前の記事を読む 次の記事を読む  

 
 

Vol.51 6月10日 『お買いもの中毒な私!』

取材帰りの車内で、カメラ助手の後輩に話しかけられた。
「村上さん、今までもらったプレゼントで、一番高いものって何スか?」
長めのナナメ前髪に、極細パンツ。いかにも今時な、彼の直球に面食らう。
「ええと…婚約指輪かなぁ…」
あたふた答えると、「優等生な答えっスねー」
なんでも彼は、付き合っている彼女のおねだり攻撃に困窮しているらしい。
「腕時計なんて、二個目スよ!?俺、自分の洋服をフリマで売ってます…」
気の毒だがなんだか微笑ましくもあり、「仲いいんだねぇ」などと話していると、カメラマンと運転手さん(ともに男性)も身を乗り出してくる。
「女の人ってさあ、同じものを何個も欲しがるよね」
「そうそう、カバンとか靴とか、もうあるのに」
盛り上がる男性陣。だんだん無口になる私。
だって、かわいいし…。
だって、新作だし…。
だって、半額だし…。
…。

相次ぐ百貨店の閉店、靴やスーツの下取りセール。
経済危機が再三叫ばれ、身をもって不況を思い知る日々。
飛び込んできたのは、鮮やかな紙袋を両手に抱えた女の子のポスターだった。
巻き髪、毛皮、キラキラベルト。
時節柄、明らかに顰蹙を買ってしまいそうな、そのファッション。
こんな時代に?
こんな時代だから?
折しも、公開初日。
…するすると、映画館に吸い込まれる。


 


レベッカ・ブルームウッド25歳。
ニューヨークのマンハッタンで、
有名ファッション誌の編集者になることを夢見ている。
そんな彼女のストレス解消法は、お買いもの。
とにかく、買って、買って、買いまくる。
買上げ額は自分の収入をはるかに上回り、手にしたクレジットカードは10枚以上。
カード破産の寸前、生活の安定とキャリアアップを求めて一念発起するも、
転職先は何故かお堅い経済誌だった―。
 

©Touchstone Pictures and Jerry Bruckheimer, Inc. All Rights Reserved.

後先考えずに散財し、カードの限度額は案の定オーバー。
目を覆いたくなる、ダメっぷり。
でも、覆った手のすきまから、追ってしまう。
その豪快な、買いっぷりを。

例えば、買い物をする時の、ひとり問答。
「本当に必要?」「何に合わせる?」
と、絶妙の間で、店員さんの決め台詞。
「こちら、最後の一点になります」

例えば、ごった返したバーゲン会場で。
迷っているさ中に他の誰かがつかんだものは、余計に欲しくなってしまう。

「お買い物をすると、世界は美しく、素晴らしくなる。
でもその世界は、しばらくするとすぐ消えてしまうの」
レベッカは、そう言った。

  

買物は刹那。
手に入れた瞬間、夢のような時間は終わってしまう。
買物は空虚。
物欲と所有欲が満たされた途端、はじけて、また膨らんで。
どれだけ浮き立っても、決して、浮足立ってはいけない。
頭では、分かっているのだけれど…。

「どの靴に投資するかで、すべては決まるの」
「私は、お店で素敵なものを見ると心がとろけちゃう」

からりと能天気なレベッカの言葉に、あんぐりする。
でも、かく言う自分だって―。

実は去年、ずっと欲しかったカバンを買った。
帰省の際、目ざとく見つけた母親に「それ、どうしたの!?」と尋ねられた時。
「二度と来ない、30歳の記念に…」
しどろもどろ。
31歳だって32歳だって、二度と来ないのに。
何かと理由をつけている時点で、なおさら往生際が悪かった。


総じて、“似た者同士”は、ものすごく仲良くなるか、その逆のどちらかだ。
カラフルでチアフルなレベッカに出会ったなら…。
ものすごく買い物がしたくなるか、「もう買うまい」と、
財布のヒモをきゅっと締めるか。

女性のみなさま。
この物語がカンフル剤となるかお灸となるかは、是非、劇場で!
ご一緒の、男性のみなさま。
他の店舗が閉まった、レイトショーが、おすすめです。

  

♪作品データ♪
『お買いもの中毒な私!』
原作: ソフィー・キンセラ(『レベッカのお買い物日記』1・2)
監督: P.J.ホーガン
衣装デザイン: パトリシア・フィールド
出演: アイラ・フィッシャー、ヒュー・ダンシー、クリステン・リッター 他
ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン/2009/アメリカ
※全国公開中
『お買いもの中毒な私!』公式サイト
http://www.movies.co.jp/okachu/
   
 
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む