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2月20日
潜入!シンクロ中国ナショナルチーム
井村チャイナ その変貌
今年の1月から、井村さんの北京での生活が始まりました。
仕事場は中国代表選手たちが集うトレーニングセンターです。
井村コーチ:
「体育館がすごいですね、それぞれの種目が、それぞれの体育館を持っているから。水泳だけでも4つある。」
宮嶋:
「すごいですね」
敷地15万平方メートルに16競技の専門体育館があるのです。
この恵まれた環境の中で、シンクロ選手たちは一年中、同じメンバーで合宿をしています。
中には3年間、自分の家に帰っていない選手もいるそうです。
井村コーチになって、練習時間はこれまでより3時間増えて、一日、9時間となりました。
井村さんがコーチになってから、何がどのように変わったのか中国チームの鄭嘉コーチに聞いてみました。
「井村コーチが来てから、練習時間は長くなるし、厳しいし、残酷さもピークですよ。」
その言葉を聞きつけた井村さんが返します。
井村コーチ:
「まだいってません、まだまだ・・・これから ・・・(大笑い!)
12月、1月、2月、5月、6月 楽しみに!」
選手も応戦します。「それじゃあプールに住んじゃいますよ!!(大笑い)」
本格的トレーニングを開始してまもなく、井村コーチはとんでもない壁にぶち当たってしまいました。
井村コーチ:
「私はあの子たちに教えたいこといっぱいあるけれど、練習に耐えられるだけの筋肉がないわけですよ。」
筋肉がないだけではなく、細すぎる体も問題でした。とくに問題なのが双子のデュエットです。身長174センチ、体重50キロ、ティンティンとブンブンは水の中での演技になると、細い手足が災いして、存在感があまり感じられないのです。
二人の脚の細さときたら・・・なんと私の小さな手でも握れてしまうほど、足首周りが17センチなのです。
宮嶋:
「本当に細い!」
井村コーチが決断したのは肉体改造!
一人平均5キロ体重を増やし、筋肉をつけることを命じたのです。
そのために、日本からトレーナーも呼び寄せ、食事の改善から指導が始まりました。
浅岡良信トレーナー:
「今まではお皿にチョコンチョコンと食事をのせていただけだったのが、はい、もう一回行っておかわり、もう一回、お肉はこれぐらい、そこから始まりました。」
浅岡さんはトレーニングの仕方と食事を組み合わせて教えていきます。
選手に聞いてみると、ニコニコしながら答えてくれました。
宮嶋:
「今日はたくさん食べますね」。
選手:
「今日は少ないほうですよ」
宮嶋:
「まだおかわりしますか」
選手:
「ええ」
選手:
「以前は食事に気を使っていませんでしたが、今はたんぱく質を重視して食べています。」
双子のティンティンとブンブンは高カロリーのものを摂るように指導されています。
宮嶋:
「食べる量増えた?」
ティンティン:
「二倍ですよ。前は、痩せていて、水の中で寒かったんですが、今は平気になりました。」
ブンブン:
「以前は体が弱くて、よく風邪を引いていたんですけれど、今は大丈夫ですよ。」
なんと、ブンブンはデザートにケーキを三つも取っていました。
左手にケーキ、右手にお箸。
浅岡さんは、体の内側にある筋肉、インナーマッスルを鍛える重要性を選手やコーチたちに伝えています。脚が長い中国選手にとっては、その長さが問題なのです。
浅岡トレーナー:
「長い棒をあげるにはインナーが強くないとだめですよ。」
柔らかな身体を持つ中国選手にとって、開脚はお手の物ですが、
これまで、インナーマッスルがなかったため、閉じるアクションに鋭さがなかったのです。
肉体改造開始から6ヶ月、食事の意識改革とトレーニングによって、
選手たちの身体には、徐々に筋肉が付きはじめてきたようです。
宮嶋:
「どこに付いたの?」
ティンティン&ブンブン:
「脚の太ももの裏と、腕ですね」
ちょっと触らせてもらいました。
宮嶋:
「とってもしっかりした筋肉ですね。」
肉体改造まで指令して、井村さんが求める演技とはどんなものなのでしょう。
井村コーチ:
「彼女たちは背が高い、手足が長い。きれいだけで、恐れられていなかった。それは、スポーツとしてのシンクロとちょっと違ったんじゃないかな。 『ここまで人間はできるか!』みたいなところが、スポーツだと思うんです。『人間の可能性にチャレンジする』スポーツとしてのシンクロを中国にやらせたい。」
スポーツとしてのシンクロをするためティンティンとブンブンが作り上げた見事な上腕二頭筋。これによって泳ぎがどのように変化してきたのか、9月下旬の中国選手権を覗いてみました。
泳ぐスピードが早くなり、一つ一つの動きが鋭さを増しています。
演技のラストで足技をたたみかけられるようになってきたのです。
一方、こちらは170センチを超える選手がずらりそろうチーム演技。
一回り大きくなって、今までにないオーラが感じられるようになってきました。
動きがパワフルになり、以前の美しいだけの演技とは明らかに違っています。
ラストの長い足技、これでもかというほど続けていきます。
出来なかったことが出来るようになる面白さを知って、選手たちは今スポーツシンクロの真髄に目覚め始めたようです。
手を抜くことなく、しっかり教えている井村さんは、こう語ります。
井村コーチ:
「練習って苦しくなるじゃないですか、指導者って。苦しくならないのは彼女たちのまなざしが冷めてないから。私を見る眼が冷めていないから。」
中国の地で、一人の日本人が汗を流しながら、シンクロの理想を追い求めています。
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【編集後記】
取材に行って一番驚いたのが、中国選手たちのおおらかさです。大声を上げて笑い、どうしたらいいかを互いに意見しあい、コーチに質問をぶつけてきます。中でもキャプテンの張選手は英語も流暢で、ボーイフレンドのことなども包み隠さず教えてくれます。日本でシンクロの取材をすると選手たちが何か規制しあうようにおとなしくしあうのとは対照的でした。
最近の日本の選手たちからは、何が何でも食らい付いていく情熱が感じられないと井村さんは嘆いていました。コーチが一生懸命に指導しても、「何を言っているんだか」とシラ〜とした視線を投げかけられるとすれば、それはコーチにとって耐えられないほどつらいことでしょう。井村さんが日本のチームから離れた遠因を見たような気がします。
それにしても、中国を代表するバレーボールの名アタッカーだった郎平が米国ナショナルチームの監督として北京五輪に臨みます。中国は自国の次に米国を応援するだろうといわれています。
日本の観客たちは中国のシンクロをどのように見つめるのでしょうか。
日本人の品格が問われる瞬間でしょう。
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