随分と久しぶりに、西武新宿線に乗った。
車両は、たまごの黄身の色。
記憶は溶けて、流れ出る。
快速は、みるみる駅を通過していく。
社会に出る少し前。
踏切の前で、何本もの列車を見送った。
好きなことを、仕事に。
「学生」と「社会人」に挟まれた、
ピーナッツクリームのような自意識。
スプーンひとさじの、こってりした甘みと、わずかな苦み。
現実は厳しい。
それでも、自意識は惑溺する。
折り合い、ためらい。
歩幅を合わせる。
周りに、自分に。
踏切の前に立っていた頃。
日常に触発され、思考を重ね、不安になり、
それでいて先々は、むきたまごのようになめらかに見えた。
そして、10年経った。
うっかり流れ出た黄身を焼きつける。
まだ半熟だ。
快速は、みるみる駅を通過していく。 |