今回の舞台は熊本県熊本市。市民が利用する路面電車の運転士・冨嶋泰文さん(52歳)が主人公です。
泰文さんは幼い時から鉄道が好きで、将来は鉄道員になりたいと思っていました。大学卒業後は地元の信用金庫に就職。鉄道は趣味として愛し続けていました。ところが、市電で通勤するようになった48歳のとき、車内に張られた「運転士募集」の広告を見て、少年時代の思いがよみがえってきました。夢をかなえようと50歳で信用金庫を退職。去年7月、運転士の採用試験に臨み合格し、今年の4月から市電の運転士としてデビューしました。50歳を超えて幼き日の夢を実現した新人運転士・冨嶋泰文さんの日々を紹介します。
運転士の採用試験に合格した後は、8カ月間に及ぶ研修で技術と知識を習得しました。同期の仲間はほとんどが年下の若者たち。彼らに比べると、操作の仕方や専門用語などを覚えるのに苦労したそうです。初めての運転から8カ月が過ぎましたが、まだまだ新人です。多くの先輩からアドバイスを受けながら安全運転を心掛け、運転士として日々向上を目指しています。
朝5時。この日の運転シフトは早朝からです。最初に車両を動かす運転士は始業点検を行います。車両の前後にある運転席でそれぞれの作動を確認、さらに車内の清掃をします。雨が降っても雪が降っても、市民のために市電を走らせます。泰文さんは「運転をしているときは楽しむ余裕はないけれど、レールの上を走るうれしさがある」と笑顔で話します。
泰文さんの就職祝いをするために、高校時代の同級生が宴を催してくれました。懐かしい顔が集まり昔話に花が咲きます。当時、泰文さんは野球部に所属していました。控えの選手でしたが、高校最後の夏に甲子園に出場。9回の表だけ、レフトを守りました。憧れだった甲子園…高校時代の夢がかないました。そして今、もう一つの夢―鉄道員になったのです。
泰文さんが向かったのは博多駅。今一番見たい豪華列車「ななつ星」が博多駅から出発します。ホームには多くの見物客が来ています。少年時代の泰文さんはよく鉄道の写真を撮りに行きました。この日もカメラを構えると、当時の記憶がよみがえってきます。「ななつ星」の出発を見送った後の感想は、「ロケットが飛び立つみたい!」さすが鉄道好きの泰文さんです。