舞台は歴史ロマンあふれる、奈良県奈良市。長年趣味で続けてきた茶道の知識を生かし、抹茶の専門店を始めた平野重夫さん(67歳)と、妻の衛子さん(65歳)が主人公です。
東京に生まれ育った重夫さんは、航空貨物会社の営業マンでした。衛子さんと結婚後、大阪へ転勤が決まると、古代史が好きな重夫さんは住まいを奈良に決めました。土器の発掘などにも興味を持っていた重夫さんは、焼き物が好きになり、次第にお茶の世界へと興味が広がり、39歳で裏千家に入門します。そして退職後の2010年、自らの夢を叶えるべく、衛子さんを巻き込んで「喫茶去 庵(きっさこあん)」をオープンさせました。
「茶の湯の世界をみんなに広めたい」、それが重夫さんの熱い思いであり、夢でもあります。そんな夫を冷静に見つめ、時には厳しく、時には優しく支えてくれる衛子さんと共に、奈良の地で頑張っています。
敷居が高い、と敬遠されることも多い茶道の世界。それを気軽に楽しんでもらいたいと店を始めた重夫さん。洒落た和の空間に、お客さんとのおしゃべりが響くアットホームな雰囲気です。思わず「和カフェ」と呼びたくなりますが、日本のお茶をこよなく愛する重夫さんに対して、“カフェ”や“コーヒー”という言葉は禁句!日本に古来から伝わる、和のおもてなしの心を大切にしたいそうです。
厨房では、妻の衛子さんがお茶菓子を仕込みます。自慢は、和三盆で仕上げたつぶあんを使った、おはぎ。仕上げに、古木の若葉から作られる粉を練った「濃茶」というお抹茶をかけます。濃茶は本来、4~5人で一椀を飲みます。一つの器で何人もが飲むことで、絆が生まれるそうです。ちなみに、通常のお抹茶は「薄茶」と呼ばれます。
重夫さんのお茶仲間が、友達を連れて店を訪ねてくれました。お店がある「ならまち」は、町家が立ち並ぶ歴史ある場所。この町を愛す重夫さんは、時折お客さんに案内もします。蚊帳生地を使ったふきんが大人気の店、吉田蚊帳を訪ね、その後は重夫さん行きつけの春鹿酒造へ。蔵自慢の5種類の日本酒を利き酒できるコーナーがあって、お客さんも大満足。仕事中ですが、重夫さんもついつい飲んでしまいます…。
ある日、重夫さんは、和服に身を包んで店の二階のお茶室へ。そこには着物姿の女性達がいて、「喫茶去 庵」はいつもと違う雰囲気です。これは茶会の体験教室で、お点前をする時の作法を、重夫さんが初心者の方に分かりやすく教えているのです。「喫茶去 庵」を拠点に、お茶の魅力を伝え続ける。それが重夫さんの一番の思いであり、夢です。茶の湯の世界で脈々と伝えられてきた、日本ならではの素晴らしい心を、これからもみんなに広めていって下さい!