茨城・那珂市
~フランス育ちの提灯職人~

舞台は茨城県那珂市。隣の水戸市を中心に作られてきた伝統工芸品に「水府提灯」があります。かつて水戸藩の武士たちが生活を支えるために提灯作りに励んだことが始まりとされ、江戸時代から続く伝統の技です。主人公はそんな提灯作りの技を義父から受け継いだ、ジェフリー・ラッジさん(44歳)。周囲からは「ジェフ」の愛称で親しまれています。ジェフさんはイギリス人の父とドイツ人の母を持ち、スイス生まれでフランス育ちという国際的な経歴の持ち主。妻の父であり、提灯職人の師匠でもある飯島實さん(83歳)のもとで4年半前に修行を始め、今年、晴れて2代目を継ぎました。師匠の實さんが36年前に開いた工房『飯島工作所』では、販売はしておらず「火袋」と呼ばれる、提灯の明かりがつく胴体の部分のみを業者専門に納める仕事をしています。
かつてフランスの旅行会社に勤めていたジェフさんは、24歳の時、大自然に惹かれて移住目的でニュージーランドへ。現地のりんご園で働いていた時、ワーキングホリデーで日本からやってきた聡子さんと運命の出会いを果たします。遠距離恋愛を経て結婚後は、聡子さんの故郷・茨城県那珂市で暮らすことになりました。英語講師として働いていたジェフさんに転機が訪れたのは2017年。聡子さんの母・京子さんが亡くなり、妻と二人三脚で提灯作りに励んできた父・實さんは気落ちし「提灯工房を廃業する」と言い出しました。そこでジェフさんが、「伝統がなくなるのはもったいない。もの作りが好きだから手伝う!」と立ち上がったのです。そして實さんの元に弟子入り。修行の末、今年1月に實さんから正式に「飯島工作所」を受け継ぐことになりました。
技術を習得し日々提灯作りに励み、家庭では良きパパのジェフさん。多忙な妻に代わり夕食作りや2人の子どもたちの世話などを率先して行います。パン作りも講師の資格を持っている程得意で、長女・美波さん(11歳)はジェフさんの手作りパンが大好き。長男・海路さん(15歳)の通う中学校ではPTA会長も務めるなど、提灯職人としての仕事以外にも様々なことに意欲的に挑戦を続けています。日本の提灯作りの伝統を守り継ごうと努力するジェフさん。これからも師匠・實さんと温かな交流を、そして元気な家族とにぎやかで楽しい毎日を過ごして下さいね!



修業の末、提灯職人として一人前になったジェフさん。これまで師匠・實さんから伝統的な「水府提灯」の流れをくむ製法を学んできました。まず、竹を割って竹ひごを作ることから始まり、提灯の骨組みに加工していきます。ひごの端を薄く削り、段差のないなめらかな継ぎ目を作ると紙で巻いて、輪っかにしていきます。次に、實さん手作りの提灯型に竹ひごをかけて、その後糸を使って提灯の形に固定する「糸かけ」の作業に入ります。大変なのは何十本もあるひごを等間隔に、そして歪みが出ないように糸をかけていくこと。作業が終わると、師匠・實さんが様子を見にやってきました。ひごが少したるんでいるのを指摘され、しっかりとその言葉を受け止めるジェフさん。師匠はすかさず「あとは完璧!大丈夫だ」と優しいフォローの言葉を欠かしません。そして休憩に入れば、冗談を言い合って談笑します。まるで本当の親子のように仲良しなんです。



朝6時。ジェフさんと、妻の聡子さんが仲良くキッチンに立ちます。ラッジ家では、ジェフさんと長女の美波さんが洋食派、聡子さんと長男の海路さんが和食派なので、それぞれ違う料理を作るんです。もの作りが大好きなジェフさんは、パン作りにも興味を持ち、日本に来てからパン講師の資格を取ったほどの腕前。お手製の「三つ編みパン」とソーセージで、洋食チームの美波さんと朝ごはんです。「海路、まだ寝てたよ!」「起こしにいく!?」と父娘がお兄ちゃんの噂をしているところに、寝ぼけ眼で起きてきたのが海路さん。寝起きで聡子さんが作った鯖の味噌煮と白米をもりもりとほお張っていました。
そんな育ち盛りの子どもたちのため、共に働き、子育ても頑張るジェフさんと聡子さんです。



ジェフさんが作る提灯の「火袋」は、その後、専門の職人の元で文字や絵が描かれ、枠が取り付けられて完成します。そのためジェフさんは、自分なりのオリジナル提灯も作ってみたいと常日頃考えていました。この日、ジェフさんは師匠・實さんにあるものを披露しました。それは「ステンドグラス提灯」なるもの。実はジェフさん、子供の頃にドイツの祖父から教わって以来続けている趣味が、ステンドグラス作り。それと、竹と和紙で作る提灯をコラボレーションさせた新しい作品です。實さんが趣味で作った小型提灯に半月をデザインしたステンドグラスを載せたものや、あえて骨組みの中からステンドグラスがのぞく仕組みにした提灯など、ユニークな作品を披露したジェフさん。「自分の提灯がこんなふうに出来るとは思わなかったよ。」と、實さんは新たな試みに驚きとっても嬉しそうでした。



休日のこの日、ラッジ一家の姿は、高萩市のダム湖にありました。普段夫婦ともに忙しく働いていて、たまには家族で楽しい時間を過ごそうと考えた聡子さんが、カヤックツアーを申し込んだんです!インストラクターからレクチャーを受けて家族全員で湖に漕ぎ出します。長女の美波さんは、勢いあまって海路お兄ちゃんにカヌーをぶつけてしまいますが、余裕の大爆笑。最初は緊張していた海路さんもだんだんと慣れてくると「楽しくなってきた!」と張り切ります。聡子さんは鳥の声や水の音に耳を傾け、癒しのひと時…、でも一番はしゃいで喜んでいたのは、誰あろうジェフさん。みんなに水をかけていたずらをしたり、最後には「クリスマスプレゼントにカヤックが欲しい!」と言い出しちゃいました。自然の体験で、身も心も癒されたラッジ一家でした。

今回、ご紹介したラッジさんの『飯島製作所』では、専門業者に火袋を収める仕事をしており、提灯の販売は行っておりません。また、東京・台東区の提灯問屋『髙山商店』も卸専門で一般への販売は行っていませんので、ご了承ください。