風情ある城下町・山口県岩国市で、ミニチュア作りに取り組む島木英文さん(60歳)と啓子さん(63歳)ご夫婦が主人公。自宅が工房になっており、その名は「カサ・デ・トンタ」。そこに並ぶ作品を見ると、リアルな出来に誰もがびっくり!英文さんが作るのは、日本家屋をモチーフにしたミニチュア。特徴はすべてが木の箱に入っていること。作品は「箱舞台」と名づけられ、正面からのぞいて見ると・・・。例えば、昭和20年の農家を再現した作品。手前に精巧に出来た囲炉裏があり、奥には畳の間と庭の景色。箱の大きさ以上に奥ゆきを感じさせる不思議なミニチュア。そこには、英文さんがかつて建築士として働いていた経験が活かされていました。まるで魔法の様な技で再現された、小さな小さな和の世界。その驚きの世界を制作工程も交えてご紹介します。
箱舞台をのぞくと、なぜか奥行きを感じる英文さんのミニチュア。その秘密は、透視図法を使っているから。建物も小物も、奥ほど小さくなっていて、遠近感が強調されているんです。だから作品を上から見ると台形。この手法を使ったミニチュアは珍しいそうです。必ず実物の建物の事前調査を行い、その計測を元に設計図を作成。建築士だった頃の経験が活かされています。
英文さんの新作は、鳥取市にあった布団屋さん「高砂屋」。英文さんはピンセットを使っての作業で苦戦中。その先端には幅0.5ミリの木材・・・。 何と幅15ミリの神棚を制作中、屋根に0.5ミリの垂木を貼り付けてました。「下からのぞくと見える!」と言う英文さんに対し「見えない」と啓子さん。何度もチャレンジし、見事に垂木を付ける事に成功しました。しかし正面からのぞいて見ると・・・結局見えませんでした!でも見えない所も決して手を抜かない。その姿勢が作品のリアルさにつながっているんです。
夫婦での夕食。英文さんは食事の前に必ずしなければならない事があります。それは、インスリンを打つ事。32歳の時、過労で突然倒れ、意識不明に。それが原因で“1型糖尿病”を患い、以来病気と向き合いながら生活しています。「体が動く限り、一つでも多くの作品を一生懸命作りたい」英文さんは、そんな思いでミニチュア作りを続けています。
ご夫婦はミニチュア作りの原点・柳井市に出掛けました。日本家屋シリーズを制作するきっかけとなった場所です。立ち寄ったのは、ミニチュアを作った明治23年創業の「重枝醤油店」。ミニチュアのお店には醤油をはじめ、様々な商品が並んでいます。英文さんはお店の方に頼んでラベルや包み紙を頂き、一点一点縮小することで忠実に店内を再現しました。英文さんはこの苦労があって今があると言います。これをきっかけに、和の風景にこだわった作品を作り続けています。