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2月10日 下克上

2010年1月4日東京ドームのメインカードは
「中邑真輔対高山善廣」の一戦でした。
今回はあの日を巡る後輩アナとの壮絶な下克上絵巻物をお伝え致します。

私にとって「高山善廣」は特別な存在です。
入社して、初めて殴られた選手です。
カメラの回っていないところで、本気で怒られた選手です。
愛情を持って、厳しく育ててくれた選手です。
その「高山善廣」が、新日のリングに戻ってくる、私は電撃的な動きでもって、
帝王を向かえ撃とうと考えました。


高山善廣選手

まず、私は情報収集の結果、とびきりの情報を掴みました。
その情報とは、1月4日に向けて、
「ワールドプロレスリング」が高山さんのインタビューを行う予定であること、
そしてインタビューは大西アナウンサーが担当すること、という内容でした。
その情報を聞いてからすぐに、私は自分の仕事のスケジュールを確認しました。
すると、その「Xデー」は、なんと「休み」になっていました。

ここで考えられる作戦は二つあります。
一つは、インタビュー担当の大西アナを引き摺り下ろし、
先輩の私がインタビューを行い、高山さんに、私の誠意を伝える作戦です。
もう一つは、「休日」であるにも関わらず、プライベートで参加し、
「休みにも関わらず、私、吉野真治は高山さんのために、
このインタビューに来ましたよ。」と誠意を見せる作戦です。
私はどちらが、
より高山さんに対し「誠意」を見せることになるのかを考え抜きました。
そこに、後輩の大西アナウンサーを気遣う配慮は一切ありません。
相手は「帝王:高山善廣」ですから、
ここは、より慎重に、冷静に行動しなくてはいけません。
大西アナ への「情け」は、隙を見せることになります。

考え抜いた私は、休日をアピールする作戦を決断しました。
そして、当日、「休日」の私は、スーツ姿の大西アナに対し、
スラックスとシャツというややラフな格好でインタビュー現場に向かいました。
あくまで「休日」モードをアピールするためです。
現場に到着して、担当のディレクターから
「早いね、さすがだね。大西より早いね。」
「あれ、お土産ないの?お土産あったほうがいいんじゃないの?」
私はすぐに、現場付近を物色し、帝王に上納する、お土産を買いにいきました。

慌ててお土産を購入して、インタビュー現場に戻るやいなや、
遠くから金髪の大男の姿が目に飛び込んできました。
原宿の雑踏の中を、モーゼの十戒のように、道が開いていきます。

吉野「ご、ご無沙汰しております!!今回、お世話になります!!」
帝王「おう、元気そうだね。よろしく。」
吉野「こちらこそ、よろしくお願いします!!」
私は心の中で快心のガッツポーズをとっていました。
よし、出だしはOKだ。

ところが、ここで、帝王の口から衝撃の言葉が飛び出しました。
帝王「なんだ、吉野、来ちゃったのか。
    来なかったら、お前、偉くなったって言おうと思ったのに。」

私は、心の中で呟きました。
「危なかった…。やはり、来ないと不味いことになったんだな。」
私は、若干の動揺からか、早くも作戦を発動させました。

吉野「今日は私、休日ですので、あくまでプライベートで来ています。
    インタビューはそこにいる大西が担当します。」

大西「よろしくお願いします。」
帝王「え、そうなの。」

ここで、ダメ押しのお土産作戦も発動します。
吉野「これ、お口にあうか、わかりませんが、奥様と一緒に召し上がって下さい。」
帝王「お、ありがとう」
高山さんが登場する直前に購入したばかりなのにも関わらず、
あたかも、事前に準備してあったかのような心遣いを装いました。

私の作戦は完璧でした。
そのごの高山さんは終始、機嫌が良く、
大西アナ によるインタビューも充実の内容となりました。
しかし、最後に、まさかの駄目だしが待っていました。
それは、全ての取材が終わり、帰り際に放たれました。
吉野「本当に高山さんには育ててもらい、感謝しております。」
帝王「まあ、あのときの吉野は本当に酷かったからな。
    今日の大西君のほうがはるかに良いよ!!」
   「吉野と違って落ち着いているし、インタビューのやりとりも良かったよ。」
   「吉野、来なくてよかったんじゃないの?」

大西「いえ、いえ、そんなことないです」

帝王は入社3年目にも関わらず、
部長クラスの落ち着きを持つ大西アナに対し好感を抱いているようでした。
そして、大西アナは私への気遣いか、横目で私を見ながら、
口では私を立てつつ、その表情は私への哀れみで満ち溢れていました。
こうして、私の「帝王:高山善廣」を攻略する作戦は、
その効果として大西アナウンサーの評価が高まることになってしまいました。
私の高山さんに対する「誠意」を踏み台に、
大西アナウンサー は羽ばたいたのです。
そこで私は気付きました。
そうなんです、全ては下克上を狙う、
大西アナウンサー の手のひらの上で転がされていたのです。
高山さんに対してテンションの高い吉野を尻目に、
大西アナウンサー は冷静に効果的な動きを見せていたのです。
いやはや、これだから「プロレス」は面白い。


この笑顔からはすでに貫禄が漂います
 
 
    
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