前の記事を読む 次の記事を読む  

 
 

Vol.49 2月9日 『スラムドッグ$ミリオネア』

今回ご紹介するのは、
『トレインスポッティング』の鬼才、ダニー・ボイル監督の最新作。
第81回アカデミー賞において、作品賞を含む10部門にノミネートされています。

今晩、どんな予定があっても中止して、
この映画を見に行くべきだ!
                     ―ボストン・グローブ紙


どうかこの日のために。
予め、今から手帳に◎を。
日本での公開は、桜咲く頃です。


 


「ファイナル・アンサー?」

スタジオに、18歳の青年が座っている。
ジャマール・マリク。
インド・ムンバイのスラム出身である彼は、学校に行ったことがない。
 

徐々に難易度を増す四択に答えるごとに高額の賞金が得られる、
世界最大のクイズショー『クイズ$ミリオネア』。
あと一問正解すれば、
番組史上最高額の2000万ルピー(約4000万円)を獲得出来る状況に、
インド中が息を飲んで見守っている。
未だかつて、誰もここまで勝ち残った者はいない。
いったいジャマールは、どうやって答えを知り得たのだろうか?


A: インチキした          B: ツイていた
C: 天才だった           D: □□□□□



「映画館の観客」であった私たちは、
いつの間にか「スタジオのオーディエンス」となり、
問いかけに答えるべく、知らぬ間に「挑戦者」となって身を乗り出している。


幼い頃の反イスラム暴動により、ジャマールと兄サリムの目の前で死んだ母。
暴動で出会った、同じく孤児の少女ラティカ。
孤児たちを失明させ、物乞いをさせる組織集団から逃げた兄弟は、
タージ・マハルで偽ガイドや窃盗を繰り返して生き延びていく。

  

欧米人夫婦の車の部品を根こそぎ盗もうとして、警察に捕まる場面がある。
引きずられ、殴られ、土埃にまみれてジャマールは叫ぶ。
「これが、本当のインドの姿なんです」
その姿を見た妻は、夫に「マネー」と耳打ちする。とても気の毒そうな表情で。

これが本当の―。

同じ場所にいながら、立場によって世界の景色はこんなにも違う。
頭では理解しながら、だんだんと実感できなくなってくる。
海外旅行では必ず保険に入る自分が、靴や鞄を盗んで走るジャマールに、
「そのまま逃げて」と祈るような気持ちでいる。
むろん、盗まれたくなんてない。
でも、盗むしかない。

どれが本当の―。

足元はぬかるみ、砂埃が付き刺さる。
おぼついて、目をつむる。
ならば、そんな気持ちでムンバイに降り立つな。
貧困、差別、宗教。
生半可な気持ちで、絵空事を語るな。
浮き彫りになった彼らの生活に、胸ぐらを掴まれる。

ならば本当は―。

最後の問題の直前。
不正疑惑をかけられたジャマールは、警察に連行されて拷問を受ける。
どんなずるい手段を使ったのか?
無学のお前に、知識などあるはずがない。

100ドル札に印刷された大統領の名前。
リボルバーの発明者。

「僕は、答えを知っていた」
ゆっくりと語り始めるクイズ出場への経緯は、同時に、彼の生い立ちでもあった。

いつからか、違う価値観を追っていた兄と弟。
美しくも残酷に成長した少女。

 

「ファイナル・アンサー?」


A: インチキした          B: ツイていた
C: 天才だった           D: □□□□□



駆け抜けた道こそが、答えだった。


 

♪作品データ♪
『スラムドッグ$ミリオネア』
原作: 『ぼくと1ルピーの神様』(ランダムハウス講談社)
監督: ダニー・ボイル
出演: デーヴ・パテル、フリーダ・ピント、マドゥル・ミッタル 他
配給: ギャガ・コミュニケーションズ/2009/イギリス
※ 2009年4月、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
『スラムドッグ$ミリオネア』公式サイト
http://slumdog.gyao.jp/
   
 
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む