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Vol.39 10月9日 『おやすみ、クマちゃん』



物語は、いたってシンプル。
おやすみ前のクマちゃんが、
今日あった出来事を良い子のみんなにお話してくれる。


1975年〜87年にかけて、ポーランドの国営放送で制作された人形アニメーション。
様々な季節を舞台に、
お友達のブタくんやウサちゃんとのエピソードが展開されていく。
夕刻の子ども向け番組で放映された全104本のうち、
今回の劇場公開版では、[春夏編]5話、[秋冬編]5話で構成されている。
一話約7分。

とにかく、細部にまで凝っている。
クマちゃんのパジャマは一話ごとに違うし(ナイトガウンの回もあり!)、
部屋のインテリアはこだわり抜いている。
ベッドの鉄枠から、どの家庭の台所にも備え付けられているであろう、三連(?)のふきんかけに至るまで。
幼い頃、シルバニアファミリー(動物一家のドールハウス)に目を爛々と輝かせていた世代の女性なら、間違いなく、きゅうんとくるだろう。

ストライプがお気に入り☆

「やーん、かわいい〜〜」

開始1分で、まず、心奪われる。
だが、クマちゃんは、決して「かわいい。以上」のお話ではない。
「何でもかんでも『カワイイカワイイ』言うなんて!」と苦言を呈されるお父さんも、
テンション高い彼女の横で少々苦笑いの彼も。
甲高いクマちゃんの声に、もう少しだけ耳を傾けて欲しい。


…といっても、劇的なストーリー展開は期待出来ない。
お絵描きしたり、洗濯したり、キノコ狩りに出かけたり。
そこに、オチはない。謎解きも仕掛けもなく、絵日記をめくるようなシンプルな展開。
例えば、「ねえねえ、今日こんなことがあったよ」寝る前に、
子どもが親に話しかける。
「ちょっと聞いてよ、今日ね…」食卓で、お茶を飲みながらの夫婦の会話。
起承転結ではなく、起承承承、もしくは、起起起起の繰り返し。
でも、日々って、そういうこと。


そんな風にぼんやり思ったところで、お話のラスト1分。
パジャマ姿のクマちゃんが一日のまとめを語る。
このまとめ方がいささか強引で、微笑ましい。

(ブタくんが、数々のイタズラを重ねてしまった後に…)
「本当に賢い人は、自分が賢くないことを知っているんだよ」
(お絵描きと落書きの違いを、身をもって体験した後に…)
「人の心を打つ絵は、いずれ芸術になるんだ」
(大きくなりたいクマちゃんが、草木と同じく雨や光を浴びた後には…)
「やっぱり、ボクはボク。良い子のみんなは、牛乳を飲もうね」


ソクラテスの「無知の知」をさらりと説いたかと思えば、
雨や光を浴びて大きくなりたいなんて、とってもポエチック。
でも、最後はきっちり“牛乳促進”を謳っている。
国をあげての体力増強計画なのかな。
連呼はすまい思っても、やっぱり呟いてしまう。
クマちゃん、かわいいなぁ。

たれたお耳が目印です

中でも一番好きなのは、最終話の『雪だるまさんと春の訪れ』。
クマちゃんたちの作った雪だるまは、翌朝になってすっかり溶けてしまっていた。
みんなで雪だるまさんを探しに行くと…。
川上から、流氷に乗って雪だるまさんが流れてくる。
「来年も、新しい雪で作ってね」と言い残して、
悠然と川下へ去っていく雪だるまさん。
消えてしまうことの無常さ。それでも、季節は繰り返す。
決して子ども騙しになることなく、寂しさと希望をはらんだ現実が、
はっとする程美しく描かれている。
「さようなら、また会おうね」
いくつになっても、この気持ちは忘れない。


観終わった後、友達のママさん達に、早速メールを送った。

「ドラえもんのライバル発見!!」

衣装持ちで、聡明で、ちょっぴりそそっかしい男の子。
ハチミツとアイスクリームが大好きな、みんなの人気もの。
男の子も女の子も、お父さんもお母さんも。
上映時間は84分。
5分間の休憩タイムがあるので、小さなお子さんも安心してどうぞ。


♪作品データ♪
『おやすみ、クマちゃん』
製作 : “セ・マ・フォル”スタジオ
<日本語吹き替え版>
声の出演 : ケロポンズ
配給: エデン/1974/ポーランド
※ 9月22日(土)より、シネマート六本木にて
<オリジナル・ポーランド語+日本語字幕スーパー版>でのアンコール上映がスタート!

『おやすみ、クマちゃん』公式サイト
http://oyasumi-kumachan.com/

   
 
 
    
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