台所で調理をするロルーペ
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ミューゼリーに
ロイヤルミルクティーを入れる |
ウガリを試食してみる |
チェプチュンバが作ってくれた
チャパティ |
ドイツのデトモルトで取材を始めた二日目の朝、ホテルで朝食をとっていると突然「日本の方ですか?」と声をかけられました。
こんな片田舎(失礼!)で日本人に出会うとは思ってもいなかったのでびっくり。聞けば、デトモルトには有名な音楽学校があり、多くの日本人が留学しているとのこと。そのまま町に残る人も少なくないそうです。
私たちがロルーペの取材でこの町に来たことを話すと、「ああ、よく私たちがいくアジア食材店で買い物をしていますよ。」と教えてくれました。ふうん、アフリカ食材店なんてないんだろうな、・・・アジア食材店ねえ??・・・などと妙な納得をしてしまったのです。
ロルーペは、ケニアの3人のランナーと一緒に一つの家に住んでいます。そのうちの一人はチェプチュンバ選手。ロルーペ同様シドニー五輪のマラソン代表で、ロルーペの練習パートナーでもあります。99年のロンドンマラソンを2時間23分22秒で制し、日本にも何度か来ています。あと2の二人は20歳と23歳の若いこれからの選手です。
彼らの家はもともとは公営の別荘として建てられたもので、それをマネージャーのワーグナーさんが市から払い下げのあったときに購入したものだそうです。とてもコンパクトな家で、ベッドルームが2つ、居間とバスルーム、そして小さなキッチンが付いています。
朝9時半、彼女たちの家を訪れると、小さなキッチンから陽気なケニアの音楽が聞こえてきます。ラジカセから流れてくる歌と、それに合わせるようにスワヒリ語で喋る女たちの笑い声。一体ここはどこ?
妙な錯覚に襲われます。
覗いてみると、ちょうどロルーペがロイヤルミルクティーを作っている最中でした。
ケニアの紅茶をミルクに入れて、火にかけ20分。ゆっくりと煮出して、それを漉します。大きなピッチャーに入れて、みんなのマグカップになみなみとつぐのはロルーペ自身です。
勧められて私もいただきました。朝の冷えた身体がふっと溶けていくようで、これが実においしい! 朝練習のあとの身体にはきっと嬉しい飲み物なんでしょうね。
ランナーには、脂肪を燃焼させるのを助けるという意味でコーヒーを好む人が多いのですが、彼らは紅茶党。そういえばケニアは旧英国領でしたね。
ロイヤルミルクティーと一緒にロルーペがもぐもぐと食べていたのがミューゼリー。
スイスやドイツの人は朝食を手軽にとるときによくこのミューゼリーを食べます。乾燥した穀物や木の実などをブレンドしたもので、これにミルクやヨーグルトをかけていただくのです。アメリカのシリアルみたいな感覚ですね。
このミューゼリーはスイスの医学博士が、現代人の誤った食生活を是正するための食事として開発し、20年ほど前から爆発的に広まったと言うことを、かつてスイスに留学していたバレーボールの荒木田裕子女史に聞いたことがあります。まさにランナーにとってはうってつけの食事なのでしょう。
昼すぎ、ロルーペに呼ばれて台所へ行くと、これからケニアの料理を作るので見ていろと言います。トウモロコシの粉に水を入れて火にかけます。しゃもじでゆっくりかき混ぜながら5分。ねっとりとしたものができあがりました。ええ?これで終わりと言うほど簡単。ああ、これがアフリカの人がよく食べているあれですね。そう「ウガリ」です!
味見をしろとフォークを渡してくれました。皿に盛られたこんもりとしたウガリをフォークで切るようにして口に運びます。食感は「そばがき」のよう。味はほのかな甘み。でもこのままではのどにつかえてしまいそう。ミルクを一緒に飲めば、口の中で溶けておいしいだろうなと思った時、ロルーペが教えてくれました。
「これを手でちぎって、肉や汁につけていただくんですよ」
なるほど、それはおいしいかもしれない。きっとウガリは日本の白飯に相当するもののでしょう。
マネージャーのワーグナー氏によれば、ドイツで売っている一般の粉では細かく挽かれ過ぎているので、ウガリのためには特別な粉を買いに行かねばならないとのこと。なるほど、それが例のアジア食材店なのかもしれませんね。
我々が台所でわいわいやっていると、チェプチュンバが顔を出し、チャパティがあるからみんなで一緒に食べようというのです。出された皿を見てびっくり。ええっ?!
これ全部チェプチュンバが焼いたの?20枚はあると思われるチャパティ。水で溶いた粉を薄くフライパンにのばし焼いたもので、クレープを厚めにしたようなものです。形を丸くしたインドのナンを想像していただければ間違いないですね。彼女たちはそれをくるくると巻いて、紅茶と一緒に食べていました。これまたなかなかいけるお味でした。
日本に戻ってから知ったのですが、チャパティは主に客用とのこと。きっと我々が来ることを知って、作って待っていてくれたのですね。有り難うチェプチュンバ。
彼女たちはこうしたケニア独自の食事ばかりをしているわけではないようです。夕方20歳になるミルカが作っているものを覗いたら、トマト、ナス、ズッキーニなどの野菜を炒め煮にしていました。フランスのラタトゥユのようなものです。これにスパゲッティを添えて出すそうです。ケニア流とヨーロッパ流をうまく組み合わせ、食生活を豊かにしているようですね。
マラソントレーニングでは一週間に230キロは走り込むというロルーペたち、その食事の実体は、ちょっと取材しただけなのではっきりと断言できませんが、あくまでも野菜中心といったところでしょうか。あまり肉を食べているところは見ませんでした。
日本の選手たちには食事を作ってくれる栄養士さんが付いている人達も少なくないのですが、食事、洗濯とケニアの選手たちは時間をぱっぱとうまく使って実によく働きます。生活と走ることが一つになっている感じなのです。子供の時から働くことが当たり前の環境の中で育ってきたからなのでしょう。
次回は有森裕子さんも「ロルーペって苦労人なんですね。」と感心する、その部分にスポットを当てます。なぜロルーペが強いのか、その精神的よりどころについてです。
注:<荒木田裕子女史>1976年のモントリオール五輪女子バレーボール金メダリスト。コーチとしての勉強のため、スイスやドイツに留学。現在は放送の解説などで活躍。 |