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「さよなら取材」 (2010/3/27)


半世紀以上、上野と金沢を結んだ寝台特急「北陸」と、急行「能登」。
創立38年余の、伊勢丹吉祥寺店。
それぞれの最終日を取材した。

3月13日(土)
上野駅のホームには、早朝から約1000人が訪れた。
「どうしてなくなるの?」
大きなカメラを首からさげた少年が、父に問う。


 

3月14日(日)
閉店まで「1」日。
伊勢丹の正面玄関には、カウントダウンの看板が佇む。
「親子3代で通っていまして…」
髪を結い上げた、着物姿のおばあさん。
柳染の両袖をたどれば、赤×黄×黒の紙袋が連なる。



それぞれの理由は明確だ。
交通手段の多様化による乗車率の低下と、車両の老朽化。
不況による、百貨店の業績不振。
打って変わって、カジュアル衣料専門店の台頭。

目的地には、早く着くほうが―。
少しでも、安いほうが―。

“速さ”も“安さ”も追い求める、“乗客”であり“買い物客”。
時代の流れを憂える?
ならば、もっと、乗ったり、出かけたり。
情緒だけで現状を、美しく織り上げてはいけない。

上野で。
さっきの少年が、「またね」と叫ぶ。明日も会える級友に告ぐように。
吉祥寺で。
シャッターは夕日の速度で閉まり、店長は一礼したまま動かない。

春雨のようにやわらかな拍手が聞こえた。

遠い記憶を、ふと辿る。
いつかの国語で習った、「最後」と「最期」の違い。
数学の証明問題。
末尾に記した”Q.E.D.”は、ラテン語で「かく示された」。
つまりこれで、終わり。

休日の人いきれ。
リポート用のハンドマイクを、コートのポケットに押し込んだ。
示された現実と、示したい思いを、手のひらに刻む。

拍手はまだ、やまない。

   
 
 
    
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