vol.5
コモンウェルスゲームズ(英連邦大会)リポート < Reported by 森下桂吉 >
 

7月半ばに日本を発ち、スコットランドで全英オープンを中継。
その後、北アイルランドに渡って全英シニアオープンを取材し、そして7月29日、コモンウェルスゲームズの行われるイングランド・マンチェスターに入りました。全英オープンでは丸山茂樹が大活躍、シニアオープンでは須貝昇の優勝という快挙もあり、日本でもかなり報道されていたはずです。イギリスが発祥の地とされながら、今や試合のフィールドにおいてもビジネスにおいてもアメリカが主流になっているゴルフ界。しかし全英オープンという大会は、アメリカがどうあがいても手にすることのできない「歴史と伝統」を楯にイギリスのプライドを保ちつづけている大会です。ゴルフに興味のない方には余計な話になりましたが、その誇り高き英国人たちの究極のイベントが、今回訪れたコモンウェルスゲームズであるような気がします。

まずは大会の概略をまとめてみます。
そもそもコモンウェルスとは英連邦の意。オーストラリア・カナダといった大国や、南アフリカやケニアなどのアフリカ勢多数、アジアではインド・マレーシア・シンガポール等。更にジャマイカやバハマならまだしも、名前を聞いてもどこにあるかさえわからない島々。そしてイギリスだけでもイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの4つに分かれ、今回参加した国と地域は全部で72。まさにかつての大英帝国の強大さがしのばれます。アメリカ人や日本人が、どんなにがんばっても参加することのできない世界規模にして、極めて閉ざされた大会と言うこともできます。

カナダ人の提唱によって始まったこともあり、第一回大会は1930年のカナダ。第二次大戦による中断もありましたが、4年に一度開催され、今回が17回目。前回1998年には初めてアジア(マレーシア)で開かれ、次回2006年はメルボルンでの開催が決定しています。今回は17種目に4000人が参加。陸上や水泳の他、7人制のラグビーやローンボール(芝の上で行われるカーリングのようなもの)など、やはりイギリスが発祥と言われている種目が目立ちますが、柔道競技なども行われていました。

7月25日の開会式にはエリザベス女王も出席。ただ、地元マンチェスターユナイテッドのベッカム選手が列席したことに関しては「どうして彼が」と異議を唱える新聞もありました。(ちなみに大会種目にサッカーはありませんでした)大会期間は11日間。水泳競技はその後半、6日間にわたって行われました。

大変おまたせいたしました。それではマンチェスター・アクアティックセンターにご案内しましょう。
イギリスで唯一、50mプール2つを有し、2000年10月のオープニングセレモニーにはエリザベス女王も列席した、マンチェスターが誇るアクアティックセンター。ただしメイン会場は、わずかに3000席。会場の外には長蛇の列ができ、マスコミ関係者もアクレディテーションパス(大会の身分証明証)以外に座席券が必要という混乱と盛況ぶり。会場内のあちこちにオーストラリア国旗が翻りますが、やはり目立つのはワールドカップサッカーでおなじみになった白地に赤い十字のイングランド旗。ユニオンジャックはほとんど見かけません。
水泳競技の目玉は、なんといってもイアン・ソープ。コモンウェルス大会プログラムの表紙にも写真の載るこのスーパースターが、背泳ぎを含む7冠を達成することはできるのか。注目のレースを実況も少々交えてリポートします。

7/30 AM 400m 自由形予選
ソープ最初のレース。うつむいて集中するのは7冠への手答えをまずこのレースでつかみたいからか。黒いスイムスーツ、黄色いキャップは福岡の時と同じ。予選第3組。19才になったソープ、スタート!浮かび上がっただけで体半分リード。同じオーストラリア、5コースのスティーブンスを従えて、まるで兄弟イルカのようなゆったりとした泳ぎ。ターンのたびに差がついていく。300mは2’50”98。ラスト50で更に差を広げて、3’47”24のゴール。予選トップの通過。すました顔でタイムを見つめます。

7/30 PM 400m 自由形決勝
4コースにソープ、5コースはハケット。50は25”33でターン。100はハケットがとって52”98。150でソープが抜き返す。200m、1’49”57でソープ先頭。300m、2’45”43で体ひとつリード。一人舞台でラスト50。場内大歓声。世界新への期待が高まる。ゴールは3’40”08。いきなり出ました 世界新!去年福岡で打ちたてた自らの記録を9/100秒更新しました。水の中でも笑っていたかのように笑顔で立ち上がったソープ。まずは世界新で①冠です。

4×100 フリーリレー決勝
第一泳者カルスがトップでピアソンへつなぐ。イングランドが差を詰めるが、第3泳者はハケット。まだ400決勝の疲れが残っているようにも見えるが、それでも2位との差を広げる。そしてアンカーはもちろんソープ。1秒01遅れて、カナダ2番手。続いてイングランド、南アフリカが飛び込む。ソープは余裕の泳ぎ。金メダルは間違いない。南アのアンカー、ニースリングがソープ以上の泳ぎで2位に浮上。それでもトップは揺るぎなし。オーストラリア1着。3’16”42のコモンウェルスレコードで②冠達成!

7/31 PM 200m 自由形決勝
先手をとったのはソープ。100をターンしてハケットが並びかける。しかし、ヒヤリとしたのもほんの一瞬。結局一度もラップをゆずらず、逃げ切りの完全勝利で、③冠目!またも表彰台の2番目に立ったハケットの笑顔にも賞賛の拍手。逆にソープはハケットへの気づかいか、或いは仕事半ばの思いからか、静かな笑顔で金メダルを首へ。

8/1 PM 4×200mフリーリレー決勝
100mの準決勝をトップ通過した後に行われた800mリレー決勝。アンカーのソープが飛び込む前に、お膳立ては整っていた。7’11”69の大会新であっさり④冠達成。
4冠後のインタビュー、「初日は体が重かったが、だんだんよくなって来た。どの種目も大切だが、一番楽しみにしているのは背泳ぎ。体調的なピークは100mの決勝(明日)にもっていきたい。」

8/2 AM 100m 背泳ぎ予選
マンチェスターは朝から雨。しかし、夜の決勝に劣らぬ満員の観客。いよいよソープの背泳ぎを見る。まるでソープの親戚にでもなったようにドキドキする。入場するソープもやたらキョロキョロとぎこちなさそうな動き。全身タイプのボディスーツは変わらない。場内の紹介で表情はしまる。勝ちに行く顔だ。スタート!スタートが弱点と聞いていたが、浮かんでトップ。ゆったりとしたストロークはクロールと同じだ。56”45で1着。ゴール後は新しい隣人に挨拶するかのようにイングランドのラックウッドと言葉を交わしていた。

8/2 PM 100m自由形決勝
彼がコンディションをピークにもっていくと言っていたレース。この種目の世界記録保持者ファンデンホーヘンバンドがいるわけではないが、400mリレーでソープ以上のタイムをマークした南アのニースリングや地元イングランドのキッドも怖い。スタート前、体をほぐす選手が多い中、じっと座ってコールを待つ。さあソープ、5冠目へのスタート。反応イマイチなのが見た目にもわかる。リアクションタイムは6番目。それでも50mをトップでターン。23”81。ラスト30m、同じオーストラリアのケラスが追ってきた。ほとんど並んだ。ソープ危うし。場内騒然!残り10m。ソープが伸びた。決着をつけた。ソープ1着。苦しみながら⑤冠達成。48”73は大会新。初めて見せた気迫のガッツポーズ。
このレースの10分後には表彰式。その2分後に行われた背泳ぎの準決勝は4番目のタイムでクリアー。過密スケジュールとなった1日を無事にのりこえた。

8/3 PM 100m背泳ぎ決勝
4コースに同じオーストラリアのマット・ウェルシュ。ソープ6コース。このレーンを泳ぐソープを見るのは初めてだ。BBCのカメラも6コースのソープを中心にとらえて、いよいよスタート!やはりスタートでアドバンテージをとることはできなかった。50のターンは3位。5コース、マレーシアのリムとの2位争い。ウェルシュとの差は詰まらない。ウェルシュ1着。ソープは2着。勝ったウェルシュの握りこぶしは、それだけソープの怖さを感じていたということか。とにもかくにもこの瞬間に7冠への夢は消えた。
ソープのコメント「自己ベスト(55”38)が出てうれしい。7冠については周りが騒いでいるだけ。自分は7つのレースに集中することを心がけているだけで、今日の2着はとても満足。」

8/4 PM 4×100メドレーリレー決勝
ソープにとっても水泳競技にとっても、最後を飾るレース。背泳ぎにウェルシュ。平泳ぎはパイパー。バタフライのヒューギル。顔ぶれからしてソープには、ただ栄光への100mが待っているだけ。そして、その通りの展開となった。ただしソープは前半から飛ばしていく。明日のことは考えなくてもいい120%の泳ぎ。チームのパワーを一身に受けながらの48”14。オーストラリア圧勝。3’36”05の大会新でソープは結局⑥冠!2着に地元イングランドが入ったこともあって、場内大歓声。

クイーンの曲が流れる中、ソープがプールを立ち去り、幕を閉じたコモンウェルス大会。最終日だけでもオーストラリア国歌を聴くこと7回。計42個の金メダルのうち、27個を獲得したオーストラリアの強さと、ソープの健在ぶり。そして地元イングランドの健闘(金メダル10個)が印象的でした。場内進行も記者会見も、英語だけでこと足りる大会。アジアとアフリカのエリザベス選手が一緒に泳ぐというシーンもありました。表彰台に上がる選手は2位も3位も皆笑顔。これこそがスポーツの祭典か、と無理に納得はしてみたものの、何とも不思議な価値観を持つ大会でした。

さて、ソープの次なる目標は当然パンパシ水泳。ソープの泳ぎ、日本選手の活躍に期待すると同時に、太平洋を戴く国々の祭典はどんなものになるのか。それも楽しみに待ちたいと思います。

  
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