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Vol. 4 「あなたのためよ」 (2004/07/24)

夏休みの気配がしている。
軒先に置かれた名前入りの朝顔の鉢、子どもたちが振り回しているプールバッグ。
新聞記事からも、また然り、である。
行楽地の案内、親子で出来る自由研究特集。
毎朝、早朝番組「やじうまプラス」で一般紙、スポーツ紙の記事を紹介し、
オンエア後は、改めてスタッフルームでじっくりと読み返す。
各紙面をめくっていく中で、四季の訪れや季節の匂いを感じることが多々ある。
そんな中、ある父親からの投稿記事があった。

昔、夏休みのキャンプ教室に内気な次男を参加させた。
「友達ができた」と笑顔で帰って来ることを期待していたが、
迎えに行った先には、当日の朝以上にすねた彼がいた。
親に行きたくないとも言えず、挙句、行き先ではハチに刺されてしまったそうだ。
それ以来、次男はキャンプが大嫌いになってしまったことを、
10年以上経って、初めて本人の口から聞いたという。

ふと、私にも同じような経験があったことを思い出す。
幼稚園の時のスイミングスクール通い。
全身全霊でズル休みを試みるが、結局連れて行かれた。
皆が25mを三往復するところ、私は一往復するのがやっと。
背が高かった分、こっそり足を付けて、さも泳いでいるように歩く。
一方、親は水泳が体力強化に効果的と信じ込んでしまっている。
子どもの意思や、向き不向きなど、トンと考えず…。

私は生まれつき運動が苦手で、プールどころか公園にもなかなか近付かなかった。
すべり台では、滑って降りられずに上段で半泣き状態。
ボールもノーバウンドでは受け止められず、転がった状態になって初めて取りに行った。
ますます親は躍起になって、連日、公園に連れて行く…。

結局、私の運動嫌いは致命的になった。
中学受験で学校を決める時も、
「プールがないこと」を自分の中だけで密かな条件として掲げていた。

投稿記事の末尾には、
「親が自分勝手に物事を強制しても、結果は良くないことを知った事件であった」とある。
そう、そう、そうなのだ。
親は良かれと思っても、子どもにとってはとてつもなくイヤなことがある。
残念ながら、才能がない場合もある。

お父さん!お母さん!
その辺のところ、ちょっと考えてあげて下さい。
キャンプ教室?スイミングスクール?ピアノ?バレエ?
「あなたのためよ」と言われても。
むしろ、「あなたのためよ」と言われるからこそ、苦手なんだと言えないものなんです。
コドモゴコロに。


(「日刊ゲンダイ」7月24日発刊)
   
 
 
    
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