取材帰りの車内で、カメラ助手の後輩に話しかけられた。
「村上さん、今までもらったプレゼントで、一番高いものって何スか?」
長めのナナメ前髪に、極細パンツ。いかにも今時な、彼の直球に面食らう。
「ええと…婚約指輪かなぁ…」
あたふた答えると、「優等生な答えっスねー」
なんでも彼は、付き合っている彼女のおねだり攻撃に困窮しているらしい。
「腕時計なんて、二個目スよ!?俺、自分の洋服をフリマで売ってます…」
気の毒だがなんだか微笑ましくもあり、「仲いいんだねぇ」などと話していると、カメラマンと運転手さん(ともに男性)も身を乗り出してくる。
「女の人ってさあ、同じものを何個も欲しがるよね」
「そうそう、カバンとか靴とか、もうあるのに」
盛り上がる男性陣。だんだん無口になる私。
だって、かわいいし…。
だって、新作だし…。
だって、半額だし…。
…。
相次ぐ百貨店の閉店、靴やスーツの下取りセール。
経済危機が再三叫ばれ、身をもって不況を思い知る日々。
飛び込んできたのは、鮮やかな紙袋を両手に抱えた女の子のポスターだった。
巻き髪、毛皮、キラキラベルト。
時節柄、明らかに顰蹙を買ってしまいそうな、そのファッション。
こんな時代に?
こんな時代だから?
折しも、公開初日。
…するすると、映画館に吸い込まれる。
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レベッカ・ブルームウッド25歳。
ニューヨークのマンハッタンで、
有名ファッション誌の編集者になることを夢見ている。
そんな彼女のストレス解消法は、お買いもの。
とにかく、買って、買って、買いまくる。
買上げ額は自分の収入をはるかに上回り、手にしたクレジットカードは10枚以上。
カード破産の寸前、生活の安定とキャリアアップを求めて一念発起するも、
転職先は何故かお堅い経済誌だった―。
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©Touchstone Pictures and
Jerry Bruckheimer, Inc. All Rights Reserved. |
後先考えずに散財し、カードの限度額は案の定オーバー。
目を覆いたくなる、ダメっぷり。
でも、覆った手のすきまから、追ってしまう。
その豪快な、買いっぷりを。
例えば、買い物をする時の、ひとり問答。
「本当に必要?」「何に合わせる?」
と、絶妙の間で、店員さんの決め台詞。
「こちら、最後の一点になります」
例えば、ごった返したバーゲン会場で。
迷っているさ中に他の誰かがつかんだものは、余計に欲しくなってしまう。
「お買い物をすると、世界は美しく、素晴らしくなる。
でもその世界は、しばらくするとすぐ消えてしまうの」
レベッカは、そう言った。
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買物は刹那。
手に入れた瞬間、夢のような時間は終わってしまう。
買物は空虚。
物欲と所有欲が満たされた途端、はじけて、また膨らんで。
どれだけ浮き立っても、決して、浮足立ってはいけない。
頭では、分かっているのだけれど…。
「どの靴に投資するかで、すべては決まるの」
「私は、お店で素敵なものを見ると心がとろけちゃう」
からりと能天気なレベッカの言葉に、あんぐりする。
でも、かく言う自分だって―。
実は去年、ずっと欲しかったカバンを買った。
帰省の際、目ざとく見つけた母親に「それ、どうしたの!?」と尋ねられた時。
「二度と来ない、30歳の記念に…」
しどろもどろ。
31歳だって32歳だって、二度と来ないのに。
何かと理由をつけている時点で、なおさら往生際が悪かった。
総じて、“似た者同士”は、ものすごく仲良くなるか、その逆のどちらかだ。
カラフルでチアフルなレベッカに出会ったなら…。
ものすごく買い物がしたくなるか、「もう買うまい」と、
財布のヒモをきゅっと締めるか。
女性のみなさま。
この物語がカンフル剤となるかお灸となるかは、是非、劇場で!
ご一緒の、男性のみなさま。
他の店舗が閉まった、レイトショーが、おすすめです。
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『お買いもの中毒な私!』 |
原作: ソフィー・キンセラ(『レベッカのお買い物日記』1・2)
監督: P.J.ホーガン
衣装デザイン: パトリシア・フィールド
出演:
アイラ・フィッシャー、ヒュー・ダンシー、クリステン・リッター 他 |
ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン/2009/アメリカ
※全国公開中 |
『お買いもの中毒な私!』公式サイト
http://www.movies.co.jp/okachu/ |
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