前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > エッセイバックナンバー
 
 
6月8日 子供の体と脳

切れる子供が多くなっています。
子供の体力の低下も指摘されています。
体力の低下と切れやすい子供の脳の間には、どうやら密接な関係があるようです。

これは4月15日のJチャンネルと、4月28日のBSニュースで放送したものをまとめたものです。



 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

         切れない子供にするために

「ランプがついたらゴム球を握ってくれる? はい、いきます。」
子供たちに説明しているのは、信州大学寺沢宏次助教授です。



信州大学寺沢宏次助教授


寺沢助教授が行っているのは、子供の脳の発達状態を調べるGO/NOGO課題。

赤いランプのときはゴム球を握り、黄色いランプがついたときは
我慢してゴム球を握らないというものです。


   


35年前と今とではこの課題で握り間違いをする子供の年齢が、大きく変わっています。

35年前は、小学2年生が我慢ができずに握り間違いを多くしていたのに対し、
今では小学6年生の間違えが最も多くなっているのです。
一体この4年のずれはどこからくるのでしょうか。


宮嶋:「キレやすい子供たちが多くなっています。今、子供たちの脳と体には大きな関係があることがわかりはじめています。」


    


脳の発達状態を調べるGO/NOGO課題。

黄色のランプがついたときに、「握らないで」と、ブレーキをかける役目をするのが
脳の前頭葉にある「46野」です。我慢しなさいという指令はここから出るのです。



前頭葉  46野 我慢やブレーキを担当


信州大学の寺沢助教授はこう言います。
寺沢助教授:「切れるというのは歯止めが利かなくなっているということです。
抑制機能が育ってきていないということが考えられるのです。」

頻発する少年犯罪、さらには学級崩壊、こうした問題の裏には、
我慢を指令する、脳の46野が未発達であることが考えられます。


寺沢助教授:「46野というのはいろんな刺激をたくさん受けて成長発達していくわけなんですけれど、今の社会ではそういったものがなくなっていて、刺激がないまま育っている 。」



寺沢助教授


宮嶋:「キレない子供にするためにはどうしたらいいか、今、幼児教育の段階から、全身を使ってみんなで遊ぶ、運動保育が注目されています。」





人間の脳は、9歳までに90%完成すると言われています。
特に、成長の鍵を握っているのは小学校に入る前の幼児期です。

「幼児期の脳は、運動をすることによって、著しく成長する」と唱えるのが
松本短期大学の柳沢秋孝教授です。
かつて体操競技をしていた経験を生かし、様々なプログラムを幼児たちに与え、その動向を27年にわたって研究してきました。
その研究対象となったのが松本市にある私立やよい保育園です。





松本短期大学 柳沢秋孝教授


柳沢教授は今から6年前に、誰もが運動好きになる、独自のプログラムを開発。

最初は四つんばいになって前に進んでいく熊さん歩きをします。



熊さん歩き


それができるようになったら、今度は片足を上げて3本足の熊さん歩き(片足熊さん)をしていきます。



片足熊さん


順を追って運動していくと、いつの間にか、側転ができる力を身につけているといったプログラムです。



側転


この運動保育によって、腕や足の力をつけた子供たちは、跳び箱がとべるようになったり、逆上がりができるようになっていきます。



運動保育によって動ける体をもった子供たちは、
自分たちの遊びの幅をぐうんと広げていくのです。
私たちが取材に行ったときもやよい保育園の子供たちはとってもダイナミックに体を動かして遊んでいました。


   
 


柳沢教授はこう話します。
柳沢教授:「昔は群れ遊びがあって、子供たちは自然と外で遊びまわっていました。しかし、今の子供たちはほっておいても自分から体を動かして遊びこむということができない環境ですので、少なくともわれわれのほうから 、大人側から動ける体まで提供してあげたい。」



運動保育が脳に与える影響を調べるために、今回、私たちは独自の調査を信州大学の寺沢助教授とともに行いました。
3年間、運動保育を受けた子供たちと、
東京都内にある保育園の子供たちを対象にした、比較較調査です。





まずは、赤いランプでゴム球を握り、黄色いランプでは握らないGO/NOGO課題です。

計測中から寺沢助教授の手元にあるコンピューターにはとてもいい反応が出ているようでした。
寺沢助教授:「結構いいんじゃないですか。集中力かなりあるような感じですね。」

GO/NO GO課題の正解率は、運動保育を受けている子供たちが87%。
一方、都内の保育園児は75%。
運動保育を受けている子供たちは、脳の46野がより発達しているようです。



さらにこんなテストもしてみました。
私たちが用意した歩数計を1週間付けてもらうことにしたのです。
宮嶋:「皆にこの歩数計を渡しますから、これをつけてくださいね。そうすると皆が一日に何歩歩くか、わかるの。うん。いいですか?」



運動保育を受けた子供たちの一日の歩数はおよそ1万3500歩、
都内の保育園児は7000歩。
一日の行動量で、二倍近い差が出たのです。


続いて行った体力調査でも、すべての項目で、運動保育の子供たちが上回っていました。、睡眠時間においては運動保育を受けた子供たちが9時間37分に対して、都内の保育園児は8時間54分。運動保育を受けた子供たちは動きつかれてぐっすり眠れるのでしょうか、なんと43分の差が出てきたのです。

さらに、運動保育の子供たちが小学校にあがってから、どのような生活態度であるかを調べる追跡調査がこの冬初めて行われました。
さまざまな幼稚園や保育園から集まってきた小学1年生を対象に行われたこの調査、運動保育を受けてきた子供たちの注意力や抑制能力が他の子供たちよりも高いことがわかったのです。



運動と、脳の46野はどう関係しているのでしょう。寺沢助教授に聞いてみました。



 

寺沢助教授:「体を動かすというのはストップと動きの繰り返しじゃないですか。我々の動作って言うのは、そうやって歩いたり、縄跳びしたり、ボールを取ったりしているんじゃないですか。制御をかけているわけじゃないですから、出力に対して。」
宮嶋:「だから46野が発達する。」
寺沢助教授:「はい、そう思いますね。」

身体を動かすことがいかにダイレクトに脳に働きかけるかを示すものがあります。
長野県諏訪にある諏訪東京理科大の篠原菊紀教授にご協力いただき実験をしてみました。

前頭葉の血液の流れをトポグラフィーと言う装置で測定してみると、
テレビゲームの時は、5分までは血流が上がるものの、それ以降は次第に血流が下がってきます。
脳の46野は活動が低下している状態です。


    
トポグラフィーによる前頭葉の血流測定

 
血流が下がり画面は青色に変化


では、運動をした場合はどうでしょう。
徐々にペダルが重くなっていくようにセットします。
きつい付加をクリアーしようとがんばるときに、激しく血液が流れ、46野野活動は増していきます。





血液が多く流れ モニターは赤く変化


篠原教授はこう解説してくれました。   
篠原教授:「筋肉をしっかり動かすのは大変なんですね。それを動かすのは意思的にがんばって動かさなくてはならないわけで、それは前頭前野がやるんです。」
がんばることは、何かを我慢すること、それが46野を育てる近道なのです。



長野県箕輪町では、行政として去年5月から運動保育を導入。9つの町営保育園の子供たちが、クマさん歩きやカンガルー跳びを始めました。



長野県箕輪町


木下南保育園 押野保育士に聞いてみました。
「お友達とのかかわり方が上手になってね。」

小沢保育士のコメントです。
「話をちゃんと聞けるようにだんだんなってきているのかな。」


園児の保護者の感想です。
「少しは落ち着いたかなという気がしますね。」

体を動かしながら遊ぶことで、仲間との付き合い方も学んでいく子供たち。



「哲学的な言い方をすると、最初の他者は身体なんですよ。
最初の他者は身体なので、その身体は他者と同じように思うようにはならないし、でも意欲を持って臨まなければ物事は変わっていかない。
身体とそういう付き合い方をしなければ、他者との付き合い方のモデルにもならない。」



 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
   
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > エッセイバックナンバー