雄大な大地に夢をはせ、移住してくる人も多いという北海道・美深町。脱サラして、なんと羊飼いに転職した田中孝幸さん(52歳)と久美子さん(57歳)ご夫婦もそんな移住者の一組。通信会社で忙しい日々を送っていた時、本屋で目にした1枚の写真が、全てのきっかけでした。大草原を歩く羊の群れの写真を見たその日から、孝幸さんの頭は、羊との優雅な生活への思いでいっぱいに。仕事の傍ら、着々と準備を進め、48歳で美深町の住人となりました。羊のチーズを作ろうと、開いたお店は「チーズ工房 羊飼い」。羊への熱い思いで突き進む孝幸さんと、そんな生活をマイペースに楽しむ久美子さんの毎日を紹介します。
突然、移住を決意した孝幸さんですが、チーズ作りはかなり勉強を重ねました。その日の湿度や温度に左右される難しい作業を、持ち前の几帳面な性格をいかして、きっちりこなしていきます。現在販売しているのは、近くの牧場から搾りたての牛乳を分けてもらって作る、モッツァレラやプロヴァなど3種類のチーズ。羊のミルクのチーズは、現在、試作を重ね今秋より販売する予定です。
「チーズ工房 羊飼い」で販売を担当する久美子さんですが、大好きな「機織り」の時間も大切にしています。自宅に機織り機を置き、個展まで開くという本格派。久美子さんは「毎日少しでもこの趣味ができるならば、住む場所にはあまりこだわらない」と言います。「自分も好きな事をやってこそ、相手の好きな事も尊重できる」夫婦二人で新しい生活を楽しめるよう、田中さんご夫婦が心がけている事です。
こちら松山農場は、羊1,000頭を抱え、羊のミルク製品を販売する日本でも珍しい農場です。孝幸さんが美深を移住先に選んだのも、この農場があったからこそ。土地を安く貸して頂いたり、羊のチーズ作りに使うミルクを分けてもらったり。頼りになる農場主の柳生さんに「こういう人は羊に魂を奪われている」と言われ、なぜか嬉しそうな孝幸さんです。
美深町に移住してから、チーズ工房を開いたり、大切な羊を飼う為の環境を整えたり、忙しい日々を送ってきた孝幸さん。やっと準備が整い、念願の羊がやって来たのは今年6月。初めて搾った羊のミルクは4頭でわずか50CCでした。しかし孝幸さんにとっては記念すべき第1歩。「自分の羊のミルクでチーズを作る」という大いなる夢は、まだ始まったばかりです。