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3月3日 Nステ宮嶋企画 3月4日に「アスリート魂・武田豊樹30歳」を放送

 
2年前のソルトレークシティー五輪にスピードスケート代表で出場し、500mで8位入賞を果たした武田豊樹選手。競輪学校に進み、新たな人生を歩み始めたことは既に昨年ニュースステーションでお伝えしました。その武田選手が、昨夏競輪にデビュー。圧倒的な強さを見せて、至上最短でA級からS級へと昇級しました。彼の強さを支えているもの、そのスポーツマインドに迫りました。
残り少なくなったニュースステーションでの宮嶋企画はこれが最後になります。3月4日に放送する予定の概略をここでご紹介しましょう。

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武田豊樹の競技人生は波乱万丈。
高校卒業後、スケートで実業団に入ったものの、成績が伸びず退社。
スケートと同じくらい好きだった自転車の道を選ぼうと、競輪学校を目指すものこれも入学試験不合格。
スポーツがすべてだった人生にピリオドを打とうとしたときに、声をかけてくれたのが、中学時代からの友人、スケート仲間の清水宏保選手でした。長野五輪で金メダルを獲ったあと、一緒に練習をしてくれる仲間を探していたのです。
 

武田豊樹選手は清水宏保選手の練習パートナーとして自らを磨いてきました。
2001年から2002年のシーズンは充実の時でした。
ソルトレークシティーオリンピックで8位入賞、ワールドカップ優勝など、スピードスケートで手ごたえを感じ始めた時、人生の選択が突きつけられました。

かつてチャレンジし夢破れていた競輪学校入学の資格が変更になったのです。
年齢制限ぎりぎり、28歳で伊豆修善寺にある学校に入学。10歳年下の青年たちとともに一年間競輪選手になるための鍛錬と忍耐の日々を過ごしたのです。
 

 

アスリート魂 武田豊樹 30歳
 

宮嶋泰子:「ソルトレークシティーオリンピックから2年、見事な転身を遂げた武田豊樹選手。彼が目指しつづけるもの、それは一体どんなものでしょうか。」

去年の4月、競輪学校での一年間を終えた武田豊樹選手。競輪選手としてのデビューはその3ヵ月後のことでした。
 

7月3日
レース前日、立川競輪場に自転車と荷物を持って入ります。
3日間のレースが終了するまで選手は競輪場から出ることは許されません。

武田:「入ると妙に緊張していますね。何だか動揺していますもん。おかしい。さっき車券の販売のところ車で通って、ぞっとしましたからね。今も胸が震えていると言うか。」

自転車のチェックを念入りに受けて、いよいよ明日はデビュー戦です。
 

いよいよ7月4日がやってきました。
武田選手の車番は7。
オレンジ色のウェアです。
控え室に入るなり、場所を間違えて、先輩に指摘されてしまいました。
武田選手のオッズはダントツの一番人気。
 

一周めから先頭にたち、積極的にレースを引っ張ります。
ジャンが鳴って、後一周。

自慢の脚力に物を言わせ、圧倒的な先行逃げ切りを見せました。2着との差は実に6車身。
 

レース後、呼吸を整える武田選手。
「ただ、まあまだ真っ白で・・」
 

翌日の準決勝も一位で通過し、3日目の決勝にすすみます。

車番は9、紫のウェアです。
ラスト一周。
 

あっ!

外側から入ってきた選手の後輪が、武田選手の前輪と接触。
デビュー場所で受けた予期せぬ洗礼でした。
 

武田選手は右の鎖骨を骨折し、2ヶ月間レースから遠ざかることになるのです。

武田:「競輪と言うのを肌で感じられたかなと。僕以外はどういう動きをするかわからないですし、本当に気持ちもぶつけていかなければいけないですし。」

競輪は格闘技であることを身をもって知ると同時に、自らの実力を一層高める必要性をひしひしと感じたのです。

9月12日 京王閣 A級決勝

怪我がいえ、再びレースにもどってきたのは9月10からの京王閣のレース。復帰戦で、予選、準決勝と1着、更には決勝も制して完全優勝をなしとげると、そのあとは面白いように勝利を重ねていきます。

目標は少しでも早くA級からS級へ上がること。
4000人近くいる競輪選手のうち、上位20%がS級にランクされます。
 

少しでも高いレベルで闘いたい、その思いは、スケートで世界のトップと闘ってきた武田選手の闘争本能なのでしょう。
そこにはアスリートとしての姿がありました。

武田:「職業として競輪選手をしていると言う意識はぜんぜんないですね。スポーツとしてひとつづつ努力をしていって、その結果で自分がうれしいと言うことで、スケートをしているときと変わらないですね。」
 

年が明けた1月12日
取手での決勝は武田選手にとって特別な日となりました。
A級からS級に昇級できるチャンスがやってきたのです。
 

この日優勝すれば、3場所完全優勝となり、特別昇級で、S級に上がることができるのです。
 

場所 初日 準決勝 決勝
12/20 花月園 1着 1着 1着
12/28 京王閣 1着 1着 1着
1/10 取手 1着 1着

車番は1.白のウェアーです。

7番手につけていた武田選手が動き出したのが、残り2周のとき。
そして、最後の一周。
会心の逃げでこのレースを制し、S級特進を決めました。
 

デビューから6ヶ月でのS級特進は史上最速記録。それも骨折によるブランクが2ヶ月あってのことです。

優勝して場内をゆっくり一周した武田選手はファンにこうコメントしました。「寒い中、ご声援ありがとうございました。今日は本当に競輪選手になってよかったなと思いました。」

デビューからここまで30回出走して一着が26回。ほとんどが逃げ切り。力でねじ伏せる走りです。

この3日間の稼ぎは、しめて90万円。
 

着々と実力をつけていく武田選手。
おりしも、今年はアテネオリンピックの年です。
武田選手はオリンピックを目指す気持ちはないのでしょうか。
1000mタイムトライアルに挑戦した武田選手に聞いてみました。
 

「こころ密かにアテネオリンピックを狙っていて」
「今競輪のためにやっているんで、まあオリンピックにつなげようかなとは思っていないですね。オリンピックでしたら正直スケートで目指したいですし、」

一番いい時期に突然スケートを止めてしまっただけに、本人の中には、やれば記録はまだ伸びるという自信があります。
しかし、現状で、スケートでオリンピックを目指すことは可能なのでしょうか。
 

競輪選手が自転車でオリンピックに出る場合には、様々な特別措置が用意されていますが、自転車以外の競技となると、話は別です。

競輪関係・例規集によれば、正当な理由なく、一年以上競輪に出場しない場合は、選手登録を消除されてしまいます。

日本自転車振興会 理事 和田輝彦氏に伺ってみました。
「正当な理由と言うものに該当するお話に業界が一致してそういう見解が出来上がれば可能と言うことになりますし、」

かつて自転車の世界選手権でプロスクラッチ10連勝を達成した元競輪選手中野浩一さんはこうコメントしてくれました。
「競輪選手だけれど、自転車選手として海外でやったというのがあるから、皆さん僕のこともご存知になっているんだと思いますけれど、そういう、実際に競輪場に行って、この選手を見たいという商品として見られるというのも必要だと思いますし、武田君がそういう形になるのであれば、競輪界にもメリットがあると。」
 

何はともあれ、競輪界で実績を作り、送り出してもらえるような環境を作ることが第一。

武田選手のS級デビューは1月19日の西武園でした。

車番は9.紫のウェアーです。
 

あと一周となったとき、武田選手は7番手から動きます。
6人を次々に追い抜く風となってゴールを目指します。
S級デビュー戦、見事な勝利でした。

前日まで長野で開かれていたスケートの世界スプリントからは、清水宏保選手のメッセージも送られてきました。

「いっぱい活躍して、ご馳走してほしいですね。」
「なに言ってんだか。こっちのほうこそ、ご馳走して欲しいですよ。」

スケートのすべりを見る武田選手の目は真剣です。
「ああ、速いな、久しぶりに見ると。滑りたくなってきましたね。でも二年間滑っていないですからね。今年一回ぐらい滑りたいと思っているんですが、宏保が日本にいるとき。」
 

武田選手の中で眠っている未知なる力を次々にたたき起こしていくもの、
可能性を信じひたすら自らを鍛えていくもの、そこにアスリート魂を見たような気がします。
 

<カメラ:綱川健史 藤田定則、編集:松本良雄、選曲:伊藤大輔、MA:濱田豊、ディレクター:宮嶋泰子>

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普段あまりなじみのない競輪場へ通っての取材でした。
近くで見ると自転車のスピードに圧倒されてしまいました。さらにはヘルメットとヘルメットがごつんごつんとレース中に当たっている様子などをみてもう、びっくり。
スピードとパワーではダントツの武田選手ですが、細かな競輪テクニックはこれからつけていかなくてはならないなど課題はたくさんあるようです。
勝つに越したことはないのですが、武田選手のレースを見ていると、勝つことを最優先させるというよりも、全力を出し切って自分らしいレースをすることを大切にしていことがわかります。人がすべての力を出して懸命に走る姿に我々は感動を覚えます。新しい発見がたくさんあった取材でした。
願わくば、武田選手に競輪界初の「自転車以外でオリンピックに行く選手」になってほしいですね。

   
 
    
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