カメラクルーのメンバーは毎回違いますが、
その度に、現場での自分を育ててもらっています。
今回は、取材でのひとときを綴りました。
「昼ニュース用(の撮影)ですか?」
「いや、うちは夕方用です」
事件や事故の現場に着くと、大抵、他局のカメラクルーと一緒になる。
挨拶を交わす間もなく、カメラマンはまず目の前の状況を撮影する。
その間、記者やアナウンサーは近隣のお宅を訪ね、目撃情報を聞いて回る。
ピンポーン…。
「…はい?」
「ごめんください、テレビ朝日ですが…」
凄惨な現場であるほど、口を開いてくれる人は少ない。
とはいえ、取材する側は、何とかして話を聞きたい。
日本テレビ、TBS、フジテレビ…入れ替わりやって来られたら、
最初は答えてくれたとしても、その後は断られてしまうことも多い。
「そのお宅、誰もいませんよ」
他局の記者に言われるままに玄関を去ろうとすると、
ちょうど家主が出てきて気まずい状況になったこともある。
何とかして、独自の取材を。あくまでも自分の足と、指で。
えいやっとインターホンを押す。
でも、それだけではない。
「冷えますねぇ」
冬場の屋外は、寒さが身にしみる。
待機中、クルー陣は自然と日なたに集まってくる。
缶コーヒーから立ち上る細い湯気。わずかな緊張と連帯。
「じゃ、我々はこれで…」
収録したテープは各局に持ち帰り、急いで編集する。
ニュースの放送時間に間に合うよう、瞬く間に現場を後にする。
先日、焼失した旧吉田茂邸を取材した際。
帰りの交通渋滞を懸念し、
テープだけをバイク便で一足早く持ち帰ってもらうことにした。
バイク便のドライバーさんに車中から電話をかけ、現在地を告げる。
「今、コンビニ沿いを走ってます」
「コンビニって、交差点のとこ?」
「はい…あっ!?」
遠方に姿を見つけ、窓から手をぶんぶんと振る。
すると同時に、後ろから蚊の鳴くような声で「…おつかれさまでした」
驚いて振り向くと、現場で一緒だったNHKの記者が、
歩道から恥ずかしそうに手を振っていた。
挙げた手はなかなか引っ込められず、真っ赤になって頭を下げる。
「あ、ま、また…」
また、どこかで。
交差点の向こうから、ドライバーさんが息を切らして走って来る。 |