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5月27日 体操の鹿島選手、冨田選手の強さと魅力

 
ニュースステーションでスポーツの特集を18年の間に150本近く作りました。
ソウルオリンピックの頃の橋本聖子さん密着ドキュメントや槍投げの溝口選手、有森裕子選手、スケートの岡崎朋美選手、スプリンターの伊東浩司選手など、とりあげたトップアスリートの数は数え切れないほどです。

番組は変わって報道ステーションとなりましたが、私の仕事は変わりません。
「もうそろそろいい歳なんだから」と肩をたたかれても不思議ではないのですが、もう少しやらせてくださいませ。どこまでやれるか、自分自身の限界に挑戦してみるのも悪くないなと・・・あれれっ?・・・なんだかアスリートのコメントのようになってしまいました。

さて、報道ステーションになって最初の宮嶋企画は「体操の鹿島選手と冨田選手」です。
このところ日本の男子体操陣は層が厚くなってきました。アテネでメダルが期待される競技ですね。
5月27日に放送予定のスポーツ特集、その概要をお伝えいたしましょう。
 

2003年8月、アメリカ、カリフォルニア州アナハイムで行われた体操の世界選手権で一躍脚光をあびた二人の日本人選手がいました。

種目別の鉄棒とあん馬で二つの金メダルを取った鹿島丈博選手。

6種目の合計で競う個人総合で銅メダルを獲得した冨田洋之選手。

ともに23歳。
いつも一緒に練習をしているふたりです。
 
鹿島丈博選手 冨田洋之選手

 

Go for ATHENS 鹿島丈博&冨田洋之 

 

宮嶋:「体操競技はまず人の真似をすることから始まると言われています。一緒に練習をする仲間がいかに大切かということでしょうか。」
 

千葉県印旛郡にある順天堂大学桜キャンパスの中にある体育館をのぞいてみると、
そこには去年の4月からセントラルスポーツに所属しながら、大学院に進んだ鹿島選手と富田選手の姿がありました。
ここで一緒にトレーニングをするようになって5年がたちました。


鹿島選手は、体操日本といわれる伝統のなかで、初のあん馬の世界チャンピオンとなりました。
 

宮嶋:「鹿島くん、顔ちいさいね。」
鹿島:「ありがとうございます。」
宮嶋:「ちょっと立っていただけますか?突然ではございますが・・・体操選手としては・・8等身ですねえ」

鹿島丈博選手の身長は169cm 体重は61kg

手足が短い日本人にあん馬は不向きと言われたのは昔の話。
鹿島選手は長い手と足でスピーディーに軽々と旋回をしていきます!
 

小学生のときにすでに将来性を感じさせる美しい動きを見せいてた鹿島君。
小学校4年生で跳び箱の上で上手に旋回をしている映像が残っています。
 
鹿島君小学4年生

中学3年生のときには、特別推薦で全日本選手権に出場し、いきなり鞍馬で優勝。もちろん史上最年少です。当時世界選手権のあん馬で銀メダリストとなっていた畠田好章選手を破っての快挙でした。
以来、「あん馬のスペシャリスト」と呼ばれるようになりました。
 
中学3年生 95全日本選手権 全日本選手権あん馬最年少で優勝

宮嶋:「あん馬では絶対負けないと?」
鹿島:「そうですね、ほかが弱いモンで、・・・やっぱり取れる種目でとりたいなというのがあります。」

体操競技は、あん馬のほかに5種目(ゆか、吊り輪、跳馬、平行棒、鉄棒)をこなさなくてはなりません。
筋力がつきにいタイプということもあり、力技が要求される吊り輪や、平行棒があまり得意ではありませんでした。
10代の頃から鞍馬では世界トップクラスの実力を持ちながら、なかなか世界の舞台に立てなかったのも、6種目総合で選ばれる日本代表になれなかったためです。
 

しかし、そんな鹿島選手が徐々に変わり始めたのは、大学で冨田選手と再会してからでした。
二人は子供のころから大阪にある、同じ体操クラブに通っていたのです。

大阪、阿倍野にあるマック体操クラブ。
ソウルオリンピックのときに一大旋風を巻き起こした清風高校コンビの池谷選手と西川選手が通っていたクラブに、鹿島君は3歳の時から、富田君は8歳の時から、ともに中学を卒業するまで通っていました。
 
マック体操クラブは池谷・西川を生んだクラブ 鹿島君3歳から体操を始める
富田君:8歳から体操を始める

二人が別々になったのは高校時代だけ。現在まで実に14年間、同じところで体操をしていることになります。

富田選手は運動神経抜群、その上、力技が得意で、苦手な種目を持っていません。
6種目全て強いオールラウンダーとして力を発揮してきました。
 

冨田選手の技を支えるのは強靭な筋力です。コーチも驚くその背筋!
背骨の両脇に背筋がこんもりとまるで骨のように盛り上がっているのです。
宮嶋:「こんな選手いますか?」
コーチ:「いえ、見たことないです。」
 
冨田選手の背筋は見事!

冨田:「鹿島はあん馬でトップに立っているので、僕は違う個人総合というところでトップに立ちたいということがあったので、そういったところが切磋琢磨という感じでやってきました。」

オールラウンダー冨田選手とスペシャリスト鹿島選手はともに刺激しあってきました。
 
冨田選手の技を懸命に見る鹿島 加納監督

順天堂大学体操部 加納監督はふたりの関係を次のように分析しています。

「冨田の方が感覚的なところとか、器用なところがあると思うんですね。鹿島は本来器用な人間じゃない。ですから、技を覚えるときも富田の方が早いと思うんですね。どういう感覚なのかっていう、彼らは選手同士でおしえあっていると思うんです。」

技に挑戦する選手だけがわかる感覚的なもの。
その感覚をお互いに確認しあいながら、ふたりは練習を進めていきます。
 

とはいえ、金メダリストの鹿島選手が俄然注目を浴びるようになってから、冨田選手の心境はどうなのでしょうか。

富田:「世界でトップがいる、まじかで取った、それも同じ歳で取ったというのが刺激になりますね、まあそういった金メダル次は僕が取りたいなっていう風に。」

同じ寮に住み、一緒に練習をし、実力も近い同い年の二人。
 

鹿島選手と富田選手を見ながら、ソウルとバルセロナの二度のオリンピックに出場した
池谷幸雄選手と西川大輔選手を思い出しました。
4月3日に代々木体育館で行われたアテネ五輪二次選考会に姿を見せた二人に伺ってみました。
二人にライバル意識というのはなかったのでしょうか。
 
池谷幸雄さん 西川大輔さん

池谷:「いいライバル意識って言うのも必ず、あいつが一つ技を覚えたら俺はふたつおぼえようって言うのもあるし、絶対口に出さなくてもあるんですよ。あるよな?」
西川:「うん。競技の中では絶対必要で。」
池谷「負けられへん、って言うのはありますよ。別に足引っ張るわけじゃないし、怪我させてやろうというわけじゃないし、相手もうまくなって、俺もうまくなっていこうということですよ。」

それにしても高校3年生でソウル五輪に出場した時など、池谷選手と西川選手はいつも一緒でした。
 
池谷幸雄選手高校3年生 西川大輔選手高校3年生

池谷:「毎日一緒に練習しているんですからね、合宿行ったら24時間一緒ですからね、兄弟より、親より一緒にいますからねえ(笑い)」

気心が知れている仲間の存在が、大きな試合では精神的な支えになっていたといいます。
1988年ソウル五輪で日本チームは目標の銅メダルを獲得。池谷選手はゆかで銅メダル、西川選手はあん馬で10点満点をマークするなど大活躍でした。
 
西川:「体操って基本的に孤独なんでね、器具の上にぽんと乗って一人でやらなくちゃならない、そういうところで、仲間がいる、一緒のところを目指している仲間がいるって言うのは心強いですよね。」
池谷:「やってる時はひとりなんで」
西川:「孤独な競技なんで・・」

演技をするときには自分だけしか頼るもののない体操競技。
だからこそ、仲間の存在はなにものにも代えがたいのかもしれません。
 

ふたりはどんな体操を目指しているのでしょうか。

鹿島:「シェルボ選手を見ていて、体操ってすごいな」」
冨田:「ずっとあこがれていたのはシェルボ。自分がやりたい体操はこれだなと。」

旧ソビエトのビタリー・シェルボ。
偶然にもふたりが理想とする選手は同じでした。

1992年のバルセロナオリンピックで団体、個人総合優勝に加え、4つの種目別でも金メダルを獲得し、体操史上最多の6個の金メダルを獲得したシェルボ。

演技中のどこをとっても美しいといわれた選手。
その動きを、今二人は追求しています。

鹿島選手は、どんな練習の時にも、つま先まで神経を行き届かせています。
 

鹿島:「誰が見てもきれいだなとおもうような体操をしたいと思っています。体の使い方だとか、指先までの使い方、一つ一つのことをちゃんと正確にできればいうことができればいうことがないかな。」

一方の富田選手は美しさの先にあるものを目指し始めたようです。
 

富田:「ずっときれいな体操を意識していたんですが、合理的な動きだとか、ただその技をきれいにするのではなく、演技全体を通じて流れのいい体操を意識するようになりました。」

美しい完成度の高い体操を目指すの二人。
それは世界の体操界に新しい流れを作りだす日本のスタイルです。

オリンピック2次選考会で現在冨田選手が2位、鹿島選手が3位。
5月に行われる最終選考会で6位までに入れば、はじめてのオリンピック、アテネへの切符を手にすることができます。
 

<カメラ:藤田貞則、音声:矢島貴崇、編集:松本良雄、選曲:伊東大輔、MA:濱田豊、ディレクター:宮嶋泰子>

編集をしながらも鹿島選手のあん馬にうっとり。本当に美しい。ピアノ線でつっているんじゃないかと思うほど腰が高く上がって、自在に旋回しているのです。おまけにそのスピードが速い。冨田選手の鉄棒では足がまるでピンセットのようにまっすぐで、動きもなめらか。美しい動きの体操はVTRの編集作業がとても楽しいですね。こんなに面白く仕事をさせてくれたふたりに感謝です。
ふたりにとってはじめてのオリンピック。一体どうなるんでしょうか。いつも練習しているように、自然体でいい演技をして欲しいなと願わずにはいられません。池谷君と西川君のように怖いもの知らずで爆発してくれるといいですね。
ああ、その前に5月のオリンピック代表最終選考会、無事クリアーしてくださいね!

   
 
    
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