島根県大田市が舞台。主人公は底引き網漁船の漁師になった井上豊さん(48歳)と妻の夏美さん(41歳)です。山々に囲まれた岐阜県出身の豊さんは、幼い頃から海が大好きで漁師に憧れていました。34歳の時に結婚し、神戸の警備会社に勤務。豊さんに転機が訪れたのは46歳の時、不景気の影響で会社を退職する事に。これを機に豊さんは夢だった漁師になる事を決意。漁業就業セミナーに参加し、大田市の松島丸・森山船長と出会います。2009年10月から船長の家に住み込みで研修をスタート。研修半ばを過ぎた頃、夏美さんと3人の子供も大田市に越してきました。想像以上に大変な仕事で船酔いの毎日。逃げ出しそうになりましたが、家族に支えられ2010年4月、遂に憧れの漁師になりました。
豊さんが働くのは森山量治船長(68歳)以下乗組員5名の底引き網漁船・松島丸。夜明け前に出港し、夕方までのおよそ15時間、漁を行います。取れた魚は帰港後すぐにセリにかけられ、翌朝には大阪・神戸の市場に並ぶので、地元では「一日漁モノ」と呼ばれています。長丁場の漁ですが、豊さんには楽しみがあります。それは水平線から昇る朝日。その美しさに毎日、一時の安らぎを味わいます。しかしそれも束の間。慌ただしく網上げが始まり、先輩の指示に従い作業を行う豊さん。海底140mに流した網をゆっくり巻き上げると、タイやカワハギ、アナゴなどが取れます。午前7時、取ったアナゴが沢山入った味噌汁で朝食です。同じ釜の飯を食べる乗組員は家族同然です。
妻の夏美さんは、豊さんの仕事と関わっていたいと干物や一夜干しを作る岡富商店で働いています。仕事を始めた事で地域の人たちとの交流が生まれ、生活面でも相談に乗って下さる方々ができたそうです。井上さん一家は、すっかり地域の生活に馴染んでいます。
食卓に並ぶお魚は「分け前」として豊さんが貰ってきた物。双子の空くんと海ちゃん、末っ子の風ちゃんは、お父さんの取ってくるお魚が大好き。家族との夕食は、豊さんが一番ホッとする時間です。
漁が休みになれば家族で釣りに出掛けます。「都会で働いていた時より給料は安くなったけど、家族で過ごす時間が増えた。」と豊さん。夏美さんは毎日ワクワクしながら過ごしているそうです。元気と笑顔溢れる家族に支えられ、新米漁師の豊さんは今日も漁に出かけます。