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Vol.13 「愛していると…」 (2005/02/05)

妻のことを…。

愛しているけれど、「愛している」とは言えない。
愛していないから、「愛している」とは言えない。

長年連れ添うと、夫婦には、時として様々な壁が立ちはだかるらしい。
だが、結婚とは、元来互いに愛し合ってするものだ。
未婚の私は希望的観測を踏まえ、そう信じている。

妻をめとらば才たけて 見目麗しく情ある… 

歌人・与謝野鉄幹作「人を恋ふる歌」の冒頭部分である。
結婚の相手には、聡明で情が深く美しい女性が良い。
旧制三高(京都大学)の寮歌でもあるこの歌に、
番組コメンテーターの政治ジャーナリスト・岩見隆夫さんも、
学生時代に慣れ親しんだそうだ。
「岩見さんも当時、このような女性が理想でしたか?」
「まぁ、そうだなぁ…」
「では、愛の告白は?」
「そんなこと、できんよ!」
秘めたる想いを抱いていても、相手に告白することなど、到底なかったらしい。

そんな中、妻への愛情を臆することなく表現している人がいた。
写真家・荒木経惟氏のドキュメンタリー映画「アラキメンタリ」。
作中では、今は亡き陽子夫人を撮った写真が紹介されていた。
新婚旅行で訪れた、柳川の川下り。
船上で疲れ果てて眠る妻は、
まるで羊水の中にいる赤ちゃんのように穏やかであり、
その姿をレンズ越しに見守る荒木氏の視線はこの上なく温かった。
過激なヌード写真で有名なアラーキーは、
「妻を愛している」と、レンズに力強く語らせていた。

先日、番組のディレクターに話しかけられた。
「なぁ…村上、この辺でお洒落なケーキ屋さんある?」
「あれ?『高脂血症だからダイエットする』って、おっしゃっていませんでした?」
「実は、今日、結婚記念日でさぁ…」
小声で口ごもる結婚10年目のディレクターに、
お店までの簡単な地図と、おすすめのケーキを記したメモを渡した。
「駅前のケーキ屋でもいいんだけどさ。やっぱさ、なぁ…」
数日後、彼は照れながらもこっそりと報告してくれた。
「ありがとうな。何とか、カミさんの機嫌を損ねずに済んだわ」
甘いもの断ちしていたディレクターは、
「妻を愛している」と、甘いケーキに語らせていた。

写真であれ、ケーキであれ。
伝える手段は多々あれど、愛していると知らせて欲しい。
「でも、時々は直接言って欲しいなぁ」と思う私は、
まだ見ぬ夫に淡い幻想を抱きすぎだろうか。
最近とみに、周りでは結婚する友人が多い。


(「日刊ゲンダイ」2月5日発刊)
   
 
 
    
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