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5月29日 おねえさん

 
ドアを開ける手が、少し緊張した。

姉が久しぶりに実家に帰ってきている。
この間会ったのは、いつだったっけ?
もしかしたら、結婚式の日に会ったきりだったかも。

今日会う姉は、私の知らない姉。
それもそのはず、姉は妊娠5ヶ月だ。
おなかもぷっくり出ているだろう。
一体どんな顔をしているのだろう。

身内が、自分の知らない「形態」になっているというのは少しの不安を伴う。
私が生まれてからずっと知っている、ともに育ってきた姉ではない。
知らないのだ。

かちゃ。ドアを開けた。
「お帰り」「久しぶりだね」と簡単な挨拶を交わす。
目の前の現実に慣れなくちゃ、と思った。

おなかは、思ったより小さかった。
顔は、むきたまごみたいに、つるっとしていた。

はっとする。
おなか蹴るのよ、とおなかをさすりながら話す姉は、
こんなにも、やさしい顔で笑う人だったのか。

ゆっくり、ゆっくり。
体を動かすときも、話すときも。
ゆっくりは、やさしい。
他の誰に対してではなく、おなかの赤ちゃんに。
そのやさしさは広がってゆく。

姉の周りだけ、時間の進み方が違うようだ。

姉のやさしさを一身に受けて、
5ヵ月後、この子は生まれてくる。

5ヵ月後、私は「おばさん」になる。

   
 
    
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