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Vol.41 1月31日 『人のセックスを笑うな』

今回ご紹介するのは、
先日、芥川賞候補にもなった山崎ナオコーラさんの同名小説を映画化した作品です。


 

(C) 2008「人のセックスを笑うな」製作委員会

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『人のセックスを笑うな』

びっくりするようなタイトルである。
だが、観た後は、このタイトルと確信する。


19歳の美術学生のみるめ(松山ケンイチ)と
39歳の美術講師ユリ(永作博美)。
ふたりの間には20歳の年の差と、
恋と現実があった。
そんなみるめにやきもきしているえんちゃん(蒼井優)と、
彼女をそっと見守る堂本(忍成修吾)が交錯して描かれる。

  

ある日、絵のモデルにならないかと誘われたみるめは、ユリのアトリエに招かれる。
奔放な彼女に、みるめはたちまち惹かれていく。

「ここに楽な感じで座って」
「あ、はい」
「セーター脱いで」
「え?……はい」
「じゃ、パンツ脱ごうか」
「……」

アトリエと言っても、どちらかというと殺風景な部屋。
ユリの下着だって、おへそが隠れるたっぷりのショーツ。
床は固くて冷たくて、石油ストーブはなかなかつかない。

そんなさまをカメラは常に俯瞰で捉え、この一見突き放したような余白が、
大きなフキダシになって、観る者を包む。

「…みるめ君、旅行行こうかぁ」
「何処に?」
「うーん、インドのダラムサラとかぁ」
「インドかぁ、カレー嫌いなんだよな」
「えーー?!カレー嫌いな人なんかいるの?」
「だって辛いじゃん」

冗長なやりとりはなく、本人たちだけによって完結する会話。
固まるか固まらないかのゼラチンが、ふるふる揺れているような危うさで、
毛布にくるまる二人も、やっぱりふるふると笑う。


あっけらかんと、自分に夫がいることを告げるユリ。
みるめは、携帯電話を針金でぐるぐる巻きにする。
「…電話に出たくなっちゃうから」
「出たら、会いたくなっちゃうから」
年下の男の子が、好きで好きで、もう訳が分からなくなって、
でもどうして良いのか分からず、めろめろでふにゃふにゃになるさまが切ない。

「だって、みるめ君に触ってみたかったんだもん」
かたや、喫茶店で向き合うユリとえんちゃん。
年上の女性が、余裕を見せる。が、本当は、迷っている大人(のつもり)でいる。
でなければ、わざわざえんちゃんをお茶に誘わない。
やはり、切ない。

定点カメラの先にある、何気ない仕草や会話。
目の前に投げかけられた巨大なフキダシは、
じわりじわりと終盤に向けて膨らんでいく。


インパクトのあるタイトルには、英題も添えられている。
「Don’t laugh at my romance(sexではない)」

確かに、原題(邦題?)を口外するのはいささかためらう。
だが、それは恋人どうしの関係そのものなのだ。
直接的で、生生しくて、およそ人には言えない。
不様でかっこ悪いのは知っている。
二人だけの世界でもって、やっつけていくこの感じ。

だからどうか笑わないで。
これはもしや、みるめの切なる訴え、
もしベッドを覗いても「笑わないで下さい」という願いにも思える。
恋愛とは、至極個人的なこと。
傍目には滑稽でも、本人たちには限りなく崇高なこと。
ぞわぞわして、ちくっとして。
素肌にセーターを着たときのような、痛みと温かさに包まれる。


♪作品データ♪
『人のセックスを笑うな』
原作: 山崎ナオコーラ(「人のセックスを笑うな」河出書房新社刊)
監督: 井口奈己
出演: 永作博美、松山ケンイチ、蒼井優、忍成修吾、あがた森魚 他
配給: 東京テアトル/2007/日本
※シネセゾン渋谷 ほかにて公開中。全国順次ロードショー

『人のセックスを笑うな』公式サイト
http://hitoseku.com/

   
 
 
    
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