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Vol.4 (2001/03/27) 
フランス戦直後!日本代表・Fマリノス中村俊輔インタビュー
 
日本時間2001年3月25日。
フランス代表に挑んだ日本代表は、
5−0というスコア以上に打ちのめされる結果に終わった。

2001年3 月28日 午後2 時30分。
サンドニでの大敗からわずか3日というこの日。
私は中村俊輔にインタビューする機会を得た。
横浜Fマリノスのクラブハウス。
全くといっていい程力を出すことができなかったJリーグのヒーローは、
どれほどまでに打ちひしがれていることだろう。
正直、このタイミングで彼の話を聞くことができることを幸運にこそ思うと同時に、
複雑な緊張を覚えた。

圧倒的なフランスの力に屈した日本。
唯誇れる存在は中田英寿のみだった。
そう感じるしかあり得なかったフランス戦。
心に決めたのは。
あの試合を見たとおりに。
あるがままを、ありのままに。
決めつけず、客観的「事実」だけを投げかけよう。
耳を傾け心を傾け、
彼のこれからを感じるために。

取材で彼に会うようになり2年という月日が流れた。
中村俊輔は、アスリートとして、普段の生活レベルから自らを律している男だ。
食事にも当然気を遣う。
午前の練習後、昼食を終えた中村俊輔へのインタビューは、
だからこそ自然に、こんな雑談から始まっていくことになった。

萩野志保子(以下はぎの):美味しいもの食べた?

中村俊輔(以下俊輔):今日は肉食った。

はぎの:今日は?

俊輔:うん今日は。きのうは魚系にした。

はぎの:考えてるんだ?

俊輔:一応は。

はぎの:フランス戦は、ピッチの状態がテレビで見ていても物凄かったんだけど、あれは試合の前にちゃんとチェックしたんですか?

俊輔:うん、しました。
試合の前の日も練習できたし、その日はもっと雨が溜まって、水が溜まってるって感じでぐちゃぐちゃだったんで、ポイントもっと長くする人いたし。ポイント履いてても滑る人・・・、現に俺がこけてたりしたんで、慣れなのかなって。
ああいうグラウンドでやってれば、自然と足腰強くなると思うし・・・、ボールの扱い方も向こうはしっかりしてた。固定(固定式スパイク)でやってる人だっていたんじゃない?向こうのチームには。相当足腰がしっかりしてるのだとは思いますけど。

はぎの:じゃあ、スパイク含めて対策はしていたんですね。

俊輔:(苦笑)・・・うん、まあ・・・。スパイクはちゃんとポイントで、履いてやってましたけど。

はぎの:試合の直前のウォーミングアップはどうでした?あのピッチで。

俊輔:(競技場の)中が使えなかったんで、室内の狭いところでやってました。

はぎの:じゃあ、ピッチにはキックオフからしか上がれなかったんだ。

俊輔:うーん、まあそうです。その一日前に練習が出来たの、それくらいです。

はぎの:実際にあの場でああいった試合をして、一番感じた自分と世界レベルとの差って何ですか?

俊輔:うーん・・・・・なんだろうな、いっぱいあるな。
スピードかな、「全部」の。

はぎの:「全部」のっていうところがポイントなわけですね。

俊輔:うん。まあ、単純に普通にフィジカルが高い、普通にっていうか、とにかくフィジカルが高いのは感じたし。
だから日本は何ていうか・・・、やっぱヒデさんがあのグラウンド、あの相手でも出来たと思う。うん・・・、まあ、そういうのも色々ありますけど。
「スピード」、単純に走るスピードだったり、判断のスピードだったり、ゲームがこう流れてるから今このプレーをするとか。あとサポートのスピード、そういうの「全部」。

はぎの:全て?

俊輔:うん。

はぎの:そのレベルに近づくために、今一番自分がしなければいけない対策っていうのは何だと思いますか。

俊輔:「経験」・・・・だと思います。ああいう試合を何試合もして、どんどん自分が何も出来ない試合を、一年間で多くすること、と、それに慣れる事。そういう速さとか。それが一番だと思いますけど。

はぎの:何も出来なかったって思いました?

俊輔:見ての通り・・・・

はぎの:これ正直に言いますけど、俊輔さんという、日本人のサッカーファンにとっては特別な存在が、あんな風に何もできないというシーンを見て、やはり衝撃はあると思うわけですよ。

俊輔:ほう・・・。

はぎの:だから、ご自身は相当ショックを受けているんじゃないかと思ったんです。それは、どうでしょう。

俊輔:いや、別に日本で上の方だとは全然思ってないし、世界に近づけてるとも思ってない。ただ、近づきたいとか、通用するようにしたいとか、気持ちはあるんで。まあ、ああいう試合をして、終わって・・・、うーん・・・、反省とか、そういう何も出来ないショック・・・・・ショックっていうか、ま、そういうの最初はやっぱりありますけど。くやしいとか、何が自分に足りないとかがわかって、もっと向上心っていうか、意欲とかも出てくるほうなんで・・・うん。

はぎの:うん。

俊輔:うん、‥う〜ん・・・、やっぱり周りにはどう言われるかわからないですけど。
グラウンドがどうのこうのとかそういうんじゃなくて、「自分が何も出来ない」、そういうのを受け止めて、また練習します。その繰り返しです。
したらやっぱうまく・・・、ああいう経験が無いと普通にやってるだろうし、何が足りないかわからないので、やっぱり経験が一番だと思いますけど。

はぎの:試合中に中田さんに何か言われているシーンが映ったんですね、中継で。
色々言われました?

俊輔:うーん、何だっけな。アドバイスですよ。ああ、4バックの真ん中二人の間がポッカリ空いてたから、「ポッカリ空いてるんだ。俺はそこに走り込むから見ててくれ」っていう事。その前にパスしてミスしたんですよ、長くなっちゃって。だからあの時にまあ、うん。
結構「俺を見ろ」って指示が多いですよ。他の人にも。「もっと早く出せ」とか。そうしないと自分が生きてこないと思うし・・・、あ、ヒデさんがね。自分がいいプレーして、チームのために勝ちたいじゃないですか。
そしたらやっぱり仲間に要求しなきゃいけないし、それであの時僕に要求を。でも、オリンピックの時みたいに近くでやる時間があったらいいんですけど、そういう訳にもいかない。あの距離で出した、(その結果)長く行っちゃったんで。そういう判断の速さと、ゲームの流れを読む力とか、あのグラウンドでも長いボールをしっかり出せる技術とか。本当、単純な事の差が、もうそこで開いてたと思うし。うん。だからもうこんな(日本の)いいグラウンドで蹴れないんだったら、多分ああいうグラウンドでやっても絶対無理だし。50回蹴って50回いくくらいじゃないと、ここ(日本)だったら。そういう追求みたいなのをもっと厳しくしないといけないし。うん。やる事がいっぱいまた増えて、良かったです。

はぎの:良かった?

俊輔:もっといい試合したら良かったけど(笑)

はぎの:でもそれを知るきっかけになったって事ですね、

俊輔:まあ、そういうのを・・・、そういうプラス思考で。

はぎの:そうですね。素直な感想で言うと、あの試合、中田さんが唯一向こうとやり合えてたって言う風に映りました。

俊輔:うーん・・・1対1の連続になるんですよねやっぱり、強いところだったりすると。
アジアカップとか、そういうアジアのチームだったら、1対1でちょっとかわしてパス出したりとか、そういうのが出来たけど、やっぱり向こうはそうはいかないから。パスだけでちょっと顔出してっていう風にはなかなかいけなかったですね。向こうの方がかわす技術というのかな、そういうのを11人全員が持っていたんで、アタックになかなか行けない状態が続いてた。
そういう、本当に1対1の個人技術だったり、その他の、色々流れるゲームの流れを読む力だったりとかが、全員が備わってる。そんな感じがしました。
なんかサッカー知ってる・・・。

はぎの:自分の技術が全部潰されちゃうっていうのを味わってどんな気分でしたか・・・
発揮する前に潰されちゃうって。

俊輔:・・・・・・・・・俺は何もしてないまま前半で交代かあって感じ。何も出してないままで交代かあって感じ。うーん・・・要は出させてもらってないという感じなんですけど、それを本当、ワンプレーでもやらしてもらってないから。向こうの組織みたいなのにと、ディフェンスのそういう、何か戦術みたいなもんかなあ・・・
要はなんか見せかけだけの技術を今までやって来たのかなあって感じで、
またやり直し、一からって感じになりましたけど。

はぎの:それは大きな経験でしたね。サッカー人生の中で。

俊輔:そう・・・、そうですね、うん。

はぎの:これからの俊輔さんが、現状Jリーグで磨いていくという事になるわけですが、そこでどんな事やっていけると思いますか。

俊輔:‥‥・・・うーん、まあ、いいプレーするのもいいと思うんですけど、普通のプレーの質をもっと追求していったり。いいプレーして、例えばこれが強い国だったら絶対パス通らないとかあるじゃないですか。
もっとパスを強くしたり、もっと速く走ってる。もらうために味方に要求したりとか、そういうのをどんどん追求しないと、またああいういいディフェンスされた時に、なんか自分のそういうのって技術じゃないですか。そういう風にならないように高い意識を持ってやりたいです。

はぎの:Fマリノスの練習に臨む、「精神」というのかしら、変わりましたか?
「こうしてかなきゃいけないだろう」って。

俊輔:うーん、もう今年になった時点で変わってましたけど‥・・・、マリノスというか、僕自身のサッカー感みたいのが変えさせられるぐらいの、結構そういう出来事だったので、またちょっと悩む事もありますけど。・・・・うん、ま、前とはやっぱり違う意気込みでやってます。

はぎの:じゃあ、Jリーグでも、もう一つ何かを描きながら臨む俊輔さんを、これから見ていけるということですね。

俊輔:うーん・・・、ま、見えない部分のほうが多いと思いますけど。そういうのを追求していけたらと思います。

はぎの (胸をこぶしでたたきながら)ここに眠ってるわけですね。

俊輔:(笑)まっ、あんま出す方じゃないんで(笑)

はぎの:これから期待してます。ありがとうございました。

一旦挨拶をして終了のポーズを取ったものの、
胸の内を語ってくれる中村俊輔の全身から、
「もっと話してくれる」という空気を感じた私は、
続けた。
カメラは回り続けている。

はぎの:本当に速くてビックリしましたよフランスは。

俊輔:いやあ、みんなショック受けてますよ。
ショックっていうか、やっぱ国際試合だってある程度できるじゃないですか。その何ていうかな、誰か一人すげえスーパープレーとかしても何だかんだ言っても、押されて向こうの技術がうまいって言っても、ある程度出来るじゃないですか。それさえもないから・・・。
これがサッカーだみたいな。
だからなんか、ボール取りに行くイメージとかも湧かないし。こっから攻めるとか、糸口も普通あるじゃないですか、何か。
糸口もないぐらい。
何かそういった時に、やっぱり個人能力がみんなもうちょっと・・・、例えば僕だったら・・・、パスもらっても後ろに下げないでちょっとかわす能力があったら、そのままドリブルでちょっと行って出て来た所を他の人にパスして展開していけるかもしれないけど・・・。
何か一人じゃないんですよ。
例えば「ボールを追いかけてスライディングで取るっていう動作をあいつは今してる、じゃあ俺はこっち。」とかで、4枚の後ろの人もガーッとあがってくるタイミングとかも全部、全員でそのボールを取りに行ってるから、別にみんな動いてないんですよ。だから全然疲れてないでしょ向こうは。
でこっちはやっぱ・・・、っていうか、うーん‥ああいうのをどんどんやらないといけないなあとは思いましたけど。

はぎの:愕然としたんだ?

俊輔:・・・・・・・(長い沈黙)・・・うーん、と愕然・・・、なんか全部(苦笑)。そういうのもしたし、やる気ももっと出て来たし、このままじゃいけないなって感じたし。
こういうのがうまいって言われるプレーなんだ、こういうのが客を喜ばせたりするプレーなんだ、とか、こういう風にすれば点が入るんだ、とか、なにか習ってるみたいな感じ。

はぎの:じゃあ、いい経験でしたね。

俊輔:(笑)うーん、それじゃまずいんだけどね。

はぎの:これから上がってくわけですもんね。‥だって気付かなかったかも知れないわけでしょ、ああいう目に遭わなかったら。

俊輔:まあそうだね。‥そうっすね。まあ、そういうのはいろいろ僕の中にあるし。例えば、昔は全然試合に半分ぐらいしか出てないのにいきなり代表に入れてもらって代表行って、「あー全然レベル違うなあ」って感じて。
「じゃあ代表のレベルに追いつくには何が必要か」とかわかったし。
(片手で下り坂のジェスチャーをしながら)1回こう行ってってのは俺の中じゃどっかいつもあるから。
こうなっても、またこうなれば(手で上がっていくジェスチャーをしながら)
いいし、うん。そんな落ち込む歳じゃないし。

はぎの:何年後かに、「こんな事あったな」って言ってるぐらいのレベルになってる事を楽しみにしてます。

俊輔:うーん・・、でないとあんまり意味が無いと思う。

冷静に客観的に、自らの今を見つめ話すことのできる中村俊輔に、安心を感じたのも事実。

「日本のファンタジスタ」。あらゆる賞賛を送り続けてきたマスメディア。
その一方で、FKばかりを絶賛されることを再三悔しがり、
誉められるたびに首を横に振り続けた中村俊輔。
「もっと上のレベルへ」
ことあるごとにそう言い続けてきた彼の努力。
やっと積み重ねてきた自信と自負は、サンドニで無惨にも砕かれた。
過信だったと笑うことができるだろうか。
自信を砕かれ、壁にぶち当たった彼は、
ただ落ち込み墜ちていきはしない。
既に越えてやろうと奮起している。
ショックと期待の精神バランスを保つことの辛さを、私などに推し量ることはできない。
時に気怠ささえつきまとうやもしれないと。
想像。するだけだ。

これからを祈ろう。
中村俊輔が、真に日本を代表する存在ヘ上り遂げたとき。
このサンドニは、愛おしく切なく思い出す分岐点となっているかもしれないのだから。
 【後記】
フランス戦直後の中村俊輔が、時に長い沈黙の中で俯き仰ぎ語ってくれた言葉たちを。
その言葉のままに掲載することにこそ意義があると確信し、
敢えて一切の構成を加えず、忠実に活字に興したことをお伝えしておきます。
 
萩野志保子のGrassWorld
  サッカー中継、「速報!スポーツCUBE」のサッカーコーナー担当。サッカーを愛してやまない萩野志保子が、Jリーグ・日本代表取材記はもちろん海外サッカーなど、萩野ならではという視点で綴っていきます。  
 
    
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