今回の舞台は、京都府の北部にある伊根町です。舟屋が立ち並ぶ風景で有名な町。舟屋とは海面ぎりぎりに建ち、船や漁の道具を入れておく伝統的な建物です。この町が故郷の鍵賢吾さん(40歳)。妻の美奈さん(40歳)と共に、舟屋を使った一日一組限定「舟屋の宿 鍵屋」を営んでいます。元々は美奈さんの故郷、茨城県で喫茶店を経営していましたが、賢吾さんの父の病を機に一家でUターン。実家の舟屋を改装し、一年半前、民宿を開業しました。鍵屋は海の楽しみを満喫できる漁業体験民宿。賢吾さんの漁船で海から舟屋をガイドしたり、釣り体験や新鮮な海の幸を振る舞い宿泊客をもてなします。宿の仕事を通じて高齢化が進む故郷を元気にしたいという思いが込められています。
伊根町の舟屋群は5年前「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されました。舟屋は、元来は船を海から引き上げ、雨風から守る為の小屋でした。江戸時代からあったとされ、伊根の漁師町としての歴史が伺えます。およそ230軒の舟屋が連なる見事な景観は世界にただ一つ、伊根町だけのものと言われています。
鍵屋の魅力の一つが食事。賢吾さんのこだわりは、魚を美味しいタイミングで食べてもらう事。それぞれ美味しい食感を引き出す為に、ホウボウは12時間ねかせ身がやわらかくなるのを待ち、アジとレンコダイ(キダイ)は歯ごたえのあるうちに食べてもらおうと締めてすぐに出します。旬の魚の、まさに美味しい瞬間を味わえます。
宿をオープンさせる時、漁師としてもデビューした賢吾さん。新米の賢吾さんを指導してくれるのが、心強い先輩漁師の倉治成さんです。この日は船を係留する為の‘つぼ’の作り方を教えてくれました。過疎化の問題を抱える伊根町にとって、鍵さんご夫婦の様な若手は貴重な存在。町を元気にしたいという鍵さんご夫婦を、先輩方も応援しています。
民宿の仕事を通じて、伊根町の観光には海と船が不可欠と考えた賢吾さん。漁船で海から買い物に行く企画を思い付きました。老舗〝向井酒造〟の女性杜氏・長慶寺久仁子さん(35歳)が快諾してくれ、新たな試みとしてスタート。お客さんも喜んでくれています。応援してくれる先輩がいる様に、町を元気にしたいと思う同世代の若者もいます。賢吾さんは、こうして町の人と共に、伊根を盛り上げていきたいと考えています。