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8月9日 テグラ・ロルーペ その5「マラソンと1万メートル」

 今年の7月21日ナイロビで行われたケニア選手権、オリンピック代表選考会女子一万メートルでロルーペは今シーズンのケニア最高記録32分13秒5で見事優勝を果たしました。標高1600メートルの高地、空気の薄いナイロビで行われたレースでこのタイムは立派です。この優勝はロルーペにとって大きな意味をもっています。マラソンのケニア代表の座はすでに手中にしていたロルーペですが、この1万メートルの優勝で、その代表の座も得られることになったからです。

「私は一万メートルも好きだから、オリンピックではマラソンと一万メートルの両方に出場したい。そして、二つの金メダルを取るのです。」

好き嫌いの問題ではないだろうに、なんと大胆なことを言うことを言う女性なのでしょう。


トレーニング中のロルーペ

男子ではこれまで五千、一万、マラソンの3種目に金メダルを取った1952年ヘルシンキ五輪のチェコスロバキアのエミール・ザトペックに代表されるように、トラックの長距離とマラソンの両方に出場して、メダルを取った人は少なくありません。

1968年のメキシコ五輪ではエチオピアのマモ・ウオルデが一万メートルで銀メダル、マラソンで金メダルを獲得しています。1976年のモントリオール五輪では私が大好きだった選手、フィンランドのラッセ・ビレンが5五千と一万に優勝したあと、初めてマラソンに挑戦し5位に入賞しています。また1984年のロサンゼルス五輪ではマラソンで2位になったアイルランドのジョン・トレーシーが一万にも出場して10位となっています。

でもこれは男子だからできたのです。

オリンピックは水泳競技から始まり、それが終わると陸上競技がスタートし、大会は折り返しを迎えることになります。男子のマラソンは陸上競技の最終日、すなわち閉会式の直前に行われるのです。一万メートルは当然マラソンの前に行われます。選手のなかには一万メートルに出場して、調整をしてからマラソンに臨むと言う人もいるほどです。

一方、女子のマラソンはオリンピックでは陸上競技の前半に位置づけられています。
ですから先にマラソンが行われて、一万メートルはその後に行われるのです。

シドニーオリンピックの予定を見てみましょう。9月24日が女子マラソン、中二日あいて、27日が一万メートル予選、中二日あいて30日が一万メートル決勝です。

マラソンを走ると1ヶ月は休養が必要とよく言われます。ジョガーが趣味で走るマラソンですと、毎月レースにでる人もいるようですが、スピードを競うトップ選手の場合そうはいきません。いくら強靱なロルーペと言えど、このスケジュールで果たして走れるのでしょうか。

「私は以前にマラソンを走った一週間後に、ハーフマラソンを走りました。ハーフマラソンを2回にわけると思えば、できないことはありません。」
彼女は笑いながらこう答えました。ロルーペが言っているこのマラソンというのはのは、なんと驚く事なかれ、去年世界最高記録を出したあのベルリンマラソンなのです。


トレーニング中のロルーペ

ちょっと99年のロルーペのレースを振り返ってみましょう。8月真夏、セビリアの世界選手権では1万メートルに出場し、ここで自己ベストをマークして3位に入賞。9月7日には五千メートルのトラック自己ベストをマーク。そして、9月26日ベルリンマラソンで自己の持つ記録をさらに4秒上回る2時間20分43秒の世界最高記録達成。さらにその1週間後、イタリアのパレルモで世界ハーフマラソンに出場し、1時間8分48秒で3連覇を成し遂げたのです。なんと5週間の間に4つのレース。それも見事なタイムと、成績で・・・・・!

書いているだけで私は頭がくらくらしてきました。怪物ですよ、ロルーペは。

間隔を置かずに次々レースにチャレンジできる、これはロルーペの回復力が尋常ではないことを示しています。そして、その回復力を支えるものは・・・・・

全てをお話ししてしまうと番組がつまらなくなってしまいます。あとはニュースステーションのロルーペ特集で詳しくお伝えしましょう。

とにかく、今のロルーペには自分の強さを示す指標として、2種目出場という目標があるようです。シドニー五輪では自分がやりたいと思うことを存分にやってみよう、そんな彼女の意気込みが取材を通じて感じられました。

最後にロルーペの言葉を紹介しておきましょう。


トラックでの美しいフォーム

「もちろん体調と相談をしながらのことですが、私は是非やってみたいんです。私はいつも非常識といわれることにチャレンジしてきましたからね。
ケニアでは女性が走ることは非常識と考えられてきたのですよ。みんなに白い目で見られながらもその中でチャレンジをし、世界最高記録を出すまでになりました。
オリンピックではマラソンと一万の二つの種目を制覇したいのです。男性にできて女性にできないことはないでしょう?」

ケニアに「二兎を追う者、一兎をも得ず」ということわざがあるかどうかは知らないけれど、もしあるとしたらこんな言葉かもしれません。「ライオンを獲たいのなら、鹿を追え。」なんてね!

いずれにせよ、現在標高1500メートルのスイスのダボスでロルーペは「一石二鳥」のためのトレーニングに余念がないのです。

調子に乗ってロルーペリポートを書いていたら、「その5」まで来てしまいました。
この調子で選手一人一人を紹介していくと、オリンピックまでには2人くらいしか紹介できなくなってしまいます。これはまずい! 少しペースをあげて、ざざっと行くことにしましょう。次回は・・・・誰にしようかな?

 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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