後編に続く 
  栗山:理想のキャッチャーって言われるとどういう?

阿部:理想は毎年日本一になって、勝てるチームのキャッチャーっていうのが理想かなと。

栗山:まずやっぱり「勝つ」という・・・

阿部:はいそうですね。


栗山:勝つために阿部さんが今考えている「こんなキャッチャー像」みたいなものってどんな感じですか?

阿部:チームの方全員からも信頼されて「この人なら大丈夫だ」っていうね、そういう信頼を置かれてる人だと思うんですけど、それが理想だと思いますけど。


栗山:そういった意味ではもう本当に去年の後半くらいからはいろんなピッチャーの方に聞いてもね、「もう慎之助が(サイン)出してくれるんだから」っていうふうな形になってきてるんですが、自分の中でこの2年間で最初入団したころと去年の終わりごろ、特に日本シリーズの時には僕らもいろんな話を聞かせてもらって「そこまで分かってるのか」という感じがしたんですが、自分で変わっていきました?

阿部:自分でどこが変わったっていうのはあまり実感ないんですけども、それが分かってしまったらある意味終わってしまう部分ってあると思うんでね。


栗山:なるほど。そういった意味ではキャッチャーって、たとえば肩とかキャッチングとかリードとか状況判断とかいろんなものがあると思うんですが、今意識している事を順番に挙げると、まずコレに意識してコレに意識してっていうのを挙げるとどういう感じになります?

阿部:そうですねやっぱり難しいですね。全部大事ですからね(笑)

栗山:全部大事?

阿部:はい。


栗山:という事はまず肩に関してはね、阿部さんの課題はあったとしても相手チームからすればもう阿部さんがいるだけで走りづらいっていうのがまずあるとして、リードという面で何か考えてる事とか考え方とかいかがですか?

阿部:僕は冒険しなくなったっていうか、村田コーチからもお話を聞く機会あるんですけども「長い事やってるキャッチャーっていうのは本当、堅いぞ」っていう事を言われて「冒険しないぞ」、「たまにはする事はあってもやっぱりその後は絶対堅くいくキャッチャーが多いぞ」っていう事を言われた事もありますしね。1年目にすごく冒険しまくったんで、それでやっぱり自分でもう分かった部分っていうのもありますし。普通に考えても「そこにはいかないだろ」っていうね、自分の中でも振り返るとありますしね。


栗山:「堅い」というのは、たとえば「インコース待ってないんだから思い切ってここはインコースOK」とか、もし待たれていたら長打の可能性もあるというトコでもいくというふうな考え方でいいですか?

阿部:簡単に言えば2アウト9回裏1対0、勝ってる。やっぱりそこでインコースっていうのは僕、たぶん1年目っていうのはじゃんじゃん使ってたと思うんですよね。それがやっぱりインコース、近い球を投げ損なって真ん中いって打たれるっていうのが一番打たれる時だと思うんで、そこでやっぱり人間の目から遠い所っていうのは一番分かっててもHR打てない所だと思うんでね。分かりやすく言えばそういう事なんですけど。

栗山:それは1年目思い切って自分の感性を信じてやっていった時に思った所に来ればいいわけですよね?

阿部:はいそうですね。


栗山:やっぱりリードって投げミスした時っていう事ですか?

阿部:そうですねやっぱり。だけどただピッチャーの人もそれは分かってるピッチャー多いと思うんですけども、そこで「あれっ、何でだろうな?」と思いながら投げてくるとやっぱりピッチャーって違うと思うんですよね。そこで投げミスが多くなって打たれるケースが多かったんじゃないかなと思いますね。

栗山:あっなるほど。「よーっしゃー、それだよ」っていうお互いこの球なんだっていう・・・

阿部:だからそういうのがなかったと思うんですよね。「あれっ、これでいいのかな?」っていう感じで。多分「まっいいか」みたいな感じで投げてくる時もあると思うんですよ正直。そういうのが1年目多かったかな。


栗山:そういった意味では去年の後半、特に1年間通してそれは非常にピッチャーとあう機会が・・・

阿部:そうですね。しゃべる機会っていうのを自分で増やしてたと思うし、ミーティングでも。これは工藤さんとかに言われたんですけど「キャッチャーが発言していってほしい」って事を言われたんで。「お前がどんどんやっていかなくちゃいけないんだから」ってね。やっぱり何でもいいんで「今日はこうしていきたいと思ってます」とかそういうのをハッキリその日ないピッチャー、先発のピッチャーとかもいますけどそういうのをちゃんと言えるようなキャッチャーになれっていう事を言われたんで。

栗山:なるほどね。そういった意味では自分のリードの中でもやはり去年日本一になるにあたってかなり、もちろん根拠がある時は別ですけど非常に堅いというかそういう方向に多少自分がいってるかなっていう感じも?

阿部:そうですね。僕はすごく堅くいったんじゃないかなと思いますね。

栗山:それがこれからもベースになりそうですか?

阿部:そうですね。ベースは多分ずっと変わっていかないと思うんで。


栗山:話を聞いていると、たとえば本当にバッターの微妙な動きであるとか雰囲気だとか察知するっていうのは多分キャッチャーとして最後に要求される部分なんです。それをすごく、話をいろいろしているとすごい感じてるなっていうふうに思ってるんですよ。これはもともとそういう感じなんですか?

阿部:「見て何でもいいから考えてみろ」っていう事を言われまして。取りあえずバッターを見て「この人何考えてるんだろうな?」とかそういう事を考えるだけでいいから最初はね、やっていけって言われたんですよね。「それで投げてみてそういう反応を見て、また何か感じる事あるだろうからそこで考えながらやれ」。だから状況とかそういうのを考えているのは当たり前だと思うんですよね、キャッチャーっていうのは。それ以外にバッターの事をずっと見てとかそういうのを、「初球真っすぐ簡単に見逃した。何でだろうな?」とか「変化球待ってるのかな?」とか「じゃあ変化球ボールにしてみようかな?」とか「それでもう1回反応見てみようかな?」とかそういう事をずっと考えながらやってますね。

 

 
栗山:今「言われた」という話もあったんですけど、それはもう子供の頃からというかどのあたりからなんですか?

阿部:正直プロ入ってからですね。

栗山:言われたっていうのは誰に?

阿部:ずっと村田さんにね、「何かずっと考えてろ」っていう事を言われて。

栗山:「こういう時にはこういうふうなんだ」とか確認をそれぞれしていきながら・・・

阿部:そうですね。それでもし結果的に打たれてしまっても後で多分それを覚えておけば同じような場面、まったく同じ場面っていうのはないと思うんですけど、そういう場面で「この前あの人はこうやって打たれたから今日も同じようにいってみるか」とかそういうのピッチャーね、調子とかもありますし、それがデータっていう、自分の中のデータだと思うんで。そういうのを去年は使えたかなと。


栗山:という事は、バッターが考えてる事が100%分かったらある程度理想に近付くのかななんて気もするんですけど?

阿部:そうですね。もう分かったら面白くないですからね。

栗山:(笑)

阿部:やっぱり気分ってあると思うんで、1打席ずつ変えてくる人もいるし、1球1球変えてくる人もいるし、そういういろんなタイプいるんで。そういうタイプだとしてもまた変えてくる人もいるし。だからそういうのを見て「あっ、変えてきたな」とかそういうのを感じるだけでも、またその次に「あっ、この人変えてくるんじゃないかな?」とか「また変えてくるんじゃないかな?」とかそういうのを考えながらね、ある事ない事だと思うんですけどもとにかく考えろみたいな。

栗山:それすごい大変な作業ですよね?毎日それが・・・

阿部:ずっとバッターいるわけですからね(笑)。

栗山:ですよね。そういった意味ではもちろん試合が終わった後に自分の中でこういうふうに感じ、考えてこういうふうにやったんだから「これ失敗だったな」とか「成功したな」って考える、復習するというかそういうのをやるわけですよね?

阿部:それは寮とか帰って来てちょっと落ち着いてからニュースとか見て思い出すじゃないですかやっぱり。それで「ああ、あそこか」とか「もうちょいああやって構えてあげれば良かったかな」とかそういうのも感じますし。「あそこのボール、もう1球いっといてその後こうだったらどうだったかな?」とかそういう反省はしますね。

栗山:でも休む間ないですね?

阿部:そう。だけどゆっくり寮へ帰って来てそこまでで、すぐもう次の日あるんでやっぱりすぐ切り替えないと。


栗山:もう1つ僕が思うのは、ちょっと阿部さん自身はそれとこれとは関係ないって言われるかもしれないんですが、環境としてお父さんが素晴らしいキャッチャーでしたよね?アマチュア球界・・・

阿部:どうなんですかね。分かんないです。

栗山:たとえばキャッチャーやった事ないとそういう事ってもう全然感じないでプレーしたりしますよね?ところがそういう方がそばにいてくれたっていうのはまたちょっと阿部さんが早くそういう事に気がつく要因にもなってるのかななんて思うんですけど?

阿部:そうですね。そういう話はあまりした事ないんですけども、たまにキャッチャー心理を僕が聞かれるんですよ。親もキャッチャーだったんで野球見たりすると入ってしまうみたいなんですよね。

栗山:思いますよね。自分がリードしてるの・・・

阿部:そうです。「俺がキャッチャーだったら」とか考えながら見てるらしいんですよ。だからそういうので「あの時何であそこへいったの?」って聞かれるんですよ、たまに。たまに家帰って討論会になる時があるんですけどね。


栗山:でも、その高いレベルで話するって普通の人はできないじゃないですか?

阿部:そうですね。だから僕はすごい恵まれてると思いますし、たまたま親がキャッチャーだったっていう事でね。そういうキャッチャーの楽しさっていうのを最初聞いたのは親ですから。

栗山:やっぱりそうですよね。

阿部:はい。


栗山:という事は、たとえば大学の時も高校の時もお父さんが見に来てくださると配球の事であったりとかそういう話をたまには?

阿部:そうですね。大学の時は多かったですね。

栗山:でもそういう環境って実は大学生の時にリードを、もちろん相手が分かってるんですけど大学は、それをすごく考えるスタンスを作るには今振り返ってみると・・・

阿部:そういう事を早めに教えてくれてたんですごく僕は今ためになったかなと。


栗山:そうですか。たまには喧嘩になったりしないんですか?

阿部:熱くなってくるんですけどそこで僕も「あっ、そういう考え方もあるな」っていうとらえ方をして。多分完璧っていうのはないと思うんで。でも人それぞれ顔も違う性格も違うと同じように考え方って多分全員同じではないと思うんでね。そういうのも参考にしとけばどこかで使えるところが出て来ると思うんでね。


栗山:そういった中でジャイアンツのピッチャーって比較的力のあるピッチャーが多くて、すごく大まかな質問で申しわけないんですけどリードを組み立てる上でよくピッチャーを生かすのかバッターの弱点を突くのかとかいろんな事言われますけど、一般的に阿部さんはキャッチャーとしていつもどういうふうに考えてらっしゃるんですか?

阿部:僕は基本的にピッチャーを生かしたい方なんで。そういうのをミックスさせてやるのが一番なんですけど、やっぱりその日のピッチャーの調子って毎日同じような調子じゃないと思うんで。まずピッチャーの調子を見て相手のバッターも見るのも当たり前ですけども、そういうのでピッチャーを生かせたら(巨人の投手陣は)力のある人ですから大丈夫なんじゃないですかと僕は思ってるんですけどね。


栗山:やっぱり状況であったりとか本当にいいバッターが入ってる時とか相手を考えながらそこで変化していきながらっていう・・・

阿部:そうですね。いいバッターとか来たら、まずバッターの事ちょっと考えてその後「今日の調子だったらどうかな?」っていうのは考えますね。


後編に続く