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Vol.35 2月7日 『あなたになら言える秘密のこと』

今回ご紹介するのは、スペイン映画。
『死ぬまでにしたい10のこと』でコンビを組んだ、
イサベル・コイシェ監督と主演のサラ・ポーリーによる最新作です。


 

サラ・ポーリーの繊細な演技が、胸に迫ります

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『あなたになら言える秘密のこと』

彼女の名前はハンナ
友達・家族・趣味・将来の夢―すべてなし
どこで生まれ、何をしていたのか?
過去のことは聞かないで


海洋にぽっかりと浮かぶ、油田掘削所。
まるで、世の中から隔離されたような現場で、事故は起こった。
一時的に視覚を失った男性(ティム・ロビンス)を
ひょんなことから看護することになったのは、
謎めいた孤独な女性、ハンナ(サラ・ポーリー)。
二人の間には、徐々に奇妙な関係が築き上げられていく。
秘密と真実と嘘とユーモアと苦痛がひしめく中で、
お互いの心の深いところを傷つけ合いながら、それぞれの人生を変貌させていく。

お互いの心の深いところ。
「心の扉を開く」などと表現されることは、よくある。
誰かとの出会いによって、少しずつ開かれていく扉。
時には痛みを伴いながら、最後には光が差し込む物語はこれまでにもあった。
 
だが、この作品では、そうは描かれない。
 
人の心の奥底は、冷たい海の底。
油田掘削所が浮かんでいる、濃いねずみ色の海。
塗りつぶされた海面からは、底がどこなのかも計り知れない。

ハンナの過去の重さを知った時、観る者の全てが愕然とするだろう。
何も信じない。何も求めない。 
彼女は、死ぬように生きている。
しかし、人の心に蓋をするのは、抱える問題の大きさだけに因るものだろうか?

腕も愛想もとびきりのシェフも、
打ち付ける波を数え続ける海洋学者も、
星が照らすデッキで、一人ステップを踏む洗濯係の青年も。
油田掘削所の責任者は言う。「みんな、一人が好きなんだよ」

どんな境遇で、どんな立場にいようとも。
戻るべき場所は自分でしかないことが、さらりと描かれている。

思いを沈めた水の底には、
これまでの人生が残した幾多もの出来事と感情が交じり合う。
沈めることは、守ること。水底の形は誰にも変えられない。
相手に委ねてしまうと、その形が変わってしまう。自分が自分でなくなってしまう。
心を開けないのではなく、開かないのだ。

だが。
底なしの淵辺に、自分以外の誰かが立っているとしたら。 
一緒に飛び込むのではなく、ただ、隣に佇む人。
  
そばにいてくれる?
 
たったそれだけのこと。
ならば、言える。あなたには。
沈めた思いは、光に照らされ、少しずつ泡となって水面へと浮かび上がる。
でも、決して消えることがないことも、とっくに知っている。

♪作品データ♪
『あなたになら言える秘密のこと』
監督//脚本: イサベル・コイシェ
製作: ペドロ・アルモドバル
出演: サラ・ポーリー、ティム・ロビンス、ハビエル・カマラ、
    エディー・マーサン 他
配給: 松竹/2005/スペイン
※2/10(土)より TOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて全国ロードショー
『あなたになら言える秘密のこと』公式サイト
http://www.himitsunokoto.jp/
   
 
 
    
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