|
ドアを開ける手が、少し緊張した。
姉が久しぶりに実家に帰ってきている。
この間会ったのは、いつだったっけ?
もしかしたら、結婚式の日に会ったきりだったかも。
今日会う姉は、私の知らない姉。
それもそのはず、姉は妊娠5ヶ月だ。
おなかもぷっくり出ているだろう。
一体どんな顔をしているのだろう。
身内が、自分の知らない「形態」になっているというのは少しの不安を伴う。
私が生まれてからずっと知っている、ともに育ってきた姉ではない。
知らないのだ。
かちゃ。ドアを開けた。
「お帰り」「久しぶりだね」と簡単な挨拶を交わす。
目の前の現実に慣れなくちゃ、と思った。
おなかは、思ったより小さかった。
顔は、むきたまごみたいに、つるっとしていた。
はっとする。
おなか蹴るのよ、とおなかをさすりながら話す姉は、
こんなにも、やさしい顔で笑う人だったのか。
ゆっくり、ゆっくり。
体を動かすときも、話すときも。
ゆっくりは、やさしい。
他の誰に対してではなく、おなかの赤ちゃんに。
そのやさしさは広がってゆく。
姉の周りだけ、時間の進み方が違うようだ。
姉のやさしさを一身に受けて、
5ヵ月後、この子は生まれてくる。
5ヵ月後、私は「おばさん」になる。
|