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Vol.33 12月20日 『時をかける少女』

久々の、映画コラムです。
夏以降、ほとんど観られずじまいでした。
劇場の座席に沈む感覚を、すっかり忘れていました…。

『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』(クリント・イーストウッド監督)
『マリー・アントワネット』(ソフィア・コッポラ監督)
『それでもボクはやってない』(周防正行監督)


運動不足は身体に出ますが、映画不足も、どこかに影響するようで。
最近になって、何かを取り戻すべく、かなりのペースで観ています。

今回ご紹介するのは、『時をかける少女』。
映画、TVドラマと幾度も実写映像化されてきた筒井康隆氏の名作を、新たな構想で作り上げたアニメーションです。

クリスマスを前に、アンコール上映が決まりました。
出来れば、晴れた日に、観に行って欲しいなぁ。



 

(C)「時をかける少女」製作委員会 2006

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『時をかける少女』

主人公の真琴は17歳。
快活な彼女は、同級生の功介、千昭とキャッチボールに興じる日々。
ある日、真琴はジャンプすることで時間を逆行出来る能力(タイムリープ)を身に付ける。

妹に食べられた冷蔵庫のプリンを、先に食べてしまう。
カラオケボックスに行って、何度も終了時間を延長する。
煮物より鉄板焼きが食べたいからと、鉄板焼きを食べた日に戻る。
 
彼女はこの能力を、実にささやかなことに使う。

タイムリープは「時間移動」というより、むしろゲームの「リセット」に近い。
過去に戻っても、真琴は昔の自分に出会うわけではなく、
その時点の自分の身体に乗り移る。

ある日の帰り道。
真琴は千昭から、「俺と付き合わねぇ?」と告白される。

うろたえた彼女は、
例によって時間をさかのぼり、「なかったこと」にしてしまうが…。

未来の記憶を持ったまま過去に戻れるのは便利な反面、
他者との間で齟齬をきたす。
一時の感情で時間をさかのぼったことにより、
意を決し告白した千昭の気持ちまで「なかったこと」になる。
時間をコントロールすることで、その時間に生きている自分以外の日常がねじれていくことに、最初、真琴は気付かない。

そして、ようやくそのことに気付いた時。
初めて彼女は、自分以外の人のためにタイムリープを使う。
全身で駆けて、全身で泣いて。
スクリーンに大映しになった彼女のぐしゃぐしゃな泣き顔は、
観る者の気持ちをぐらぐらと揺らす。

あぁ、そうだ。
彼女は、生きることに真剣なのだ。
「誰かのために」と思った時、全身全霊で相手にぶつかっていく。
プリンよりも、鉄板焼きよりも、もっと大事なこと。

劇中の、抜けるような青い空が印象的だ。
ラストシーンは、川岸の夕空。
たなびく雲も、止められた自転車も、全部が息をしているような気がした。

実際には巻き戻らない時間の中で、もがいて、もみ消して、引きずって、捨て去る。
同時に、後になって戻りたくなるような時間の中に、
その時は全然気付かずに、いる。
過ぎ行く時間を、どのように過ごしたのか。
迫り来る時間を、どのように過ごしたいのか。

観終わった後。
新宿の空は、抜けるように青かった。
埃まみれのビルの森。
さっきみたいな、土手もない。
それでも、あの空の先に自分がいるようで、涙が落ちた。
 
この映画を観た後は、全てのものが澄んで見える。

♪作品データ♪
『時をかける少女』
原作: 筒井康隆
監督: 細田 守
声の出演: 仲里依紗 石田卓也 板倉光隆 原沙知絵 谷村美月
配給: 角川ヘラルド映画/2006/日本
※アンコール上映決定!
12月23日(土・祝)より恵比寿ガーデンシネマにて4週間限定ロードショー
『時をかける少女』公式サイト
http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/
   
 
 
    
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