日 10:57

 映画「スター・ウォーズ」ではジェダイの騎士たちが銀河の平和と自由を守ります。ジェダイの騎士が操る特別な力が「フォース」。彼らはしばしば挨拶のように「May the Force be with you(フォースと共にあらんことを)」と口にします。この決まり文句と May the 4th をかけて、5月4日は「スター・ウォーズの日」と呼ばれるようになりました。もともとはファンたちの遊び心から生まれた記念日だったのですが、今では公式の記念日として定着しています。
 今回はオルガニストの石丸由佳さんが、東京藝術大学奏楽堂のパイプオルガンのさまざまな音色を駆使して、「スター・ウォーズ」メイン・タイトルを演奏してくれました。たったひとりで演奏しているにもかかわらず、その壮大さは「スター・ウォーズ」の世界観にぴったり。石丸由佳さんのジェダイの騎士を思わせる衣装も決まっていましたね。
 有名な冒頭の勇ましいメロディは、主人公ルーク・スカイウォーカーのテーマと呼ばれます。輝かしさと重厚さが一体となったパイプオルガンの音色が、ルークの冒険心と秘められたフォースの強大さを伝えてくれました。いったん音楽が静まった後に登場するフルートのパッセージは、あたかも本物のフルートのように軽やか。王女レイアの主題では、弦楽器系のストップに「ウンダ・マリス」のストップが重なって、うねりを作り出します。優雅なメロディなのですが、暗い色合いが加わって、悲劇を予感させるところがなんとも味わい深いと思いました。
 オルガンのストップについての解説もとても興味深いものでした。あんなにもたくさんのストップがあるとは。「フルート」や「トランペット」といったストップはイメージしやすいですが、鼻声風の「ナザート」や、古楽で使われる弦楽器「ヴィオラ・ダ・ガンバ」があるのがおもしろいですね。ストップの組合せから音色を作り出す様子はまるでシンセサイザー。多くの作曲家たちがこの楽器に魅了された理由がよくわかります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

本気でプロを目指す!「題名プロ塾」ソリスト科~後編

投稿日:2025年04月26日 10:30

 今週は先週に続いて、葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」ソリスト科の後編をお届けしました。塾生は木村美宇さん、和久井映見さん、加藤光貴さんの3名。最終レッスンでとりあげたのは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロからなるピアノ・トリオによる坂本龍一の作品です。
 「Rain」はもともとは映画「ラストエンペラー」で使われた楽曲で、後にピアノ・トリオ用に編曲されて、アルバム「1996」に収められました。塾生の加藤光貴さんが切れ味鋭い演奏を披露したところ、葉加瀬さんは映画「ラストエンペラー」のどんな場面でこの曲が使われているかに注目するようにアドバイスします。この曲が使われたのは、皇帝との離婚を決意した第二夫人が、雨の中、家を出ていくシーン。葉加瀬さんはヴァイオリンは第二夫人の心の叫びであると指摘し、休符の使い方で心の叫びを表現するように求めます。指摘を受けた後の演奏は、ぐっとエモーショナルな音楽になっていたと思います。
 「ゴリナがバナナをくれる日」は1970年代にテレビCMのために作られた曲で、こちらもアルバム「1996」でピアノ・トリオ用に編曲されています。和久井映見さんの演奏に対して、葉加瀬さんは楽譜上のコンマに注目して、曲想が変化する場所を指摘します。些細なことのようでいて、レッスンの前後でずいぶん音楽の表情が変わっていました。木村美宇さんの演奏に対しては、ヴァイオリンの同じメロディが再現する場面で、ピアノが聴く人の予想を裏切っていったんの沈黙の後に出てくるところに着目します。葉加瀬さんがここに求めるのは「燃えたぎるようななにか」。楽譜を注意深く読むことで、音楽的な頂点がどこにあるのかがわかるというお話でした。
 塾生の皆さんそれぞれが見事な演奏を聴かせてくれた結果、最後に「首席」に選ばれたのは和久井映見さん。「表現をしようという力が強い」という講評があったように、聴く人を惹きつける演奏だったと思います。これからの活躍を期待しています!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

本気でプロを目指す!「題名プロ塾」ソリスト科~前編

投稿日:2025年04月19日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」ソリスト科の前編をお届けしました。プロの実践的なノウハウを伝授する「題名プロ塾」ですが、今回はさらに一歩進んだ「ソリスト科」。主役を担える新世代のヴァイオリニストを育成するための指導が行われました。
 多数の応募のなかから選ばれた受講生は、木村美宇さん、和久井映見さん、加藤光貴さんの3名。今回の課題曲はそれぞれロマ音楽、ジャズ、タンゴといった世界各地の大衆的な音楽にルーツを持ちつつ、クラシック音楽の世界でも知られる作品ばかり。クラシック音楽とポピュラー音楽の垣根を超えた楽曲が選ばれています。
 最初にモンティの「チャールダーシュ」を弾いてくれたのは木村美宇さん。澄んだ音色で端正に弾いてくれましたが、葉加瀬さんは冒頭のメロディにロマの哀しみを求めます。「勝手に歌詞をつけていいから歌だと思って弾いてほしい」というアドバイスを受けた後の演奏は、格段に感情を揺さぶる演奏になっていました。
 「チャールダーシュ」の後半部分では和久井映見さんがとても速いテンポで小気味よい演奏を披露。しかし葉加瀬さんはこのテンポを後にとっておけばよいとアドバイス。そして、音楽が転がらないようにするためのコツを提案します。アドバイス後の演奏のほうが、ぐっと引き込まれる音楽になっていました。
 ガーシュインの「アイ・ガット・リズム」では、題名プロ塾第2弾にも出演した加藤光貴さんが再度のチャレンジ。とてもカッコよく弾いてくれたのですが、葉加瀬さんは、もともとこの曲についている歌詞に着目して、言葉のリズムを反映させるように求め、さらに説得力のある演奏を引き出します。「原曲の歌詞にはヒントが山のようにある」と教えてくれました。
 ピアソラの「リベルタンゴ」では3人そろっての指導が行われました。三者三様の個性があらわれていましたが、葉加瀬さんの指導によって、3人がどんどんと変わっていく様子がよくわかります。次回は3人のなかから「首席」が選ばれることに。いったい誰が選ばれるのか、楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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