織物の街、群馬県桐生市が舞台。“繊維のダイヤモンド”と呼ばれる美しい糸に魅せられて、天蚕飼育を始めた松井定夫さん(57歳)と妻のひろ子さん(55歳)が主人公です。34歳の時、杏の花の色に感動し、染色を始めた定夫さん。ある時、染めなくても美しい糸を作る野生の蚕「天蚕(てんさん)」と出会いました。“この糸を引いてみたい!”新たな夢を持った定夫さんは天蚕農家になる事を決意、早期退職します。群馬県唯一の天蚕農家で修行を積み、今年6月から天蚕飼育をスタートしました。それから2ヶ月、いよいよ待望の繭収穫です。“繊維のダイヤモンド”の出来ばえやいかに。自然が生み出す色の美しさを追い求める定夫さんの夢をご紹介します。
こちらが天蚕畑。家の中で育てられる白い蚕と違い、天蚕は太陽の下、クヌギやコナラの葉を食べて育ちます。天蚕を目の前に“可愛い”と目じりを下げる定夫さん。毎日の草刈もなんのその。憧れの“繊維のダイヤモンド”を夢見て、作業に励みます。
畑作業の合間を見つけては、染色にも励む定夫さん。天蚕の糞を使った“蚕沙(さんしゃ)染め”も楽しみのひとつです。ひろ子さんに手伝ってもらいながら、染めた布を畑の横の清流でさらします。杏の花の色に感動し“自然の色を表現したい”と思った気持ちは、今も色褪せることはありません。
この日、定夫さんがやってきたのは地元の川内小学校。6月に寄付した天蚕が繭を作り始めたとの連絡を受けて、様子を見にやって来ました。糸を吐いている天蚕を前に、先生も子供たちも、大興奮。貴重な瞬間を見ることができました。
待望の繭を収穫して、定夫さんがやって来たのは師匠、登坂昭夫さんのお宅。仕事を辞めてまで天蚕飼育をしたいという定夫さんに、全てを教えてくれた優しい師匠です。登坂さんの工房で、製糸のベテラン朝比奈清子さん、登坂美祢さんにも手伝って頂き、いよいよ繭から糸を紡ぎます。
“繊維のダイヤモンド”と呼ぶにふさわしい、美しい緑色の糸が出来上がりました。いち早くひろ子さんに見せようと帰宅した定夫さん。その出来を見てひろ子さんも一安心です。いつかは「この糸で着物を織りたい」という定夫さん。夢はまだ始まったばかりです。