前の記事を読む 次の記事を読む  

 
 

Vol.61 「スーパーマーケット」(2008/03/10)

最近買った、エコバッグ。
今回は、スーパーでのお話です。


久々に、実家に帰った。
年末年始は仕事だったので、限りなく春に近い冬休みだ。

高校生の時から親元を離れて暮らしている。
以来、幾度となく帰省してきたが、その際に必ずすることがある。

スーパーマーケット巡り。

母と二人で、近所の大型スーパーまで自転車を漕ぐ。
揺れる柳を潜り、坂を下り、キュルキュルとペダルを鳴らしながら。

その店は、おもちゃの大きな時計台が目印だ。
その傍では、若い母親がベビーカーを寄せて、
子どもにソフトクリームを食べさせていた。
1階は食料品と日用雑貨、2階は衣料品。
無言の合図で、2つの買い物カゴをカートの上下に乗せて、いざ。

記されたメモの通りに、いつもの順路を進む。
野菜、精肉、鮮魚…みるみるカゴは膨らんでいく。
「夕飯のお鍋、鶏だんごと手羽先どっちがいい?」
母の問いに、「ねえねえ、生しいたけが100円だって!買っていこうよ」
結婚前は意識すらせず、およそ分からなかった値段の相場。
理解出来ることが嬉しくて、嬉々として母を促す。
「産地はどこ?プリっとしてる?柄に泥はついてる?」
「ええと…」
瞬時に返され、言葉に詰まる。

かつては、東京に持ち帰る歯ブラシやらクッキーやらを、
こっそりカゴに投入していた。
「あ、この『胡麻和えの素』、便利そう…」
目に付く品が変わったものの、思わず手が伸びてしまう。
「あなた、そんな手抜きばかりしてるの?」


結局、両腕いっぱいのレジ袋とレジでもらった段ボール箱を抱えて、駐輪場に戻る。
荷台に固定する紐を、母は予め持参していた。
行きよりもふらつきながら、ジグザグに後を追う。
「おかーさん、はーやーいー」
膨らんだダウンジャケットの背中が、ぐんぐん小さくなっていく。
「おかーさん、おはぎ屋さんに寄ってこー?」
子どものように張り上げた声は、きっと風で聞こえない。

(「日刊ゲンダイ 週末版」3月10日発刊)
   
 
 
    
前の記事を読む

次の記事を読む