舞台は、雄大な山々に抱かれた熊本県阿蘇市一の宮町。民宿と農家レストラン「森の駅 どんぐり」を営む、菅乃保留(のぼる)さん(74歳)と妻の美佐子さん(66歳)が主人公です。
米農家に生まれ、一時は家業を継いだ乃保留さんでしたが、33歳の時に大けがをして農作業が出来なくなってしまいます。そこで自動車販売店に転職、持ち前の粘り強さを発揮して、気がつけばトップセールスマンになっていました。その後、45歳の時に看護師をしていた美佐子さんと結婚。三人の子どもたちに恵まれました。
50代を迎えた頃、乃保留さんは、生まれ育った町がいつのまにか閑散としていることに気づきました。地元の農業は衰退し、若い人たちは仕事を得るために都会へ出て行ってしまったのです。そんな町の現状に胸を痛めた乃保留さんは、地域の活性化に情熱を傾け始めます。そして定年後、65歳の時に、自宅の古い蔵を改装して農家レストラン「森の駅 どんぐり」をオープンさせました。美佐子さんが自家栽培の野菜を使って作る料理は、お客様から評判となり、2年後には農家民宿「かわせみ」もオープン。
お二人の努力が実って、町は少しずつ賑やかさを取り戻しています。
「森の駅 どんぐり」は、どんぐりの森に建っていることから、こう名付けられました。その建物は、築130年の蔵を乃保留さんがこつこつと自らの手で改装したもの。天気が良ければ、お洒落で解放的な食堂から阿蘇の山々が一望できます。
民宿「かわせみ」も、元々は家畜小屋だった建物を乃保留さんが改装して作りました。古民家の風情に洋風のアクセントを少し加えるのがお洒落のコツだと、乃保留さんは語ります。そしてもう一つの自慢が、山の湧水を使ったお風呂。これも乃保留さんが自分で石積みをして作り上げました。
料理が大好きな妻・美佐子さんは、農家レストランと民宿の料理長。自宅の畑で採れた新鮮な野菜を使って、コース料理に仕立てます。お昼の「おまかせ御膳コース」は全部で15品、2500円。美佐子さんが愛情込めて作る旬野菜の料理を目当てに、県外からもお客様がやって来ます。
2千年以上の歴史を持つと伝えられる「阿蘇神社」。その門から真横に延びる参道は、全国的に珍しい「横参道」です。その先に広がる門前町商店街は、20年ほど前はシャッター通りと化していましたが、乃保留さんが町おこしのアドバイザーとなり、少しずつ賑やかさを取り戻しています。