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8月9日 テグラ・ロルーペ その2「マネージャー」


ロルーペ選手

ロルーペ選手とチェプチュンバ選手

ワーグナーさん

女子マラソン世界最高記録保持者、ケニアのテグラ・ロルーペ選手のコーチ兼マネジャーはドイツ人のワーグナーさん。
ワーグナーさんはデトモルトのハイスクールで数学と体育を教えている教師です。若い頃から走ることが大好きで、自己流でトレーニングをしながら、週末になるとヨーロッパ各地のレースに出かけていたそうです。

ある時、レースの参加手続きで困っているタンザニアの選手と出会い、彼を助けたことがきっかけとなり、いつの間にやらアフリカの選手たちの面倒をみるようになったと言います。

実は、この15年ほど、右も左もわからないアフリカの選手たちをだまして、賞金の一部、いえ、かなりの部分を自分の懐に入れてしまう悪徳マネージャーも出現してきました。
その点、ワグナーさんはあくまでも選手第一主義。
人々を助けたいという思いからこの仕事を始めただけに、悪徳マネージャーの話をするときにはとても悲しそうな表情を見せます。陸上界では彼の面倒見の良さはつとに有名で、次から次へと選手たちが彼を頼ってやって来ます。オリンピックイヤーの今年はとうとうアフリカ勢以外のロシア出身の選手まで面倒をみることになりました。

テグラ・ロルーペ選手は世界の賞金レースでお金を稼ぎたいとやってきた初めてのケニア「女性」でした。ドイツにやってきたときは19歳。

ケニアでは、女性は早く結婚して子供を産んで家事をするのが当たり前でした。女が走って競技に出場するなんてとんでもないことだったのです。高地民族のケニア選手がオリンピックなどで活躍するようになっても、ランニングについてきちんと教えてもらえるのは少年だけでした。少年より速く走れても、ロルーペは女性であるという理由で、正式なトレーニングを受けることができなかったのです。

その悔しさが、きっとロルーペ選手の心の奥深いところにいつもあったのでしょう。
デトモルトのワグナーさんの元でトレーニングを始めると、その力は飛躍的に伸びていったのです。

ロルーペが出会ったのがワーグナーさんでなかったら、果たして世界最高記録を出すまでの選手に成長していたかどうか疑わしいところです。
ワーグナーさんは選手に必要なことを的確に与えていきます。
コーチとして練習メニューを作り、マネージャーとして大会への出場交渉及びその手続きを行い、トレーナーとして毎晩選手たちのマッサージを行う日々です。
ロルーペはワーグナーさんのことを「お父さん」と呼ぶほど、信頼しきっているのです。
それにしても、学校で教鞭を執った後、これらの仕事を精力的にこなしてきたのですから、彼は信じがたいほどにタフです。もっとも、今年はオリンピックがあるので、そうそう学校を休んでもいられず、7月からは一年間、休職するとのことです。

そういえば、有森裕子、鈴木博美、そしてシドニーの代表になった高橋尚子選手を育てきた小出義雄監督もかつては市立船橋高校の先生でした。学校の教師というのは、一人一人の個性や長所を見極め、それを伸ばすのが本来の仕事ですから、ランナーを育てるのが上手というのもなにやらうなずけるような気がします。

さて、ロルーペはデトモルトでは小さな家にケニアの女子選手3人と一緒に生活をしています。その生活ぶりに関してはまた次回お伝えします。

 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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