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© 2009Twentieth Century Fox |
冒頭から、ゴツンと断られる。
「これは、ラブストーリーではない」
淡々と語られるナレーション。
そして最後には、「…クソ女め!」という衝撃的な台詞。
未練、たらたら?
恨み、つらつら?
そう、これは100%男性目線の物語。
でも待って!
男の人も、女の人も。
まぶたの奥で、きゅっと、何かが繋がるはず。 |
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トムは落ち込んでいた。サマーとうまくいかなくなってしまったからだ。
悪友たちは「女なんていくらでもいるさ」と言うが、
そんな決まり文句はトムには通じない。なぜならサマーは、
彼にとって“運命の恋人”のはずだったから。
どうしてこうなったのか。
トムの想いは、サマーと出会ってからの500日を行ったり来たりする。
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(1日目)
グリーティングカード会社に勤めるトムは、ボスに新しいアシスタントを紹介される。
青い瞳のサマー。
トムは一目で恋に落ちた。
(408日目)
「アパートの屋上でパーティを開くから、来ない?」
サマーに招かれ、ヨリを戻すチャンスと信じたトム。
彼女がグラスを持つ左手の薬指には、ダイヤの指輪が光っていた。
(4日目)
エレベーターに乗り合わせた二人。
トムのヘッドフォンから漏れる音を聴き、サマーが微笑みかけた。
「私も、ザ・スミスが好き」
(109日目)
サマーが初めて自分の部屋にトムを招き入れる。
二人の間を隔てる壁が、一気に低くなった気がした。
(28日目)
会社のカラオケパーティの席で、同僚がサマーに質問をする。
「彼氏はいるの?」
答えはノーだった。
「恋人なんて欲しくない。誰かの所有物になるなんて理解できないわ」
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なで肩、細身。見るからにロマンチストのトム。
そんな彼が、まるごと勘違いをする日々…なのか。
思えば、若いころに多かった気がする。
好きな音楽や映画など、
自分の「お気に入り」は、“ここぞ”という時の為にしまっておく。
皆が口を揃えて褒めちぎる作品なんて、まっぴら。
「分かる人には分かる」―この、今となっては小恥ずかしい、
溢れんばかりの自意識だけを頼りにして。
“ここぞ”という時は、いつか?もちろん、いいな、と思う人が現れた時だ。
その相手に、自分の「お気に入り」を恐る恐る切り出してみて、
分ち合えた時の喜びたるや…。ああ、あなたも!!
「分かる人には分かる」なんて、偉そうに虚勢を張ってごめんなさい。
分かってくれる人を夢見ていたのです、実は。
トムの場合、向こうからジャブを繰り出してきたのだから、もう大変。
「私も、ザ・スミスが好き♡」
あの瞳でささやかれたら、強固な意地もプライドも、
たちまち甘くホイップされてしまう。
やはり、トムの勘違いなのか。
どちらかと言えば、その傾向にあることは否めない。
ああ、でも、分かる。分かってしまう。
両手で顔を覆いたくなるような、
でも、指の隙間からちょっとだけ覗いてしまうような、そんな気持ち。
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変わって、現実主義のサマー。
彼女ははたして、どこまでも相手を振り回す小悪魔なのか。
映画館の場面がある。
『卒業』を観ている二人。結婚式で花嫁を略奪する有名なラストシーン。
バスに乗って逃げる恋人たちから笑顔が消えていくのを見て、
サマーは泣いていた。
おろおろするトム。彼女がなぜ、そこまで泣くのかが分からない。
「ね、落ち着いて。だって、映画の話じゃないか」
サマーが見せた弱さに、トムは気付いていない。
もどかしい気持ちになりながら。
ふと、寺山修司の詩歌が重なった。
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「汽車」
ぼくの詩のなかを
いつも汽車がはしってゆく
その汽車には たぶん
おまえが乗っているのだろう
でも
ぼくにはその汽車に乗ることができない
かなしみは
いつも外から
見送るものだ
(『寺山修司少女詩集』)
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恋愛は、桃の実に似る。
甘く水気を含んだ桃の実の真ん中には、硬い種。齧っても、決して割れない。
ふわふわの産毛だって、時にちくちく刺してくる。
長い睫毛を伏せて、彼女が呟いた気がした。
「ほらね、結局は、ひとりでしょう?」
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最初に戻って。
確かにこれは、ラブストーリーではなかった。
だが、トムは軟弱男ではない。
サマーもクソ女ではない。
痛みを味わって、きっと気づく。
これは、誰かではなく、自己についての物語。
あの人と向き合う前に、自分を顧みること。思い知ること。
そんな自分を認めること。
まぶたの奥で、季節がめぐっていく。
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『(500)日のサマー』 |
監督: マーク・ウェブ
出演: ジョセフ・ゴードン=レヴィット
ズーイー・デシャネル 他
配給: 20世紀フォックス映画/2009/アメリカ |
※TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国公開中 |
公式サイト
www.500summer.jp |
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