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 「気仙沼にて」  (2011/05/02)

3月24日。
宮城県気仙沼市の漁港にて。

対岸に、石油タンクが横倒しになっている。
焦げた漁船が、港に接岸されていた。
磨かれた漁船は、陸地に乗りあげられていた。

“第七朝洋丸”
すすまみれの船体に、真新しい看板が付け替えられていた。
内部の損傷が少なかったため、県外へ修理に出すのだという。

「まだまだ、生き返るぞ」

刺身包丁で、朽ちたロープを切り落としながら、
漁師さんは、これからのことを静かに話してくれた。

電気も水も、まだ通っていない。
手元に残った漁具は、海水で洗っている。

「明日もまた来てなぁ」

振り向くと、包丁を持ったまま、大きく手を振っていた。

海風に飛ばされたロープが、足元に散乱している。
何を捉えて、伝えるのか。
ハンドマイクを持ったまま、手を振り返すことはできなかった。



(「サンフロ・ジャーナル」5月2日配信)

   
 
 
    
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