登山客に人気の高見山で知られる、奈良県・東吉野村。この村で、週末限定の店「高見山登山口 たこ焼きのきくや」を営む井上義一さん(71歳)と妻・未也子さん(67歳)が主人公です。
店はかつて義一さんの亡き母が、食堂を営んでいた場所。義一さんは空き家になった実家を守るため、自宅がある大阪から通い修繕を続けました。義一さんの退職が迫ると、未也子さんが「ここで何かしよう」と提案。ご夫婦はたこ焼き屋なら手軽に始められると考えました。そして店内を自らの手で改装し、2008年にたこ焼き屋として再オープンさせました。
大阪から通い、夫婦で週末の営業を始めて三年。山の中の店は大繁盛…とはいきませんが、地元の方や常連さんに愛される場所となりました。
たこ焼きは、本場・大阪にある専門店で仕入れた材料を使います。生地作りは粉と水、卵の割合が重要。その割合は義一さんが何度も試作して生み出した黄金比率で、焼くとふんわりトロトロの美味し~いたこ焼き!とにかく丸く焼くことと、たっぷりソースをかけるのが義一さんのこだわり。知る人ぞ知る、人気の味です。
かつて食堂だった店内を、義一さんが一人でコツコツと改装して再オープンさせた「たこ焼きのきくや」。
店内には今も、母・豊子さんが使っていたイスや鍋、おかもちなど昔懐かしい道具が残っています。
昭和の食堂の雰囲気をそのままに。レトロで味のあるお店です。
お店のすぐ下に住む親戚の中西さんご夫婦は、「きくや」のたこ焼きの大ファン。義一さんが配達したたこ焼きを肴に、ついついお酒がすすんでしまうそうです。中西さんは、昔馴染みの義一さんが土・日だけでも故郷に戻って来る事を嬉しく思い、井上さんご夫婦のことを気にかけてくれています。
ある日、中西さんからたこ焼き20パックという大口注文を受けたご夫婦。納品先は…なんと神社。初午の行事で神前にお供えされたんです。行事が終わり振舞われたたこ焼きは、地元の皆さんに大好評。「きくや」が故郷に受け入れられ、地元の皆さんに愛されていることを心から嬉しく思っている井上さんご夫婦です。
平日は大阪・羽曳野市の自宅で暮らす井上さんご夫婦。昼食は、いつも決まって売れ残ったたこ焼きです。残念ながらお店は少々赤字気味。でも義一さんが町工場でアルバイトをしたり、お店で使う野菜を夫婦で育てたりと工夫しています。そんな大阪での生活があるからこそ、週末にまた故郷・東吉野村で頑張れるんです。