ボルベール〈帰郷〉 「2つの死がもたらした和解と真実」
「女」という生き物はしかし、こんなにまで強いものなのか。
そんなことを最初に思った。
男性はこのおぞましいまでの逞しさに引いてしまうかもしれない。
全編にわたって印象深いのはまさに赤い色。
その赤は真紅である。
熟れたトマトの真紅。鮮血の真紅。ルージュの真紅。
映画をイメージ化するならば、真紅のキャンバスに原色の絵の具で殴りつけるように描いた鮮やかな花、花、花…。
目に眩しい色彩である。これぞスペイン。
明るくたくましいライムンダは失業した夫とひとり娘を養うためせっせと働く。
懸命なライムンダに突然の死が2つも降りかかる。
夫が娘に関係を迫って、それに抵抗した娘が夫を刺し殺してしまったのだ。
ライムンダは娘を守りたい一心で、夫の死体の処理に奔走し、事件の隠蔽を図る。
そんな時、今度は故郷に住む伯母が急死する。
ライムンダの姉ソーレが葬儀へ駆けつけたところ、
彼女はそこで、死んだはずの母イレーネの姿を目にするのである。
母は幽霊か、それとも…?
映画内ではタイトルにもある「帰郷」という歌が出てくる。
この歌は幼い頃、オーディションを受けた時に歌った曲で母イレーネが教えてくれたものだった。
久しぶりにその歌を聞いたライムンダは歌わずにはいられない。
胸のうちから溢れ出る情熱を、歌い上げるのだった。
力強さ、深い悲しみまで携えた女の歌だ。
言えなかったこと
言わなかったこと
知らなかったこと
知りえなかったこと
知ってほしかったこと
ねぇ、ママ。
今なら話せる。
自分の力だけでは逃れることが出来なかった、憎むべき事態に、
女たちが目覚め、悟り、そして心が解けていく。
2つの死がもたらした和解と真実。
死と大地と真実を前に女たちが一層美しくなる。
それは魔女のように強く、逞しく、恐ろしいまでの美しさだ。
|